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通常の三倍

陣幕に入り中を見渡す。


「!」


真ん中辺りにシーラが気を失い倒れていた。すぐに駆け寄り怪我がないか確認する。


「……スゥ…スゥ……」


よかった気絶してるだけだ。

にしても、寝顔まで可愛いとか反則かよ!


「シーライク様から離れろ下郎め!」


「!?」


後ろから声をかけられた。


もう抜けられたか。


後ろを振り返ると赤を基調とした他のやつより豪華な甲冑を着た奴がいた剣を構えて立っていた。


こいつ他のやつよりきっと3倍は早く動くぞ!


「……長耳族エルフでは無いのか。なぜ人間が奴らの味方をする」


「俺は可愛い子の味方だよ」


「……ふん、人間種(ヒューマン)の面汚しめ。せめてもの情けだ楽に殺してやる」


すごい怒気を感じる。


うわぁめっちゃ怒ってるじゃん。カルシウム足りてないんだろうなぁ


剣を上段に構えて赤甲冑はにじり寄って来る。

それを見て俺もガチムチAの形見を下段に構える。


やれるか?


この世界の剣技をほとんど見た事ないから動きが分からい為仕掛けにくい。


俺は元の世界では一応『草花流(そうかりゅう)』の免許皆伝だが実践は初めてだ。人なんて斬ったことも無ければ殺すなんて以ての外だ。


平和ボケした日本で生活してきた弊害だな。


にじり寄ってくる赤甲冑に対して俺は動かず迎え撃つ。相手の動きに併せて様子を見る事にした。


「……『速地(そくち)』!」


「 」


赤甲冑の姿がぶれた。

1秒にも満たない時間で俺の左横に動いてきてそのまま袈裟で斬りかかってくる。


早すぎる!


俺は半歩足を引きギリギリで赤甲冑の剣にガチムチAの剣を併せる事に成功した。



──────ギンッ!!!!!!──────



金属音が鳴り響き火花が散る。

だが俺は耐えきれずに後ろへ飛ばされた。


「がぁっ……」


「ほう?よく反応したな。今ので決めるつもりだったがなかなかやる」


赤甲冑は余裕を持って立っている。

今の攻防でシーラから離れてしまった。


今のはなんだ?人間の出せる速度じゃないぞ。

冗談じゃなく本当に他の甲冑より3倍は早いな。


一撃ならなんとか反応は出来るが連撃になると捌き切れる自信がないな


「『金剛こんごう』、『強羅ごうら』、諦めろ次で終わりだ」


何やらさらに身体能力を強化できるみたいだ。本格的にやばいかも。


「行くぞ。『速地そくち』!」


「くっ」


また赤甲冑がぶれた。今度は先程みたいに横からではなく正面から詰めてきた。


上段から先程とは比べ物にならない速度で切り下ろしてくる。

それをまたギリギリで防ぐ。


「ぐぅ……」


スピードが上がった分さっきの威力の比じゃない。明らかに人間の域を超えた力だ。

たまらず剣を落としてしまった。


隙が出来てしまい、がら空きの腹部を赤甲冑の右足が吸い込まれるように穿ってきた。


「ガフッ!」


ガチムチAの愛の巨腕の数倍のダメージが腹部を襲う。

俺はたまらず血液まみれの胃液を吐き出した。


や、やばい、死ねる……


「抵抗するな苦しみが長くなるだけだぞ」


蹲る俺に赤甲冑がトドメを刺すため近づいてくる。


まずい、俺が死ねばガチムチやヒョロヒョロ達の犠牲が無駄になる。

シーラも連れていかれて何もかも終わりだ。


死ねない……!ガチムチ達がここまで手を貸してくれたんだ失敗できるか!


「……まだ立つか」


俺はよろめきながら立ち上がる。


呼吸を整え痛みに耐える。

そして半身になり左手を前にかざし右手は握り脇を締めて構える。


それを見て赤甲冑はため息を着く。そしてまた上段に構えた。


「……なぜそこまでシーライク様に拘る?」


「シーライクって言うんだなその子。知らなかったよ。まぁあれだ……恩返し的な?」


「そうか」


短く言葉を吐くと加速して正面から詰めてくる。


落ち着け、素手なら確実に併せられる。爺ちゃんとの訓練を思い出せ……


またも上段から切りつけてくる。


馬鹿が……それしかしてこねぇのかよ。いくら速かろうが3回も見れば!


俺は左手で赤甲冑の剣の腹を穿った。たったそれだけで剣の軌道は俺を掠めて通過する。そのまま地面に剣先を叩きつけた姿勢で止まる。


同じタイミングで右の掌を赤甲冑の胸元に当て深呼吸をする。

心を落ち着け技を放つ体制を取る。


「!!!」


「遅せぇよ!『花弁かべん』!」


赤甲冑は当てられた掌に危機感を感じて飛び退こうとしたが俺の技の方が速かった。


上半身の関節をほぼ同時に動かし赤甲冑の胸元を掌底で穿つ


「ゴフッ……」


鈍い音を発して放たれた掌底は確実に赤甲冑にダメージを与える。そして赤甲冑は兜の隙間から血を滴らせてよろめいた。


俺の使った技は『草花流(そうかりゅう)』の無刀の技。

鎧を着てるやつ限定で使える。鎧を通して中身の人間に直接衝撃を与える技だ。


普通はこれ受けると内蔵破裂して致命傷なんだけど、こいつ丈夫すぎねぇか?

