ダムの決壊
ただひたすらに走り続けていた。景色を置き去りにしながら自宅に向かい足を動かし続けた。
なぜって?そりゃあ限界だからだよ。
尿意が!!!!!!!
ここまで我慢したのは人生で初めてのことかもしれない。
まだ多少の余裕はあるが自宅まではどう考えても持たないと思い既に5分程走っただろうか。
すれ違う人は驚きながらも道を譲ってくれていた。その優しさに涙しながら全力で足を動かす。
今50m走を走ったら自己ベストを更新すること間違いないだろう。
「ハァハァハァハァ!!!!!!!」
あと自宅まで1km程だろうか、そこまで走ったところで体力の限界が来た。速度が落ちていき我慢も限界に近づいてきた。
俺が男でホースが無ければもう出ていたかもしれない。
何度近くの家に借りようと思ったことか。しかしここまで来たら自宅で用を足さなければ今まで走ってきた意味が無い!自分に負けるということだ!
俺は段々と重くなっていく足を必死に動かす。
だが残り500mを切ったかというとこで足が止まってしまった。
「ハァハァハァハァ…………!」
体力が切れるよりも先に酸素が足りなくなってしまった。
人間どんなに体力が多かろうが全力で走れる時間はそこまで長くない。むしろ俺は頑張った方だろう。
「ハァハァ……クソ……!」
ここまで来て俺は尊厳を失うのか……!
平日の昼間とはいえ少なからず人目はあるだろう。噂好きのおばちゃんがどこから見ているか分からない。
「クソ!ここまでなのか!」
あと数秒で決壊するだろう。俺は天を仰ぎ覚悟を決める。
「あっ……いいこと思いついた」
ある天才的な発想をした。
ダムが決壊するなら下流にもっと大きなダムを建設すればいいでは無いか。
思うが早いか俺はすぐに自分のご立派様を握りしめた。
「グゥ……!」
強烈な痛みがホースの根元を走るが決壊は免れた。
しかしこのダムもそう長くは持たないだろう。
俺は再度自宅に走り始めた。
股間を鷲掴みにしながら。
──────・──────・──────・
玄関をめいっぱい開け靴を脱ぎ捨てる。勢いよく脱ぎ捨てた為まだ締まりきっていない玄関扉から靴が出たかもしれない。
そんなことはどうでもいい。俺はすぐさまトイレに向かう。
ドアノブに手をかけ思いっきり開ける。この時には既に俺のご立派様はこんにちはしている。着いた瞬間に放流するためだ。
間に合った!俺の尊厳は守られたのだ。そう思いトイレに1歩2歩と歩みを進める。
「いて」
しかし足の裏に痛みを感じて止まってしまった。
なんで痛みがあるんだ?家のトイレだぞ?マットの感触なら分かるがこの痛みはまるで小枝や小石を踏んずけたような痛みだった。
必死すぎて周りをよく見ていなかったがよく見ると───いや、よく見なくても森の中にいた。
「……は?」
意味が分からなかった。
俺は自宅のトイレに入ったはずだ。それがなぜ森にいる?
いや、そんなことよりとりあえず尿意を何とかしよう。
そして俺は視線を下に向ける。
俺のホースとその先には
「〜〜〜〜!!」
銀髪の女の子がしゃがんでいた。
小さなカゴを片手に何やら草を摘んでいるようだった。
俺のご立派様を凝視して赤面しながらなにか叫んでいる。
俺には分かる。これは日本語ではない。ましてや英語でもない。なんなら地球の言語でもないんじゃないか?
