シーライク・フォン・アストレイ
俺たちはあれから5分ほど歩いたところで隠れ家に着いた。
その5分は1時間にも2時間にも感じるほど居心地が悪かった。お互い何も話すことなく、地面を踏みしめる足音だけを響かせ歩いていた。
隠れ家の近くまで来た時ガチムチエルフがいきなり木から降りてきた。
軽快に降り立ったガチムチEは音を立てるなとジェスチャーで伝え踵を返して歩いていく。
隠れ家と言うからには周りから見つかりにくいとか、地面の中にあるのかと思ったが普通に木の柵で覆われた集落だった。
こんなので甲冑の奴らに見つからないものなのか疑問だったがそれをガチムチEに聞いたら隠蔽の魔法が周囲に張り巡らさているようだった。
数万単位の人で虱潰し(しらみつぶし)に探さないと見つからないくらい強い魔法らしい。
そんな魔法があるなら最初から使っておけば甲冑達に襲われたりしないんじゃないか?
そう思ったが、ガチムチE曰く(いわく)燃費が悪すぎてあと1週間ほどしか持たないみたいだ。
途中シーラと別れた。1週間近く森の中を歩いたからかなり汚れてるため水浴びをしてくるそうだ。女性エルフに連れられ水場の方に行ってしまった。
別れる際もお互いどこかぎこちなく軽く言葉をかわすだけだった。
俺はとりあえず長老────1番最初牢屋に来ていた老人────に逢いに行くことになった。
──────・──────・──────・
長老は隠れ家の端にある慰霊碑の前に居た。
「長老、連れてまいりました」
「うむ、ご苦労。下がって良いぞ」
「はい。何かあればお呼びください」
ガチムチEは、すぐに来た道を戻って行った。
長老は俺のには向かずずっと慰霊碑を眺めている。
長老は語り始めた。
ここは死んだ耳長種の魂が集まる事。子を、産む際は必ずこの隠れ家で産む事になっている事。
この場所は精霊種が一番力を発揮できる場所であり、好んで暮らしている場所という事。
「お主と共にシーラ様を救った戦士たちは昨日精霊種にここによって連れてこられた」
長老は時折俺では無い誰かと話しているようだった。恐らく精霊が近くに居るのかブツブツと、呟いていた。
俺は長老の話を10分程度聞いていただろうか、おもむろに長老は振り返った。
墓参りは終わったのかね、なら俺も水浴びしたいんだけどな
「ツナシと言ったか?お主、シーラ様とこの森を出て別の大陸に渡ってはくれぬか?」
「は?どして?」
「ワシら耳長種はこの森からは出れぬのだ。しかしこの森に居ては、いずれ共和国に見つかってしまう。大陸から出ればそうそう見つかるまい」
共和国はシーラがまだこの森に隠れてると思っている。その隙にできるだけ遠くに逃げてくれって事か。
だけど、何処へ行く?俺にはこの世界の地理は分からないぞ?シーラも全てを把握してるわけではないだろ。
「渡る大陸はここから南西に行ったところのルーベリア大陸に行くといい。300年ほど前のものになるが地図もある」
俺が考えていると、それを見越してか長老が助言してくる。いや、最初からそこに向かわせるつもりだったのか。
「でも俺はエルフから見たら犯罪者なんだろ?いいのかそんな俺にシーラを預けても」
「そんな事か……精霊種からお主の行動は聞いておる。あの共和国の火虎から命懸けでシーラ様を助け出したのだろぅ?」
かこ?デュランの事か?……可哀想にそんな痛い2つ名付けられるなんて……
「まぁ、それでもシーラ様に無礼を働いたのを考えると心配ではあるがの」
すごいいたたまれない気持ちになる。
それでもそんな俺にシーラを任せるということは長老切羽詰まっているのか。
だが、俺たちふたりで無事海を渡れるか心配だ。船に乗る前にデュランに見つかってしまうのでは無いか。
「あと3日程は結界はもつ。ゆっくり考えてから答えてくれればそれで良い」
結界が消えるまでは休んでそれから旅立てということか。
そういう事なら少し考えるとしよう。今後のこともね