俺が万全じゃないからか?


「『金剛こんごう』を貫いて攻撃してくるとは……なんだその技は……」


「……いわゆる鎧通し(よろいどおし)だよ。この世界にはない技術なのかねぇ?」


赤甲冑は兜を脱ぎ捨てた。自分の吐血が邪魔だったのだろう。

金属音を響かせて兜が転がっていく。


兜の下からは赤髪で長髪の美男子が出てきた。


この世界イケメンしかいねーのかよ!けっ!


「……名前を聞いておこう」


え?名乗るの?戦闘中に?なんかそういうの恥ずかしいんだけど?

だがまぁ、せっかくだし少しカッコつけようかね。


「……名前を聞く時は自分から名乗るもんだぜぇ?」


少し低めの声で聞き返してやった。決まった。


赤甲冑は一瞬キョトンとしてすぐに笑った。


「……ふっ……それもそうだな。『アストレイ共和国』デュラン・フォン・バイアースだ」


イケメンは名乗りもかっこいいんですねぇ!けっ!


「……神谷十(かみや つなし)だ」


「ツナシか、剣を交えれたこと嬉しく思うぞ」


「……」


名乗りも終わったことで再度赤甲冑────デュラン────は剣を上段に構えた。


また斬り下ろしか?それしかできないのか?

俺はさっきと同様、半身になり警戒する。


静寂が訪れ、聞こえるのは陣幕の外の戦闘音だけ。

俺たちは動かず見つめ合う。


時の流れが遅く感じる。10分は対峙したような気もするが実際には30秒も経ってないだろう。


「『瞬地しゅんち』!」


「なっ!?」


デュランはさらに速くなった。意表を突かれた俺は慌てて左足を引いてしまった。


それが失敗だった。


デュランは袈裟で斬りかかってくるのではなく突きを放ってきた。

その為左手で剣の軌道を逸らしきれなかった。


「ぐぅ!」


右の脇腹にデュランの剣がくい込んできた。

体内に異物を無理やり入れられる感覚と痛みに顔をしかめる。


思ったよりも痛みがなく安心していたがすぐに、脇腹が異様に熱くなり激痛が全身を駆けずり回った。


意識が飛ばされそうになるが必死に耐える。


「私の勝ちだなツナシ!」


デュランのドヤ顔が目に映る。

クソうぜぇ


だが確かにデュランの言う通り俺は駆け引きに負けた。

今まで上段から斬りおろしていた為、突きを放ってくるのは思っていなかったのだ。嵌められた!



──────ヒュンッ──────



「!?」


だがそこへ1本の矢が飛んできた。

その矢はデュランの左腕の関節へ吸い込まれていき深々と刺さった。


デュランは油断してたのかそれをもろに受けてしまい顔を歪めた。


「ツナシ!」


ローエンだった。陣幕にボロボロのローエンが入ってきて弓矢を放ったのだ。

しかしすぐに後ろから来た甲冑に背中を刺されてしまった。


遠目からでも分かる、あれは助からない


「……ローエン!」


「づなじ!しーらざまを!たのむ!」


ローエンは刺されたことを意に介さず俺に叫び続けた。


あぁそうだったな


俺はデュランの腕を掴み右手で貫手を作る。


「!?離せ!」


「おいおい連れないこと言うなよ。寂しいぜ?」


デュランは必死に剣を引き抜こうとするが俺は渾身の力でデュランを掴む。


火事場の馬鹿力って奴か?圧倒的にデュランの方が腕力が上なのに振り払えないでいる。


「『椿つばき』!」


そして貫手をコークスクリューのようにねじりながらデュランの右胸に叩き込んだ。

貫手はデュランの赤甲冑を易々と突き破りデュランの肉体に赤い花を咲かせた。


「がふっ……」


デュランは徐々に力が抜けたのかその場で崩れるように倒れた。

ローエンにトドメを刺した甲冑はデュランに慌ててかけよっていた。


ローエン……お前のおかげで助かった、ありがとう。


ローエンにお礼を言いつつ剣が脇腹に刺さったままシーラのところまで行く。


「おまたせ、シーラ……帰ろう君の村まで」


シーラを抱え陣幕を出た。

だが俺はそこで力がつき膝を着いてしまう。


出血が多すぎて力が入らない.......

早く行かないと他の甲冑が来てしまう。


だめだ……動けない……。


「ごめん、シーラ……」


その時急に両脇を抱えられ強制的に立ち上がらされた。


「よくやった!シーラ様を連れて引くぞ!」


「生き残った同胞が時間を稼いでくれています。今のうちです」


左右を見るとガチムチ一人とヒョロヒョロ一人が居た。

俺が陣幕から出てきたところを駆け寄ってくれたのだ。


涙が出そうだね。


俺は2人に肩を借りて森の中へ逃げて行く。

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