第21話
スーツのメインカメラが大蛇を捕らえたことにより、イージスに映像が転送され蒼助から通信が入った。
「大丈夫か、潤」
「今はなんとか。柳葉はエデンナイツだ、中和剤が効かない超獣も彼が作っていた」
「この大蛇も、そうなのか?」
戸惑う声を出す蒼助。遠くからも声が聞こえる。光上さんだ。
「白鋼君、話は聞いている。まさか病院の地下に研究施設があるとは......」
二人に事の経緯を説明した。ユーリは別の任務に当たっており救援には来れないとのこと。プレッシャーに胸が押し潰されそうになる。
「来るぞ、潤!」
蒼助の声に雑念が払われる。前方を確認すると大蛇は激流の様に身体を地面に滑らせ距離を詰めてくる。目前で巨体を持ち上げ、顎を開き飛び付く。跳躍し回避、スタンロッドによる打撃を頭部に与えるが弾かれた。
「固いッ!」
鋼鉄の様な固い鱗を纏い、それは攻撃にも転じて来た。鞭の様な尾が振り回され腹部へ直撃する。吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。バランスを保つために持ちこたえた両足は地面を抉っていた。
「ぐぁ!」
「腹部ユニット20パーセント、損傷確認」
大蛇は容赦の無い連撃を仕掛け、補食動作に入る。
まだ、終われない。脳裏に浮かんだ転送装備。デバイスの拳のアイコンを押した。
「巨人ノ拳ヲ転送シマス」
「うおお!」
がむしゃらに付き出した右腕は接近する大蛇の頭部に直撃。鋼鉄の鱗に弾かれず、顔面は後方へ反り返す様に大きく揺らいでいる。
「効いてる......!」
「だが、その程度では彼女達は止まらない!」
体勢を持ち直そうとする大蛇へ追撃を仕掛ける。背部ユニットのブースターを起動、火を吹かせ跳躍し右腕を振りかざす。
「なら、もう一発だ!」
大蛇は反発するように頭をハンマーの様に振り下ろした。固い鱗と拳がぶつかる。
「クソッ!」
衝撃で吹き飛ばされるが、なんとか地面に着地する。固い鱗を撃ち抜かないと致命傷は与えられない。
にらみ合いが続く中、何処からか声が聞こえる。
『助けて』
「何だ? 声?」
『誰か止めて』
女性の声だ。一人じゃない、二人だ。どこからだ?
「蒼助、謎の女性の声が聞こえる。音源はどこかわかるか?」
「声? 音声をキャッチした形跡はない。どうした?」
あまり考えたくは無いが、声はきっと大蛇からだ。ルーラーは妻子を亡くしたと言っていた。ハザードチルドレンとして遺体を保持しているんだ。蘇生薬ができるその時まで。
何が正しいかなんてわからない。命の価値観は人それぞれにある。正解なんて出しようがない。けど、目の前の彼女達は助けを求めてる。聞こえた声が思念の叫びなら、俺がすべき事は一つだ。
左手を右腕の巨人の拳にかざす。外側が固いなら中身はどうだ。
「安全装置、第二段階ヲ解放シマス」
獲物を狙うが如く飛び掛かる大蛇。左手で右腕を固定し大きく開けた口内へ巨人の拳による鉄槌を放つ。両足で踏ん張るも、後ろへずり下がる程の射出の反動を受ける。
「安らかに眠ってくれ......」
右腕から射出された拳はスラスターを展開し加速していく。大蛇は牙を突き立て噛みつくが、抑え切れず内部を撃ち抜かれ背部から拳が貫通した。射出された拳は再び右腕に装填された。
巨体を地面に叩きつけ倒れる、大蛇にルーラーは駆け寄る。
「そ、そんな!」
彼は大蛇の頭に抱き付き慟哭した。そんな彼にもう一度問う。
「お前には声が聞こえなかったのか」
「何の......事だ」
「助けてくれと、ずっと言っていた。止めてくれと、ずっと叫んでいた!」
「僕には聞こえていなかった。許してくれ......」
命を冒涜する研究者である彼には彼女達の声はずっと届かなかったのだろう。そんな彼を作ったのはクラウンだ。妻子を蘇らせたい純粋な思いを利用し狂わせた。どこまで、残忍なヤツなんだ。
