アーティファクト
少し走ったら丸太で出来た壁が見えてきた。あれがシーラ達の村だろう。
至る所が燃えていた。
近づくにつれて金属どうしがぶつかる音が無数に聞こえてきた。
村が襲われているみたいだ。
俺はあの優しい少女の事が心配で急いで村の中に入った。
村に入った瞬間現代日本ではありえない光景を目の当たりにした。
ガチムチエルフや細身のエルフが全身甲冑を着た連中と剣や弓を交えて戦っていたのだ。
何人かは魔法みたいなものを飛ばして攻撃していた。
なんだよこれ……本当に俺は異世界に来ちまったのかよ。
非現実的な光景を前に異世界に来たことを確信してしまった。
「…………〜〜……〜……」
「え?」
叫び声や戦闘音の中から微かに声が聞こえた。シーラでは無い。男の声だ。
辺りを見回す。
すると、声の主を見つけた。
ガチムチAだ。
建物の壁に寄りかかるように座っていた。至る所に切り傷や火傷の跡があり、俺に毎日プレゼントしてくれた右腕が無くなっていた。
「おい……嘘だろ……?」
俺の事を睨んでは殴ってきた、いけ好かないやつだったが知ってるやつが死にかけてるなんて。
頭が、追いつかない。
「………………〜〜、……siira〜〜……」
「!?」
今、シーラと言ったか?弱々しくガチムチAは何かを俺に言ってきた。単語の中にはシーラが入っていた。きっとシーラに何かあったのだ。
「おい!ガチムチ!シーラがなんだって!?」
「……〜siira〜〜、……ガフッ……〜〜〜〜」
何か言った後にガチムチAは視線を右下に向けた。
そこにはおそらくガチムチが使っていたであろう刃こぼれした剣が転がっていた。
もしかしてこれを使ってシーラを助けてくれって事か?なんで俺にそんなことを頼むんだよ。
俺はお前らから見たら犯罪者なんだろ?襲ってきてるやつと大差ないんだろ?なんで……
「〜〜〜〜〜、〜〜〜、……〜〜〜……〜──」
「は?おいガチムチ?」
最後に俺に笑いかけながらガチムチAの目から光が消えた。死んだのだ。
おそらく俺にシーラを頼んで逝ってしまった。
ガチムチAは頼れるのは俺くらいしかいなかったのだろう。
よく見るとエルフは1人また1人と倒れて言ってる。圧倒的に甲冑の方が戦力的に上だった。制圧されるのは時間の問題に見える。
すると、爆発音が響いて俺の方に甲冑が1人吹っ飛んできた。甲冑は至る所が凹み色んな関節の隙間に矢が刺さっていた。
「ぐ……がぁ……いてぇよ……」
「!」
なんだ?この甲冑の言葉分かるぞ。他の甲冑の言葉は分からないのにこいつだけ分かる何故だ?
俺はすぐに甲冑に問いただした。
「おい、なんでお前の言葉だけ理解ができるんだ?」
「ハァ……ハァ……誰だテメェ……なんでそんなこと……ぐぅ……」
「答えたら助けてやる」
「……が……本当か……?」
「あぁ」
医療の知識なんてないができる限りの事はしてやるつもりだ。さすがに襲ってるやつだからって死にかけを見殺しには出来ない。
俺は殺人鬼ではないのだから。
「右手……にはめて…るアーティ……ファクトの効果だ……」
「!?」
そうか、そんなものがあるのかこの世界には。翻訳のアーティファクトか。これは不幸中の幸いだ。
いいことを聞いたな。あとは甲冑を少し手当をして。
「…………ろし…て……れ……」
「なんだ?もう1回言ってくれ」
「ころして……くれぇ」
「は?なんでだ!」
なんでいきなり殺せだなんて、
「全身に……激痛が…………もう……たすから……ない……」
「!!?」
そういう事か、神経毒かなんかか?痛みから逃れたいのか。
だが俺には人を殺すことなんて……
──────ヒュンッ──────
悩んでいたら俺の目の前を何かが通った。
「……カフッ……」
声のした方を見たら甲冑に新しい矢が首元に刺さっていた。
流れ弾だった。あと少しズレていたら俺に刺さっていた。
