第104話 後始末とボランティア
一度部屋を出て、外で見張りをしているみんなにマーガルの討伐を知らせた。
その後間もなくして、数人のマクダットが部屋に入ってきた。どうやら残党のようだ。
奴らは最初俺達に槍を向けてきたが、マーガルを見た途端に槍を落とし、頭を垂れた。
それを見て、イルが言った。
「降伏、か。賢明な判断だな」
とりあえず奴らを縛りあげた。
幸いにも奴らはみな、暴れたりしなかったので、楽にやれた。
作業が終わるまでの間、イルはそうでもなかったが、リトは殺意の目で奴らを見ていた。
まあ、それはそうだろうが。
「さて…どうしたもんか」
「陸なら、然るべき所に突き出せばいいだけだが…海人にはそういう概念自体がないからなあ…」
「そうか…と、なると…」
樹とそう話していると、リトが突然言った。
「…殺す」
「え?」
「樹さんが言った通り、私達に絶対的な権力を持つ組織はない。だから、彼らみたいな連中は殺すに限る」
「いや、まあそれはそうかもしれんが…」
すると、リトは突然わめき出した。
「こいつらは、私達の親を殺した!私達の、大切な人を奪った!だから…こいつらもみんな、殺してやるの!」
目に涙を湛えて叫ぶリト。
彼女は、悲しみと怒りの入り混じった表情をしていた。
結局、マクダットのメンバーは全員殺した。
ただ、実際に手を下したのはリトであるが。
彼女は、鬼のような形相でマクダットのメンバーを次々と斬首していった。
俺は、ちょっと直視出来なかったので目を背けていた。
戦いの最中に相手を殺すのはともかく、こうして処刑や拷問のような形で殺すのはなんか受け付けない。
マクダット達の中には、リトを見て上唇を噛みしめて頭を下げる者もいたが、リトはそんなことは気にせず斬った。
それを見たイルは、「容赦ないな…」と震えながらも彼女の行為に称賛を送っていた。
ちなみに後で聞いたが、海人には言葉でなく独自の体の動きや仕草を取ることで意思疎通を図るコミュニケーションがあるらしく、マクダットのメンバー達が見せた行動の中にはそれに当てはまるものもあったらしい。
具体的には、武器を落として頭を垂れるのと、上唇を噛みしめ頭を下げるのがそうで、それぞれ「降伏」「心からの謝罪」といった意味があるそうだ。
となると、リトは謝罪を受け、しかもそれを理解しているにも関わらず斬ったということか。
エグい…がまあ、仕方ないか。
両親を殺され、言葉に出来ないほど傷ついていたのだ。そのような行動に走っても、致し方ないところはあるだろう。
とは言え、さすがになんかモヤモヤするのでマクダット達の墓を作った。
海底の柔らかい砂の所に穴を掘って死体を埋め、多少大きめの岩を乗せただけだが、まあ弔いをしないよりはマシだろう。
これをする時もリトは不本意そうな顔をしていたが、思いを言葉には出さなかった。
その後集落の海人達の元に戻り、マクダットが全滅したことを伝えた。
彼らはとても喜び、口々に俺達に感謝の言葉を述べてくれた。
だが、俺達の仕事はまだ終わってはいない。
マクダットは確かに潰した。だが、そもそも奴らがあのような凶行に走ったのは、陸人による海の汚染が原因である。それを取り除かない限り、いずれまた彼らのような海人が現れないとも限らない。
少なくとも、陸の者を疎ましく思う海人が現れることは避けられない。
そこで、俺達でこの海域の掃除をすることにした。
完璧にはできないにしても、多少なりとも海を綺麗にしておいたほうがいいだろう。
それに俺としても、自然が汚れるのは黙って見てられない。
術で回収したものを入れる袋を用意し、最寄りの海底からごみの回収を始めた。
イルとリトの力を借りて、海の掃除をした。
それは海面に浮かぶものから海底に沈むものまで、目に付くものは全てだ。
最初はあまりないんじゃないかな、と思っていたが、いざ始めてみると結構あるものだ。
また、それらのごみの大部分はプラスチックとおぼしき素材で出来たものであった。
俺には、その現実が人間界の海と重なって見えた。
費やした時間は3時間ほど、ごみを探した海域は20キロ四方の広さであったが、結構な量のごみを拾うことができた。
その量は、実に50キロ。
分析をかけてもらったところ、74%がプラごみであることがわかった。
「結構な量だな…」
俺がそうつぶやくと、リトがやってきて、
「ありがとう。私達も、よくごみを見かけていてね。実害はなかったけど、違和感とか嫌悪感が少なくなかったの。綺麗にしてくれて、嬉しい」
と言ってきた。
また、イルも感謝の言葉を言ってきた。
「私達はそういうのはなかったけど、クラゲのような透明なごみを間違えて食べてしまう海人が、今までに何人かいたんです。その度に胸を痛めていましたが、こうして掃除してもらえると助かります。ありがとうございます」
イルが言ってるのは、たぶんビニール袋のことだろう。
というか、海人ってクラゲを食べるのか。
「今回は、本当にありがとう。家族が返ってこないのは残念だけど…それでも、私達を助けてくれて、すごく嬉しい」
リトは、どこか悲しみを秘めたような笑顔で笑った。
また、リトはこうも言った。
「あの…良ければ、私を陸に連れて行ってくれない?」
「え、行けるのか?」
「私達、水の魔法さえかけてもらえれば、陸でも動けるの。…お願い。あなたたちに恩返しをしたいの」
手を合わせて頭を下げるリト。
条件はあるようだが、そこまでされなくても答えは決まっている。
「もちろんだ。水の魔法は、樹あたりにかけてもらうといい。俺達の旅に、仲間は多くて損はない」
「…!」
リトは歓喜し、俺に抱きついてきた。
それを見て、イルが苦笑混じりに言った。
「おいおい…。まあ、姜芽さんがいいなら。そうだ、姜芽さん。妹が行くなら、私も連れて行ってくれませんか?私も、陸には興味があるんです」
これも断る理由はなかった。
彼らと出会ったのは、きっと何かの縁だ。ならば、その縁に感謝したほうがいいだろう。
2人の海人に陸の世界を見せた上で、冒険をさせてやること。それが、彼らと出会えた事に対する、俺なりの感謝だ。