「光上さん、ルーラーを確保しました」
「白鋼君、良くやった。イージスのメンバーを向かわせている。合流してくれ」
「了解しました」
安堵の息が漏れる。スーツのマスクを開けようと顔に手を伸ばしたとき、蒼助が叫んだ。
「ヤツが動いている! 潤! 今すぐそこから離れろ!」
大蛇はゆっくり身体を挙上させ、ルーラーを睨んだ。
「まだ生きていてくれたのか」
彼は両腕を伸ばし抱き寄せようとするが、大蛇は本能のまま顎を開けた。
自分でもわからなかった、ルーラーを突飛ばし右半身を毒牙が貫いた。装甲を貫通し肉体に激痛が走る。
「ぐわぁ!」
「何故、庇った?」
半身を噛まれ持ち上げられる。このままだと丸飲みにされる。左手はなんとか動くが右手がデバイスごとヤツの口の中だ。
「潤! 遠隔操作でサポートする。頭をぶち抜け!」
「円錐螺旋破砕装置ヲ転送シマス」
蒼助の遠隔操作にてドリルアームが転送された。そのまま大蛇の眼球を目掛け構える。
「破砕装置、制御ヲ解放シマス」
ドリルの隙間から刃が展開し、突き刺し内部を刃で切り裂く。体液が飛び散り、悶える大蛇に投げ飛ばされた。
大蛇は巨体を地面に叩きつけるように倒れた。轟音と共に砂ぼこりが舞う。
「どうして僕を庇った!?」
「誰も犠牲になって......欲しく無いんです」
意識が遠退いていく。様々な声がする。イージスのメンバーか。もはや痛みさえ感じない。あぁヤバイな、目の前が暗くなってきた。けど誰も死ななくて良かった。
「起きて、貴方はまだ倒れちゃ行けない」
謎の声が頭に響き目を覚ますと、病室に臥床している。蒼助がこっちを向き、まるで死人が動き出した様なそんな驚いた顔をしていた。手に持っていたスマートフォンは床に落ち画面が割れた。しかし、先に声を出したのは雷だった。
「え、嘘。生きてる? 良かったよー!」
「だから言っただろ、コイツは簡単に死なねーよ」
「二人......とも......痛ッ」
身体が動かない。点滴に、バイタルサインモニターか? 色々身体に付いている。どうやら助かったらしい。
「しゃべんな、休んでろ」
「光上隊長に連絡してくるね!」
そう言うと雷は病室を出ていった。
「蒼助、あの時のサポートサンキューな」
「だからしゃべんな。ちっ。またお前に負担かけちまったな。すまん」
神妙な顔で頭を下げる蒼助。
「俺達はあの時から運命共同体だろ? 覚悟してたさ。それに蒼助のサポートがなきゃ本当に死んでた」
喋る度に身体に激痛が走る。
「潤、本当にお前には感謝してる」
「それはこっちの台詞だ」
病室のドアがノックされた。現れたのはルーラーだった。
「感謝をしにきた。君は僕の目を覚ましてくれた。ありがとう」
あの後すぐに、病院に運ばれルーラーによる治療を受けた。大蛇の毒は全身に回る前に血清療法にて治癒し始めているらしい。
「勘違いしないでくれ、通常の医療にて治療させてもらった」
怪しい技術は使って無いってことか。信じるしかないな。そしてまたノックだ。
「光上です。失礼します。良かった、白鋼君」
雷と一緒に光上さんがやって来た。安堵の表情を見せる。お見舞いの品をテーブルに置くとルーラーと話している。
「潤君いや、キミ達ならきっとクラウンを止められる」
ルーラーの眼はあの時の邪悪さは無く優しい光が宿っている様に輝いていた。
「来て早々すまない、彼と話がある。また来るよ。あと家族への説明も私からしておく。安心してくれ」
そう言って二人は退室した。
「イージスがルーラーの事情聴取をするみたいだな」
「じゃあ俺はゆっくり休むわ」
「そうしてくれ、霧雨行くぞ」
「また来るからね」
病室で眠る俺に掛かった、あの声は誰だったのだろうか。とりあえず、今は休もう。




