第5話 奥義
「…じゃ、本題に入ろう。奥義、ってのを覚えたいんだが」
「え、もうそこまで行くか?」
樹にはちょっと引かれたが、俺は奥義なるものを早く覚えたい。
まあ、特に理由はない…強いて言えば、カッコいいから。あと、オリジナルの技ってのがなんか…心が震えるからだ。
「ああ!だって、オリジナルの技ってなんかカッコいいからな」
「軽いな…まあ、わかるけどさ。
悪いが、こればっかりは自力で編み出すしかないぜ?」
「むっ…そうか」
よく考えてみれば当然ではある。
オリジナルの技、というくらいだから、誰かに教わるようなものではないだろう。
「奥義は教わるもんじゃない。自身の経験と発想力と知恵を振り絞って、編み出すもんだぜ」
そうは言われても、俺はそんな発想力がある訳ではない。
技もだが、その名前にも悩む。
厨二病にかかってたこともあるにはあるが…だからと言って、こういう時にすぐ技を編み出せるかとなると別問題である。
しかし…出来れば、早めに覚えたい。
「うーん…難しいな」
ここで、1つ考えが浮かんだ。
「そうだ、なら樹とキョウラの奥義を見せてくれないか?」
「私達の…ですか?」
「ああ。…あれ、キョウラも奥義持ってるんだよな?」
「ええ、一応…」
「いや、なんでそうなる?」
「どんな感じなのか知りたいし、あと…実際に見れば、何かヒントになるかもしれないと思ってな」
「確かに、それは一理ありますね。樹様、ここは姜芽様のお願いを聞き届けましょう」
「…まあ、いいか。損する訳でもないしな」
というわけで、見せてくれる事になった。
「まずは…そうだな、キョウラから見せてくれるか?」
「私から、ですか?」
「頼む!」
手を合わせると、キョウラは躊躇しながらも「わかりました」と言ってくれた。
「では、行きますね…」
そしてキョウラは息を整え、剣に手をかけた。
「奥義解放。…[白光円斬]」
キョウラが剣を抜いて払うと、空中に白い斬撃が孤を描いて走った。
「…いかが、でしたか?」
心配するような声で聞いてきたが、答えは決まっている。
「…すげえよ!カッコよかったぜ!」
「そ、そうですか…?」
「ああ!」
「あ、ありがとうございます…」
キョウラは、照れつつも嬉しそうだった。
女の子のこういう顔を見て、悪い気になる男は恐らくいないであろう。
「おお、いいなあ…姜芽、ありがとな」
なぜか樹に感謝された。
てか、そう言えば樹は少しばかりムッツリな所があったんだっけ。
そう考えると、やはりこいつは樹なんだな、と思わされる。
「じゃ、次はオレが行くぜ。二人共、よーく見とけよ!」
樹は棍を横に構える。
「奥義 [大滝登り]」
すると、地面から水の柱が文字通り滝のような速度で吹き上がった。
「おぉ…!」
なんか、某大食い一頭身のゲームの、ロボットなプラネットが舞台の作品のギミックを思い出した。
凍らせたら、上に乗れたりしないだろうか。
「どうだ…?」
樹はドヤ顔を決めてきた。
なんかムカつくが…まあいいだろう。
「ああ、派手でよかったよ…」
「なんか反応薄いな。…ま、いいけどさ。で、どうだ?今のでなんか閃いたか?」
「いや、そんなすぐには…」
そう言いかけて、ふと思いついた。
「いや、ちょっと待てよ…」
だが、これは今の俺にできるかわからないので、まずは手をかざして空中にサッカーボールくらいの大きさの火の玉を召喚する。
「…よし、いけそうだ」
テストは大丈夫そうだ。
火の玉を消し、次に斧を後ろに構える。
そしてそれを振り上げつつ、地面から火柱を噴き上げる。
「おお…なかなかいい感じじゃんか」
「水柱を作るのを見て閃いたんだ。そして、ここに…」
言いながら、斧を振り下ろす。
「おお…!いいじゃん!」
「姜芽様…すごいです!」
そう言ってもらえると、嬉しい。
これだけでも十分強力なように思えたが、さらにそこに樹が助言をくれた。
「斧で切る時は、斧に火をまとわせるといいんじゃないか?」
「火を?」
「そうだ。そうすれば、全部で3回火属性の攻撃が出来る事になるし」
なるほど、もっともだ。
もう一度試してみることにする。
その前にまず斧を火で包めるか試してみたが、大丈夫だった。
なので、斧に火をまとわせ、その状態で振り上げ、火柱を起こし、振り下ろす。
「結構様になってるぜ。奥義にふさわしい演出だし、威力も相当あるだろ」
「だよな!…よし、名前をつけよう」
とは言え、これが地味に苦戦した。
あまり安直過ぎる名前だとなんかダサいし、逆に厨二病を拗らせたような名前にするのもなんか気に食わない。
短時間の間に、めちゃくちゃ悩んだ。
「バーニング…ブレイズ…ファイアー…」
思いつく「火」に関する単語をぶつぶつと口に出す。
そして必死に頭を捻り、編み出した名前は…
「フレイム…ん?フレイム…フレイムポール!
なあ、[フレイムポール]ってのはどうだ!?」
「よい名前だと思います。格好いいです」
「ま、姜芽がそれでいいならいいんじゃないか?奥義の名前なんて、そんな深い意味はないし」
相変わらず樹は冷めた反応をしてくれるが、そんな事はどうでもいい。
俺の考えた名前。それを、キョウラも樹も少なくとも否定はしてこなかった。
それが、嬉しかった。
「なら、決まりだな。奥義…あ、そう言えばキョウラは『奥義解放』って言ってたけど、樹は単に『奥義』って言ってたよな。どっちが正しいんだ?」
「正式には解放をつけるけど、実際は略す事の方が多いな。ただ、技と違って『奥義』から詠唱しないと基本的に出せないからそこは気を付けろよ」
「わかった。てか、技って詠唱なしでも出せるのか」
「ああ。何なら宣言する必要はなかったりするぜ…まあ、なんか宣言したくなるけどな」
それはそうだ…というか、ある意味当然である。
自慢の技を繰り出して魅せるのだから、技の銘を叫ぶのは当たり前だろう。
「よし、じゃあ決まりだ。奥義 [フレイムポール]、これが俺の最初の奥義だ!」
「よかったですね。私も心強いです」
「ま、やっと異人っぽくなったって感じだな。
…よっしゃ!ここまで出来ればもう十分だ。あとは、早いとこ盗賊どもを潰しに行こうぜ!」
「言われなくてもそのつもりだ。キョウラ、行くぜ。準備はいいか?」
「はい、姜芽様」
「よーし。それじゃ、行こう!」
正直、不安は根強くあった。
まだ、戦いに慣れてはいない。
奥義にしろ、たった今習得したばかりだ。
だが、これから少しずつ時間をかけて自分のものにしていけばいい。
俺は、人間界でも生き抜く事が出来たのだ。
この世界でも、きっと生きて行けるはずだ。
戦いでもなんでも、切り抜けてやる。
どんな相手が現れようと、必ず。




