シーラの目覚め
ガチムチがシーラを担いでくれて、俺はヒョロヒョロに肩を借りながら森を進む1km程進んだところでヒョロヒョロが止まる。
「アブザンどうして止まる!」
ガチムチDがヒョロヒョロに問う。
マルクが言っていたアブザンとはこいつの事だったのか
「そろそろ同胞が全滅してる頃合いだ。1度ここで身を潜める。暗くなってきたしな」
「む?そうかそれならしょうがない……一晩ここで過ごすか」
アブザンはそういうと手をかざして呪文ぽい事を呟く。
「『コリン・カウ』」
俺たちを薄緑の膜が覆った。
シーラが使ったやつとは少し違うらしい。
「これで気配と音は周りには漏れないだろう。同胞達とも逆方向に逃げた事だし1晩くらいなら見つからんと思う。」
アブザンは俺に歩み寄ってきて、脇腹に刺さった剣に手をかける。
え?何すんの?
「少し痛むぞ」
言うが早いかアブザンは剣を抜いてきた。
「あぐぁあ!」
こいつ何しやがる!てか、少しじゃねぇ!めちゃくちゃ痛い。
脇腹に激痛が走り、俺は意識が遠のく。栓が抜けたことにより俺の体から血液が大量に出ていく。
「『メル・ピーア』」
アブザンの掌が青白い光を纏い傷口に当ててくる。
すると傷口が激痛と共に徐々に塞がっていく。
回復魔法ってやつか。でもなんで痛みが酷くなるの?そういうものなの?
俺は回復の痛みで意識を手放してしまった。
──────・──────・──────・
「───たい。──きろ、───んたい───」
肩を揺さぶられ、強制的に覚醒させられそうになる。
まだ寝かしてくれよ。昨日は3時までゲームしてたからまだ眠いんだよ……
「起きろ、変態野郎」
「誰が変態だゴラァ!」
不名誉な名前で呼ばれて反論してしまった。
「シーラ様に小便をかけておいて変態じゃないとはすごい自信だな」
ほんと、勘弁してください……不可抗力とはいえ反省しているんです。
「まぁいい、そろそろ日が昇る。動けるようにしておけ。シーラ様も大丈夫ですか?」
「はい。私はいつでも行けます」
透き通るような声が俺の耳を刺激してきた。
それはこの世界に来てから初めて俺が聞いた声であり、二週間愛の巨腕を受け続けてきて挫けそうになる俺を励ましてくれた声でもあった。
最後に聞いた彼女の声は悲しげなトーンでもう二度と聞けないと思っていた。
その為か、涙が出そうだった。
「……シーラ?」
「おはようございます、ちゅなし。傷はもう大丈夫ですか?」
シーラに心配されて右の脇腹をさすってみるが、痛みどころか傷跡すらない。
異世界魔法ってすげぇな。どういう原理で治ってるんだろうか。
「ん、大丈夫みたい。ちゃんと塞がってる。それとシーラ?」
「?なんでしょうか?」
俺に質問されると思いキョトンとした顔で首を傾げるシーラ。
so cute!
抱きしめたい!
「俺の名前は十、神谷十。けっして、ちゅなしではないからね?」
「……」
シーラは顔を赤らめ明後日の方へ視線を逸らした。俺の名前を噛んでるみたいに覚えてしまって恥ずかしかったのだろう。
そんな顔も愛おしい!
「……すみません、言葉が分からなかったとはいえ間違えて覚えてしまっていたとは……」
「大丈夫、そんな所も可愛かったから」
「か、かわ!?やめてください、いきなり」
さらに顔を赤くして俯いてしまった。
すごく抱きしめたい衝動に駆られる。
「おい小便かけ変態野郎。シーラ様に気安く話しかけるな。変態が、移るだろうが」
「いい加減その変態野郎ってやつ辞めてくれねぇかな!?不可抗力だったんだからよぉ!?」
ガチムチDと言い合う。
今小便かけが追加されてなかったか?こいつらの俺への評価ってどんだけ低いの?
「メイザー。小便野郎とじゃれ合うな時間が無い。いくぞ。さ、シーラ様足元が悪くなってますお気を付けて」
「あ、ありがとうございます。アブザンさん」
「おい待て、俺の名前がさらに悪化してねぇか!?」
「いいからいくぞ小便野郎」
やっぱりどんどん俺の名前が悪化していってる。
今回俺結構頑張ったのに……
4人で森を進んでいくが行きとは違いシーラと行動している為か、甲冑達に見つからないためか。若しくはその両方か、進みがかなり遅い。
時折、魔物と呼ばれる気味の悪い動物か虫か植物か分からない生命体に襲われたが全てアブザンとガチムチD──メイザーというらしい───が対処してくれた。
進みながら俺は3人に自分の説明をしていた。
牢屋から出た後や、言葉がわかる訳も。
シーラにけっして変態じゃないと知ってもらうためにも。
「はぁ?別の世界?そんな事有り得るのか?」
「むぅ……有り得なくはないのだろう……現に目の前に事例があるのだ認めなくてはな。それに嘘は言っていないみたいだ。精霊種が、それを証明してくれてる」
精霊って便利ですね
「確かにツナシの服は変わっていますね。文明や世界が違うからなんですね」
シーラはエルフでは無いから、精霊は見えないみたいだがちゃんと信じてくれたみたいだ。
ありがたい。
それからさらに進むがなかなか付かない。
俺たちは既に2日は歩き続けている。
「なぁアブザン」
「なんだ変態」
「だから変態じゃ……はぁ…もういいや」
毎回弁解するのが面倒くさくなってきた。
「いつになったら着くんだ?行きはそんなに時間かからなかったよな?」
「共和国のやつらに見つからないようかなり迂回して進んでいるのだ。それに同胞達は別の隠れ家に移動している。あと3日程で着く見込みだ」
え?そんなに遠いの?
まだ半分も進んでいないことに落胆するが、ある事に気づいた。
「この森そんなに広いのか?」
「このジニアス大森林は今我々が暮らしている大陸の6割を締めている。直線距離で、歩いても抜けるのに1ヶ月はかかるだろうな」
そんなの広いなんてものじゃないな……
元の世界でもそこまで広い森そうそうないんじゃないか?てかあるのか?
アブザンの説明で軽く顔が引つる。
「大丈夫ですよツナシ。もう少しの辛抱です。それに耳長種は森に精通しています。彼らと一緒に居れば迷うことはありません」
そんな俺の反応を見てシーラが励ましてくれる。
なんて優しいんだこの子。
歩き続けて4日半が過ぎた。そろそろ隠れ家に着くらしい。アブザンが精霊?と話して他のエルフ達は既に着いているという。
精霊なんて見えないから俺には独り言を呟いている痛いヤツにしか見えないけどな。
あと少しで着くというところでアブザンが全員を静止した。
「?どうしたアブザン」
「追っ手に追いつかれた。」
「「!?」」
アブザンが振り返り空を見上げた。それに連れられ3人も空を仰ぐ
すぐに上空から赤甲冑が降ってきた。
親方!空から赤いイケメンが!?
「見つけたぞツナシ!シーライク様を渡してもらおうか!」
あと少しって、ところで最悪の奴に見つかってしまった。