いや、地球全ての言語を知っているわけではないから知らんけど
「やぁお嬢さん薬草摘みかい?偉いね!」
全力のイケメンスマイルを少女に送った。しかし少女は俺の顔は一切見ずに股間を凝視してまだ何かを言っている。
だが俺はある事に気づいた。
第2のダムを離してしまっていることに。直ぐに俺は再度ダムを建設しようとしたが
「……あ」
遅かった。
俺の聖水が少女の頭に直撃してしまった。
「…………」
「…………」
唖然とする俺と少女。
しばらくして俺の放流は止まる。
俺達も止まったまま。
静かにすぎる時間。
「いや……あの……これはわざとじゃなく……」
いたたまれなくなった俺は弁明をしようとしたが、少女は俯き震えている。泣いているのだろう。
当たり前だ、見知らぬ男にいきなり頭から聖水をかけられるのだ。泣いて当然だろう。
唐突に少女が顔を上げた。目には涙が溜まり顔が赤い。そして俺の事を睨みつけている。
「……お嬢さん、本当にすまな、かぺっ……!」
殴られた。
ご立派様を渾身の力で。
少女の拳骨が俺の玉にめり込むのが分かる。
あぁ雄というのはなぜこうも愚かなのだろう。
急所を股下にぶら下げまるで攻撃してくださいと言っているようではないか。進化の過程で体内に隠せばいいだろうに。
俺は腹を抑えその場に倒れ込んだ。
「〜〜!〜!〜〜〜〜〜〜!」
倒れた俺に向かって何かを叫んでいる。言葉は分からないが罵倒していることだけは分かる。
意識が朦朧としながら少女の顔を見た。
あっこの子可愛い
俺の意識はそこで途切れた。
──────・──────・──────・
「……うぅ…」
目を覚ました俺は未だに痛む腹を擦りながら起き上がる。
ここはどこだろうか。
かなり薄暗い。
地面は……土だ。壁は……土みたいだが硬いな、土岩みたいなものか。天井も同じだ。
ふむ……どこかの洞窟に居るらしい。
はて、なぜこんな所に居るのだろうか。
不思議に思いながら後ろを振り返ると、木の格子がある。
ふむふむなるほど。ここ牢屋か
「Why!?」
なんで牢屋にいるんだ?何も罪なんて犯してないぞ!?てか木の牢屋なんてどんだけ田舎なんだよ!
俺はどこかの田舎にある洞窟に閉じ込められているみたいだ。
クソ!どうしてこんなことに!
「そうだ!スマホ!」
現在位置を確認するべくスマホを探す。しかしどこにも見当たらない。
ズボンのポケットにはない。パーカーのポケットも探す。
ない。
フードの中も探す。
ない。
どこかで落としたか、捕まった時に取られたな。
どうしようか考えていると、洞窟の奥の方──いや出口の方と言った方がいいか───から足音が聞こえてきた。
誰か来る!
俺は足音のする方に目を向けると4人ほど牢屋に向かって歩いて来て牢屋の前で止まった。
1人は腰が曲がった老人。ガチムチの上裸の男が2人。最後の1人は
「さっきのお嬢さん!」
俺が聖水をかけてしまった少女だった。
老人とガチムチ2人は俺の事を睨みつけてくる。どう見ても友好的ではない
しかし少女は3人とは違いオロオロしているだけだった。
おそらく俺はこの少女に聖水をかけた罪で捕まっているのだろう。
俺罪犯してるやん
「ち、違うんです話を聞いてください!」
「〜〜〜、〜〜、〜?」
俺の弁明に対して老人が何かを言ってきた。
言葉が分からんからなんて答えれば良いか、
「〜〜〜、〜〜」
「〜」
すると老人は隣のガチムチAに何やら命じてるみたいだ。
老人の命を受けたガチムチAが牢を開けて中に入ってくる。
「わかってくれましたか!いやぁよかったよかった」
「〜〜〜!」
俺の前まで来たガチムチは何やらキツい言葉を俺に浴びせてきて
「ガハっ!!?」
鳩尾をその巨腕で殴ってきた。
俺はそのまま蹲り悶える。
これはやばい……息が出来ない……。
「〜〜〜!〜〜〜、〜〜〜〜〜!」
「〜〜、〜〜〜、〜」
「〜〜〜〜〜〜!」
「〜〜」
少女と老人が何か言い合っている。
だが俺はそんなことを気にする余裕がない。
息が出来ず痛みで動くことも出来ない。
次第に意識が遠のいていく。
最後の力で牢屋の外を見ると少女が涙を溜めながら老人に必死に何かを言っている姿が見えた。
あっやっぱりこの子可愛い。
そこでまた意識を失う。
──────・──────・──────・
目が覚めた。
腹はまだ痛むが倒れていてもしょうがないので起き上がる。
「〜〜〜?」
声をかけられた。
格子の方を向くと少女が心配そうな顔で俺を見ていた。
この子聖人君子か?
俺に聖水かけられて────まぁとの時は怒っていたが────最悪な印象しかない俺を心配してくれるとは。
普通殴られてるのを見たら
「まだ足りないわ!もっといたぶってちょうだい!」
くらいは言うと思うのだが。
俺は少女の優しさに涙した。
「〜〜〜!?〜〜?〜〜!?」
「あぁ大丈夫大丈夫。この涙はふざけ涙だから気にしないで」
ふざけていたらまた心配されてしまった。
ジェスチャーで大丈夫なことを伝えると、少女は安心したのか微笑んでいた。
やっぱり可愛いなぁ
同じタイトルで違う作品を投稿してます。