──────・──────・──────・
カルラさんに案内された水場で私は森での移動での汚れを落としてる。
5日程前、私の母国のアストレイ共和国の人達が耳長種の集落を襲ってきた。もちろん狙いは私だ。
その襲撃のせいで200人は精霊種の元へ還ってしまった。
私のせいだ。私が耳長種に助けを求めなければ……私が我慢さえしていれば彼らは……
自責の念に押しつぶされそうになる。このまま死んでしまおうか……
「シーラ様こちら体を拭くのにお使いください」
後ろから声をかけられた。
カルラさんが岩の上に布を置いてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「シーラ様……泣いておられるのですか?」
「これは……違うんです、目にゴミが……」
私は苦しい言い訳をする
「私たちの為に泣いてくださるだけで精霊種の元へ還ったもの達は報われます。どうか自身を責めないでください」
「私は……貴方達に何もしてあげれてない!なのに……!」
私の言葉を遮りカルラさんは濡れるのも構わず抱きしめてくれた。
「……あ」
「ローエンも気にしていません。むしろ誇りに思っているでしょう。だから自分のことを責めないでください。貴方は私達のために動いてくれている。何もしてないわけないじゃないですか」
「う……う……」
決壊してしまった。ずっと見せまいとしていた涙が止まらず溢れてくる。
私はカルラさんの腕の中で泣き続けた。
──────・──────・──────・
俺は長老と別れて目的もなく隠れ家を歩いていた。臨時の隠れ家にしてはかなりでかい。東京ドーム4個分くらいあるんじゃないか?
いや、東京ドームの大きさなんて知らないけどさ。
ふと草むらの奥から声が聞こえてきた。誰か話しているのか。
俺は情報を得るため交流を図ろうと声のする方へ足を向ける。
草むらはそれほど続かずすぐに向こう側へと出た。
草むらを出た瞬間に俺は思った。失敗したと。
「誰?」
「へ?」
「あっ」
水浴びをしていたシーラとシーラの付き添いであろう女性のエルフと目が合う。
「「「…………」」」
沈黙が訪れた。3人は3分ほど沈黙しただろうか。いや、長く感じただけで実際には2秒も経ってないか。
最初に沈黙を破ったのは女性のエルフだった。
「や、や、やはり貴様は変態だったか!シーラ様の水浴びを覗くとは!この場で精霊種の元へ還えしてやる!」
「ちょっ違うんです!ここが水場とは知らなくて、だからその弓下ろして!」
俺は必死に弁明するがこの人の怒りは収まらないみたいだ。
どうやって許してもらおうか迷っていると
「……カルラさん私は大丈夫ですから、ツナシ。後ろ向いてもらえませんか?」
「しかし、シーラ様」
シーラから助け舟が出た。
本当にこの子優しいな。優しすぎないか?おじさん心配になっちゃうよ。
「カルラさん、少し席を外してくれますか?ツナシと話したいことがあるので」
「ダメです!この変態と2人きりなど何をされるか分かりません!」
「ツナシはそんなことしませんよ、ですから……ね?」
「ぐぬぬ……分かりました。ですが何かあればすぐにお呼びください。そこの変態を土に還しますから」
ぐぬぬって本当に言う人いるんだなぁ
女性のエルフ────カルラさんというらしい────は渋々ながら離れていった。
「ツナシ、お話したいことがあります。良いですか?」
「いや、服を着てからでも」
「服は話しながら着ます。決意が鈍る前に話したいのです。あっでもこっちは向かないでくださいね恥ずかしいので……」
「それは……もちろん」
そういうとシーラは後ろで体を拭き始める。
布と体が擦れる音がして異様に生々しい。
「まず最初に私の名前を教えます」
シーラが口を開いた。
「私の名前はシーライク・フォン・アストレイと言います」
今日もう1話投稿出来たらします。
できないかも?