冷や汗が滝のように流れた。
心臓がドクドクと激しく鳴る。
落ち着け……落ち着くんだ俺……大丈夫……ふぅ……
心を落ち着かせて、とりあえず甲冑を見る。確か右手に
右手の甲冑を脱がすと中指にシルバーの薄汚れた指輪がハマっていた。これが先程言っていた翻訳のアーティファクトだ。甲冑の指から外し自分の右手に着けた。すると、
「戦線が維持出来ない!殿を残して引くぞ!」
「女子供を最優先で逃がせ!絶対にヤツらに捕まるな!」
「エルフ共!諦めて大人しく捕まれ!」
「悪いようにはしねぇからよぉ!」
戦場の叫び声が翻訳され始めた。
これなら情報が集められる。
俺はガチムチの剣を掴みエルフが逃げてる方向へ別ルートから向かう。とりあえずシーラを探そう。
エルフ達が逃げていく方向に少し走ると火の手が収まり始めていた。まだ甲冑達の侵攻がここまで進んでいないのだろう。
「貴様!止まれ!」
走ってたら呼び止められた。声のする方に視線を向けるとガチムチBが居た。
そうかお前は無事だったんだな。知った顔────本当に顔しか知らない────を見たら少し安心した。
俺が安堵してるがガチムチBは鬼の形相でこちらに歩いてくる。
「なぜ貴様が牢から出ている!」
「え?それは……っ!」
躊躇いなく剣を振り下ろしてきた。
俺はそれをガチムチAの形見で受け止める。
「てめぇ、何しやがる!」
「聞いているのはこっちだ!どうやって出た!」
「聞きながら攻撃してくるんじゃねぇ!」
剣を交合わせながら2人で怒鳴り合う。
しかしさすがガチムチ鍛えてるだけあってすぐに俺は飛ばされる。
「ぐぅ……っ」
「そういえば貴様言葉が分かるのか!?」
「クソ……そんなことどうでもいいだろ!シーラは何処だ!?」
「!?なぜ貴様がシーラ様を気にする?それにその剣……ローランドのでは無いか……!貴様ぁよくも!」
先程よりも力強く剣を振り下ろしてきた。
俺は後ろに下がり回避する。
危ねぇな!
「ローランド……?ガチムチAの事か?あいつの最後の言葉でシーラを任されたんだよ!」
「なん……だと?」
いや、あの時は言葉分からないからニュアンスで
「頼む……シーラ様を……助けてくれ……!」的な感じで言ってたに違いない。
「…………そうか…それは済まなかった。知らなかったとはいえ剣を向けてしまった」
え?ん?なんて?信じちゃうの?俺犯罪者よ?
シーラに放水した犯罪者ですよ?
すんなりと信じてしまうガチムチBを心配してしまう。
「……信じるのか?」
「あぁ……精霊が証明してくれる。それにローランドの精霊もお前の横に居るしな。嘘つく方が難しい」
この世界精霊なんているの?しかも何?ガチムチAの精霊まで付いてきてるの?全然分からんかった。
「そうなのか、それなら話が早い。シーラを探してるんだが何処にいるんだ?」
「…………シーラ様は……」
ガチムチBは苦虫を噛み潰したよう顔で背ける。
「は?なんだよ……どうしたんだよ……まさか!」
「違う!死んでない!…………だが、長老を庇って……共和国の奴らに連れてかれた」
「なんだと!?」
連れていかれた……?シーラが?
シーラが連れ去られたと聞いて困惑するがよく考えろ。まだ生きているんだ。
「……まだ遠くには言ってないだろ?助けに行く」
「なぜ部外者の貴様が?」
「あんな事しちまった俺に優しくしてくれたから。普通もっとやり返すだろ?」
「それだけの事でか?」
「助けに行くのはそれだけで十分だろ?」
そうだ、俺はあの子に恩がある。それにもう一度あの子の笑顔が見たい。それだけだ。
「……わかった。だが少し待て。今女子供を逃がす班とシーラ様を救出に行く班で分けている。一人で行くな」
「わかった。なるべく早くしてくれ」
「あぁ」
そういうとガチムチBは周りに指示を出し始めた。
今助けに行くからなシーラ!
俺は救出班が揃うのを待った。