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ちゅなし

それから1週間程がすぎただろうか、俺は毎日のようにガチムチAに殴られている。


なんかだいぶ慣れてきたな。3日目くらいから受身を取るようにしたらダメージが2割ほど下がったのだ。それのおかげか失神はしなくなった。


「ガハッ……ハァハァ」


まぁ悶絶(もんぜつ)はするんだけどね。


1週間牢屋で過ごしてわかったことがいくつかある。まずよく見たらガチムチ2人と老人はエルフっぽい。耳が長いのである。


ガチムチエルフってなんかやだよね。エルフはもっと細くてインテリ系ってのが俺の想像だからな。


エルフがいるってことは俺は別の世界に来てしまったのであろう。まさに異世界転移ものである。やったね!


最後に聖水をかけてしまった少女はエルフではないらしい。耳は俺と同じで普通だ。


おそらくエルフと人間が仲良く暮らしているのだろう。

俺も早く仲良くなりたいものだ。


女性のエルフを見てみたい。そしてチヤホヤされたい。だって異世界転移と言えば無双にチートスキル、ハーレムものと相場が決まっているのだから!


「カハっ……ハァ……ふぅ」


悶絶(もんぜつ)から立ち直った俺は土の壁に背をつけ一息ついた。慣れたとはいえ毎日殴られたら心が折れてしまいそうだ。心が折れないのはひとえに


「〜〜〜、〜〜〜?」


「今日も来てくれたんだね、ありがとう」


そう銀髪の少女が毎日心配をしてくれるからだ。

天使か?


この天使、実は毎日2回食事を持ってきてくれるのだ。他の人が持ってきてもいいだろうに、粗相をされた本人が持ってくるとは……


どうやって育てたらこんな天使が育つんだろう。


俺だったら聖水をかけてきたやつには産まれてきたことを後悔するレベルで追い打ちをかけるけどな。


女の子ならご褒美だけどね!


「〜〜?」


「いや、なんでもないよ」


俺がじっと見つめていたからか不思議そうに顔を覗き込んできた。

マジで可愛いなこの子。どストライクですわ。


「じゃあ今日も始めようか。いいかい?俺の名前は(つなし)神谷十(かみや つなし)


「ちゅ…なし……?〜〜?」


「そうそう上手上手!」


「〜〜〜!」


俺達は毎日会うたびにお互い言葉を教えあってる。とは言っても何もヒントや資料が無いから名前くらいしか分からないけどね。


それでも意思疎通が図れれば早めに牢屋から出れるだろう。


「〜〜、〜〜〜siira〜〜〜siira」


「しーら?発音どう?」


「〜〜〜〜!〜〜〜!ちゅなし〜〜!」


「ありがとう」


俺が名前を呼ぶと嬉しそうに微笑んでくれる。

あぁこの笑顔のためにいきてるんだなぁ。


毎回こんなやり取りをしている。


「〜〜〜、〜〜!」


「ん?」


シーラが両腕をガッツポーズの構えで胸の前に持ってきて、何かを伝えてくる。なんだろう?


何とかして出してくれるから頑張れってこと?


「ありがとう、シーラ」


「〜〜〜」



──────・──────・──────・



また1週間くらいたっただろうか、俺は動くのもしんどくなってきていた。


与えられる食事はふかした芋っぽいものと水みたいに薄いスープもどきだけだった為、栄養が足りてない。


それに追い打ちのように毎日ガチムチの巨腕のプレゼントだ。心身ともにボロボロになってきた。


今日もまたガチムチAが来る時間だろうか。

嫌だなぁ……毎日働かなくてもご飯が出てくるだけマシなのだろうか。


しかし待てどもガチムチAは来ない。

飽きたのだろうか。それならだいぶ助かるのだが。


「ん?」


走ってくる足音が聞こえる。

しかしガチムチAの足音では無いな。音が軽いのだ。もしかしてシーラか?


