第6話
学校の掲示板に見つけた孤児院のボランティア活動。どうやら白鷺会長も参加するらしい。
「よし、これだな」
白鷺会長に接触できる良い機会だろう。申し込みもまだやってるしさっそく行動開始だ。孤児院の場所は遠くないし自転車で行ける距離にある。日曜日の午後からなら大丈夫だな。教員室で手続きか。
「失礼します、白鋼です。孤児院のボランティアの手続きをしたいのですが」
別のクラスの女性の教員が対応してくれた。
「ちょっと待ってね。はい、これに名前を書いてね。でも、珍しいわね。白鷺さん以外が参加するなんて」
「珍しいのですか?」
「えぇ。白鷺さん以外に参加した学生は居ないし、彼は毎年参加してるからね」
「そうなんですね。あ、書き終わりました」
「じゃあ、確かに受け取ったわ。白鷺さん喜ぶんじゃないかしら。よろしくお願いね」
「はい、失礼します」
毎年参加か。生徒会長としての義務か、それとも理由があるのか。本人に聞かないと分からないな。
「と言うことで、白鷺会長に会ってくるよ」
「さすがの行動力だな。俺も会長さんのことについて調べておく」
「任せた、蒼助!」
蒼助に現状を報告し、日曜日を迎えた。
「おはよう白鋼君、来ていたんだね」
「おはようございます。白鷺会長に聞きたい事があって......」
「聞きたいことですか?」
施設のスタッフが集まり会話を遮られてしまった。
「あら、蓮君! いつもありがとうね。この前貰ったおもちゃ、高かったんじゃない?」
「いえ、私が昔使っていた物なので。喜んで貰えて結構です」
施設スタッフと仲良さそうに話し始めると、今度は子供達が集まって来た。
「あっ! 蓮だ~」
「蓮、今日は何持ってきたの~」
「みんな、元気にしてたか?」
白鷺会長のこんな優しい顔は見たことがない。思いがけない一面を見てしまった気がする。
「もう一人来るって聞いてたけど、あなた?」
「すみません。白鋼です、よろしくお願いします」
会長に真実を確かめる以前にボランティアに来たことを忘れていた。
「こちらこそよろしくね。とは言っても簡単な雑用や低学年の子達と遊んで欲しいだけなんだけどね」
「喜んでさせていただきます」
「いつも堅いな君は。ところでさっきの話と言うのは」
「聞いてしまったんです......」
「場所を変えて話そうか。施設長、少し離れます」
「あら、忘れもの?」
「はい、すぐに戻ります」
近くの廃工場まで移動した。
「単刀直入に聞きます。生徒がモンスターになる薬を配っていたのはあなたですか?」
「ハハッ。何の質問かと思いきや、面白い冗談ですね」
表情を崩さない、ならば。
「陸上部の雨宮さんから聞きました。あなたから例の薬を貰ったって」
笑顔は消え突き刺さるような冷たい視線を向ける。
「ハァ、仕方のない人だ。黙ってヒーローごっこをしていれば良いものを」
「何のことだ」
「私が知らないとでも。機械の鎧は君、いや君達だろ?」
「知っていたのか」
「君達のことは利用させてもらっていた。生徒を守るためにね」
「生徒を守る?」
「この学校の一部の人間はグリムドーワと繋がっている。その生物実験からね」
白鷺会長は説明を続ける。
「最初は全生徒を対象として行われる予定だった。私は生徒を守るため進んで実験台になったよ。しかし、私だけではデータが集まらないため他の生徒を実験台に秘密裏にしていた! そんなとき君達が現れた」
「俺達を実験台になった生徒に誘導していたってことか?」
「そうなるね」
白鷺会長はモンスター化した生徒を止められずにいた。そこに俺達が現れた。
「実験台になった生徒達を元に戻してくれたのは本当に助かった。けど、私の秘密を知られてしまった以上、君達には消えてもらうしかないね」
手のひら程の大きさの機械を取り出し下腹部に装着した。機械からベルト帯が出現し固定される。
「会長、どうして!」
「私にも使命がある!」
「なんだよそれ!」
