第20話
真夜中、旧棟に到着した。光源は月明かりのみ。目の前にそびえ立つ古びた病院は異様なプレッシャーを放っている。今にでも幽霊でも出そうな感じだ。
天宮さんの主治医、柳葉がどんな人物か分からないためスーツを装着するのは控えた方がいいだろう。生身のまま旧棟へ近付くと正面口の自動ドアが作動した。
「本当に使われて無いんだよな」
柳葉が出入りしているのか。にしても不自然だ。誘われている? 考えてもしょうがない。旧棟に入るとロビーが広がり、奥には外来診察室がある。
「ここから調べてみるか」
懐中電灯を照らしていくと、診察室は三部屋あり、医療器具や辞書、記録に使われていたであろうパソコンが置いてある。三部屋とも、同じ作りになっている。
「特に何も無いか」
外来診察室から出るとロビーで蠢く何かが懐中電灯に照らされた。動いた方向へ追うと壁が破壊されており、洞窟のような道が出来ている。緩やかな下り坂になっており、足元には等間隔に小さなライトが設置されている。
「柳葉が作ったのか?」
進んでいくと奥から黄緑色の薄明かりが見える。息を飲み一歩一歩と近づいて行くと液体の入ったカプセルが複数設置されている空間に出た。壁は岩肌になっており、地中深くまで来たのだろう。
「やっぱり来ましたね、白鋼潤君」
呆気に取られていると白衣を着た柳葉が姿を現した。
「お前は柳葉?」
「はい。おっと勘違いしないで下さい。私は戦う気はありません。貴方を救うことができるから」
「俺を......救う?」
柳葉は液体の入ったカプセルに手を当てると、不気味は笑みを浮かべた。
「私も人を助けられなかった事があってね。君と同じだ」
柳葉が過去を語る。昔、柳葉は妻子を病気で失っており、絶望した彼の前にクラウンが現れた。期待通りに計画を進めた彼はこの専用の実験場を受け取った。
クラウン、光上さんが言っていたマッドサイエンティストか。
「私は失った命を蘇らす実験をしていてね。君達が戦った新型の超獣は私が作ったんだよ」
中和剤の効かない超獣はハザードチルドレンと言う。遺体を蘇らす技術開発の副産物として生まれた。遺体を繋ぎ合わせ、特殊な薬を投与することで命を持ったかのように動くが知性はない。
きっとクラウンの目的はこのハザードチルドレンの作成なのだろう。
「もしこの実験が上手く行けば、君の罪も無くなる! 犠牲になった人はいなくなる!」
命の蘇生薬、なんとも魅力的な話だ。いまでも夢に見る。初めて戦った時を。友達を守るために必死だった。あの子には笑っていて欲しかった。あの時の足元を暗闇が引っ張るような、全身が黒く染まっていく感覚を忘れた事はない。だからこそ......
「そうだなあの子は犠牲になった。だからこそ俺は二度と同じ悲劇が起きないように戦う事を選んだんだ! 否定していいような過去じゃない!」
遺体を使った実験、死者を蘇らすなんて人間のしていいことなのか?
柳葉の顔から笑みが消えていた。
「そうか、残念だ。柳葉と言うのは偽名でね。私はエデンナイツの一人、ルーラー」
「エデンナイツ、お前が......」
「協力できると思ったが無理ですか。ならば、消えて下さい」
ルーラーは指を鳴らすと背後の暗闇から大蛇が地面を這いずり姿を表した。
「君達もいずれ、元の人間の姿に戻してあげるからね。白鋼潤君、さようなら」
大蛇は頭を高く上げると巨大な顎を開け、毒液が滴る牙を剥き出し、俺を見下し睨み付ける。蛇に睨まれたカエル、いや違うな。俺にはこれがある! デバイスを構え起動した。
「装甲ヲ展開シマス」
パワードスーツのホログラムが前方に出現し、自身の肉体に重なり実体化した。
「正常ニ装着サレマシタ」
スーツの間接部から冷却ガスが吹き出す。目的は大蛇の鎮圧、ルーラーの確保だ。
「実にいいですね、そのパワードスーツ。クラウン様への献上品として丁度良い」
「俺は負けない! 行くぞ!」
右手の拳を固く握り締めた。




