第15話
中和剤の効かない超獣に対しイージスは何やら策を講じるらしい。蒼助は本部に残り、スーツの改良を行うと言っていた。光上さんからは元の学生生活に戻ってほしいとのことで、詳しい話はイージスから学校に連絡してくれている。
戦いが続いたため、久しぶりに羽でも伸ばそうか。
「街にでも出掛けるか」
趣味で使っているクロスバイクに乗り、繁華街へと向かった。北区での超獣被害の影響か街中には警察官やイージスのメンバーが目立つ。ニュースでは突然変異した動物達によるものだと報じられていたが、疑う声も多い。SNSを見ても、政府の秘密裏に開発している生物兵器や古代生物が蘇った、と言った様々な意見が飛び交っている。
「暇潰しはここだな」
いつも行くデパートに着いた。スポーツ店が複数あり、大きなゲームセンターもある。時間があればよく来ている。ぶらぶら歩いていると、知った顔が見えた。
「大門寺さん、よっ!」
声を掛けると眼に涙を浮かべ走り近付いてきた。
「心配したんだからね!」
顔を真っ赤にして大声を上げ、周囲にいる客が全員こっちを向く。
「ど、どうしたの!?」
「イージスの人に着いてった後、私だけ家に帰らされるし、二人からの連絡は来ないし!」
北区での戦いの後、すぐに例の研究所に行ったから余裕が無かったな。
「ごめん! 蒼助も無事だから!」
あの後イージスで起きたことを説明した。
「そう、ならいいけど」
少しは納得してくれた様子だが、頬を膨らまし少し怒ったような顔をしている。
「ところで大門寺さんも買い物?」
「雫ちゃんのお見舞いにね」
雫ちゃんこと天宮雫は以前、超獣化したことがある子だったな。あの後入院し、意識不明だったみたいだが、回復したとのこと。状態が安定し面会も可能になっている。
「俺も付き合うよ、荷物係にならなれるし」
女子の好みはわからんからな。心配させてしまったこともあるし、手伝いをさせていただきますか。
「荷物になる程買わないよ。けどありがとう」
笑顔が戻って来た様子。良かった。
「そういえば、何を買うの?」
「うーん、プリザーブドフラワーにしようかなーって」
「プリザーブドフラワー?」
「生花を加工してる綺麗な花なんだよ!」
花屋の香りは嫌いじゃない。デパートの中にある花屋に足を運んだ。生花の他に、ハーバリウムやシャボンフラワーなど様々な商品が並べられている。赤や青、ピンク色といったカラフルな色彩は眼に楽しい。そういえば、もうすぐ母の日か。ちっちゃい頃おこずかいを貯めて買いに行った事があったっけ。
「潤君知ってる? 白や赤い花はお見舞いに良くないんだよ」
「そうなの? 綺麗だと思うけど」
「白い花はお悔やみの時、赤い色は血を連想させちゃうんだよ」
「なるほど」
「暗い色も避けた方がいいから......すみません!」
大門寺さんは店員さんと相談し、ピンク色を基調とし黄緑色を添えたプリザーブドフラワーを見繕ってもらっていた。見ているだけで優しい気持ちになれるほど綺麗な彩りだ。
「大門寺さんらしい、優しい色合いだね」
「えへっ、ありがとう。喜んでもらえばいいけど」
「喜んでくれるよ!」
店を出ようとしたその時、店内に居た小学生くらいの女の子が男に捕まり首にナイフを突き付けられてた。
「おい! 金を出せ! 下手な真似はするな、このガキを殺す」
え? なんだ? 頭の理解が追い付かなかった。女の子が首にナイフ? 足がすくむ。女の子は恐怖で声さえでない様子。
「警察でも呼んでみろ、この場に居る、全員殺す!」
慌てて花屋のスタッフはレジのお金を取り出している。何とかしないといけないのに、下手に犯人を刺激出来ないため動けない。最悪な事態を想定してデバイスを使おうと思ったがイージスに預けている。スーツが無きゃ何も出来ないのか俺は!
「私に変わって下さい」
俺より先に動いたのは大門寺さんだった。一体何を考えているのか、ジャケットを脱ぎ、スマートフォンを俺に投げた。画面には時間が表示されている。
「怪しい物は持ってません。その子を放して下さい」
「何を考えていやがる」
「人質なら私でも問題無いはずです」
本当に何を考えているんだ? いつもの彼女とは思えないほど鋭い目つきをしている。
「まぁいいだろう。金はまだか!」
大門寺さんは少女の代わりに捕らえられてしまった。その間で花屋のスタッフがお金の準備が出来たのか犯人へ近付く。
「へへへ、それでいいんだよ」
犯人が金を受け取るその時、大門寺さんが犯人の手を噛んだ。
「何すんだテメー!」
怯み、彼女に意識がいっている瞬間を狙い、俺は全速力で犯人を突き飛ばした。そのまま、犯人の頭を床に押さえつける。
「早く、警察に!」
「放せ、クソ! ガキが!」
その後、警備員がすぐに駆けつけてくれた。警察も到着し身柄を確保。誰一人傷つくことなく事件は終息した。デパートを後にし家に向かう。
「やっぱり助けてくれたね」
「俺があれに気づかなかったらどうしてたんだ!」
彼女から受け取ったスマートフォンに表示されていたのは現在時刻ではなく五分後のタイマーだった。噛みついたことに俺が瞬時に動けたのはこれに合わせたからだ。
「潤君なら絶対、犯人を捕まえてくれたよ」
たまたま、勘が働いただけだ。一歩間違えればどうなっていたかはわからない。
「まったく」
夕焼け空をバックに歩き続ける彼女は止まり振り向いた。長い髪を耳に掛け見えるその笑顔は夕陽に負けない眩しさだった。
「変身アイテムが無くてもヒーローだね」
「本物のヒーローは君だよ」
「えっ、なんか言った? あ、ちょっと早いよ! 潤くん~」
クロスバイクを早足で押し歩き、家に向かった。