「〜〜〜〜〜!〜〜〜!〜〜!」


「やぁ、今日はガチムチより早いんだね」


思った通りシーラが走ってきたのだ。だがいつもと様子が違う。何か焦っているようだった。


「〜〜〜!ちゅなし!〜〜!」


「どうしたの?何かあったの?」


「〜〜〜、〜〜!」


シーラが駆け寄ってきて焦ったように格子の鍵を開けてくれた。

やっと釈放なのかな?


しかしかなり焦っている。余裕が無いのだろうか


焦りながらも苦労して鍵を開けてくれた。


「〜〜〜!〜〜」


「どうしたのさシーラ、ちょっ……落ち着いて、ね?」


シーラが俺に何かを伝えようと俺を揺さぶる。

揺れる揺れる〜


「〜〜ちゅなし、〜〜」


「え?」


シーラは少し離れ悲しげに微笑んだ。

なんだ?何が起きたんだ?どうしてそんな顔をするんだよ。


「ーーーーー、ーーー、ーーー」


シーラが両手を俺にかざし何かを唱えてる。

すると、水色の膜が俺を包んだ。

なんだよこれ。ドーム?


「ちゅなし……。〜〜〜、〜〜」


「し、シーラ?」


最後に何かを告げたと思ったら走って行ってしまった。シーラを追いかけようと俺も走り出したが水色の膜にぶつかってしまった。


見た目以上に硬いらしい。


「いっつぅ……!」


俺はおでこを擦りながら幕を触る。

この水色の膜はバリアかなんかか?何度も叩くがビクともしない。


クソ!なんでだ!?格子を開けてくれたのになんでまた閉じ込めるんだよ!


言葉が分からないから、シーラが何をしたいのか分からない。

俺は出るのを諦め膝をつき項垂れる。



──────・──────・──────・



どれくらいたっただろうか。30分か1時間か。時間の感覚が曖昧だ。


──────ズゥゥゥン──────


揺れた。パラパラと天井からは小石が落ちてくるが膜に弾かれて俺には降ってこない。


地震と言うよりは何か爆発が起きたような揺れだ。それも何回も。外で何か起きているのだろうか。


もしかしてシーラは俺の事を逃がしたいけど、今出たら危ないから危険が去ってから出るようにこの膜を張ったんじゃないだろうか?


そういう事ならシーラが危ないのでは?

もしかしてあの笑顔をもう二度と見れないのか


そう思うと俺は再び水色の膜を殴りつけた。


「開け!開けよ!こんな薄い膜!なんで破れないんだよ!」


俺は膜をひたすら殴り続けるが長くは続かなかった。この2週間まともな飯を食べていないからか力が入らないのだ。

ダメだまともに動けない。膝から崩れ落ちて両手を地についた。


動けない俺をよそに揺れは断続的に続いていく。

少しの間動けないでいたら水色の膜が突然消滅した。


「消えた?なんで急に……まだ外では爆発は続いてるのに……」


シーラが張った水色の膜の消える条件を考えた。

シーラが自ら解く。もしくはシーラの魔力的なものが底をつく。あとはシーラの意識が無くなるか死ぬか……。


「…シーラ!」


最悪の事態を考えて俺は焦った。あんなに優しい子が死ぬわけが無い。そう自分に言い聞かせて無い力を搾り走った。


洞窟を進むとすぐに出口に出た。2週間ぶりの太陽の光が俺の目をくらませる。


顔を下に向けて目を徐々に慣らしていく。視界の端に何か写った。


あれは……果物?

小さなザルにリンゴみたいな果物と梨みたいな果物が乗っていた。


もしかしなくてもシーラが置いてくれたのだ。外に出た俺がすぐ食べれるようにしてくれたのだ。


ほんとに優しすぎるよ……あの子……


俺はお礼を言いつつ果物にかぶりつく。


「ふぅ……」


果物をすぐに平らげ音のする方へ走り出す。


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