薬液の入ったシリンダーを取り出し装置に装填した。
「High Does」
邪悪な音声が流れ会長の身体は繭に包まれる。そして、内部から亀裂が入りカブトムシの様な角に甲殻を纏った存在が出現した。
「白鋼君も変身したまえ」
「喋れるのか!? 今までのモンスターは喋れなかったはずだ!」
「詳しく知る必要はない。君はここで消えるのだから」
「じゃあ、本気であなたを止めます」
「装甲ヲ展開シマス」
「そのシステムは君がいや、桐谷君と作ったのかい?」
ゆっくりと歩き近づく白鷺会長。
「だとしたら?」
「利用価値があると思っただけだ!」
会長は右手を構え渾身の一撃を放つ。その右ストレートを右手で掴んだ。衝撃が全身に響く。
「クッ!」
「いつまで持つかな?」
やられているばかりではいかない。目を覚まさせてやる。白鷺会長の鬼神の如き拳の殴打を繰り出すもそれを捌く。金属音が激しく響く。
「やるね、白鋼君。だが......」
白鷺会長は距離を置くと、黒く細長い槍を空間に生成し構える。
「本気で来たまえ。私を庇うな」
殺意が込められた矛先が鋭く光る。
「なら、全力で!」
スタンロッドを構え一歩踏み込み、振り下ろす。
「うおぉ!」
互いの武器がつばぜり合う。激しい連撃が火花を散らす。
「ここまで立っていられるのは君が初めてだよ。だが、終わりだ!」
スタンロッドの一振を回避され、槍の先端を顔に目掛け刺突する。
終わる訳にはいかない。両目を全開に開き、寸前で避け槍を掴み投げ飛ばした。
「あんたの使命とやらを知るまで俺は終われない!」
「しつこいな! ただ家族に見せつけてやりたいだけだ! 私の力を!」
「何!?」
「学校の悪事を暴き私が生徒達を導く! 英雄は一人いれば良い!」
冷静さを感じない。薬の力に飲み込まれているようだ。最初は生徒を守るためだったのだろう。闇の力に手出し戻れなくなってしまった様に見える。だけど......
「俺達は分かり合えるはずだ! 目を覚ませシラサギィ!」
右手を握りしめ、左手のデバイスにかざす。
「安全装置ヲ解除シマス」
白鷺会長は下腹部に装着された機械のシリンダーを更に押し込んだ。電子音が鳴り響き、右手は暗黒のオーラが纏う。
「Day break」
「消えろ! シラガネェ!」
互いの右ストレートがクロスし、白鷺会長の顔面を捕えた。拳から射出針が刺さる。
「ぐはっ!」
よろめきながら後退し、徐々に人間態へと戻って行く。
「流石だよ、白鋼君」
会長は壁に背を付け、腰を降ろした。
「何故戦いを!」
「つまらない意地だよ。英雄は一人でいい。白鷺家の落ちこぼれには成りたくなかった」
「落ちこぼれ?」
「君も薄々気づいているんじゃないか。僕が孤児院出身ってことを......」
蒼助から聞いた話だが養子として引き取られた彼は両親から評価を得るために生徒会長となり、この高みまで上り詰めたらしい。
「だからどうした」
「何ッ?」
「生徒を守るために自ら実験台になったのは本心だろ!」
「それは......!」
彼は苦痛に歪んだ表情を浮かべ、唇を噛み答える。
「いや、そうかもな。だがもう忘れた。そんなことは」
「だったら今思い出せよ!」
胸ぐらを掴み無理やり立ち上げる。
「ふっ、君と言うやつは。もっと早く会っていたら変わっていたかもな」
「会長......!? うわっ!」
ものすごい力で突き飛ばされ尻餅を着いた。その瞬間銃声が聞こえ、会長からは赤い血が流れ倒れていた。
「因果......応報だな」
「いきなりなんなんだよ!?」
音の方向を向くと黒いパワードスーツが一瞬見えた。
「誰なんだよ! 今のは!」
「奴らの幹部、エデンナイツによる口封じだろう。白鋼君、新たな生徒会長が現れたら注意しろ......」
「おい! こんなとこで終わるなよ! 家族を見返すんだろ!」
「後は頼んだ......」
会長は息を引き取った。俺の手の中には彼が使用していた謎の変身デバイスが握られていた。