満面のポーカーフェイス
カズヤとミチオはネット飲みをすることになっていた。
スマフォだと画面が小さいので、ミチオはノートPCを立ち上げる。
ミチオがPCを操作すると、画面にカズヤの顔が現れた。
シュッとしたイケメン。
カズヤをパッと見たときの感想は皆そうだ。
だが、ちょっと付き合うとこのイケメンに隠れたおかしな部分にすぐ気づく。
カズヤは『ほぼほぼ』表情を変えないのだ。
彼の二つ名は『満面のポーカーフェイス』だ。
これは実は少し変な言い方だ。『満天の星空』とか『炎天下のもと』と同じで意味がダブっている。
「乾杯!」
声を出して互いにグラスを持ち上げた。カズヤは同じ顔のままだった。
二人は、互いの部屋で同じお笑い番組を流しながら、感想を言い合っていた。
ミチオが爆笑する場面でも、カズヤは表情一つ変わらない。
だが笑っていない訳ではない。膝を叩いたり、拍手しているのは、カズヤの精一杯の『笑い』の表現だった。
テレビがCMに入ると、カズヤが映る画面からチャイムの音がした。
「あっ、すまない。宅配がきた」
カズヤは表情を変えずに画面から消え、袋を抱えて戻ってきた。
「唐揚げを宅配かよ、贅沢だな」
ミチオは自分の妬ましげな表情が映るのを見て、顔を手で覆った。
ちょうど、その時、ミチオの部屋のチャイムが鳴った。
「来たか」
「なんだ、お前も頼んでたんじゃないか」
だが、カズヤの表情は変わらない。抑揚も平時の通りだ。
ミチオは戻ってくると言った。
「これ誰だかわかるか?」
カメラにはミチオの傍に立っている者の顔は映らない。
「ナオミ」
表情も抑揚も普通だ。
「そうナオミだよ。よく平気だな。お前の恋人だろう?」
ナオミはミチオの横に体を寄せて座った。
ナオミの肩を引き寄せるミチオの顔は、勝ち誇っていた。
無言のまま二人は顔を近づけ、唇を重ねる。
ミチオは横目でカズヤを確認した。
「……」
いくら無表情のカズヤでも、これなら表情を変えると思っていた。
騒ぎ出すとか、接続を切るとか、そういう反応を期待していた。
「ど、どこまでいったんだ」
カズヤの声は、言葉がつかえたものの、震えている訳ではなかった。
抑揚も表情も、完璧なポーカーフェイスだった。
ミチオは煽るように、言う。
「そりゃ、最後までな」
「そんなの嘘だ」
全く動揺を感じない。
「見せてやろうか?」
その時、完璧な無表情が、口角の端、二ミリほど『上がった』のを見た。
そっちか。ミチオは気づいた。
『カズヤはNTR属性なのだ』と。