第2話
「おい、やめろ!」
「白鋼く~ん、ノリ悪いな~」
「嫌がってるだろ」
今日は運が悪い日だな。友人が所属する科学研究部へ遊びに向かう途中、いじめ現場に遭遇してしまった。学校では有名で知らない生徒はいないだろう。なんと言っても、いじめ主犯が良いとこの御坊っちゃまで、生徒は勿論、教師側も黙り。
「白鋼君もさ、そういうの流行んないよ。俺達と一緒に楽しもうぜ」
馴れ馴れしく肩を抱かれ、強烈な香水の臭いが鼻に突き刺さる。金に近いような茶髪でホストの様な髪型をしている。周りの取り巻きはゲラゲラ笑っている。下手に拒絶したら面倒だ。仕方ない。
「いや、すまない。授業の関係でそいつ、斉賀 焚流に用があるんだ。ちょっとの間借りてくぞ」
焚流の襟を引っ張りその場を脱出する。なるべく遠くに行くか。
「おいおい、つまんねーやつ」
いじめの主犯、北城 如月。こいつには悪い噂が絶えない。学校や家族側が悪事を隠蔽しているらしく好き勝手にのさばっている。
「ありがと、白鋼君」
「お前こそ大丈夫か?」
「馴れてるから」
『馴れてるから』、焚流は一番の被害者だ。彼は自身と同じクラスの女子と交際していたが如月に強引に迫られたとの噂だ。実際に彼女は学校には来ておらず、焚流や友人が家に行っても顔を出さず部屋に引きこもってしまっている。焚流は色々調べる内に目をつけられてしまって今に至る。力になってやりたいが。
「焚流、悪いが俺にはこれくらいしかできない」
如月の悪事を暴くとか、いじめ反対とか口で言えば簡単だ。そんなの誰だってできる。けど被害者は実際にいるが、皆見て見ぬふりをしている。俺もそうだ。だから綺麗事は言わない。
「白鋼君は優しいね」
「また今度な」
「うん」
他人事は所詮他人事だ。
「おい! 潤、とか言いつつ如月をなんとかしようって思ってんじゃねーだろうな」
「頼む! 蒼助、力を貸してくれ!」
「証拠は見つかっても、はぐらかされて来ただろ。俺達じゃ無理だ」
そう、科学研究部の友人は桐谷 蒼助だ。パワードスーツの製作者で、家から持ってきたパソコンを常に操作している。
「学校と如月はグルだ。どうしようもねぇよ」
如月の悪事は、俺と蒼助で調査したことがある。焚流の彼女だけではなく、他の女子生徒へもトラブルを起こしていることを学校側に訴えたが聞き入れてくれなかった。
「クッ」
唇を噛みしめ拳を握ると、意外な人物が訪れてきた。
「失礼する」
白い学ラン、長い髪を後ろで束ねた凛々しい男は生徒会長、白鷺 蓮。
「北城如月の悪事を訴えていたのは君達か」
「あなたは......」
蒼助はパソコンを操作するのを止め、白鷺会長を睨む。
「会長さんがなんか用か?」
「邪魔をしに来た訳じゃない。私も如月君には手を焼いていてね。学校側は頼りにならない」
「だから、俺達の所に来たと」
「そう言うこと」
「俺達も色々な手を尽くしましたがダメでしたよ。会長は何か手はあるんですか?」
「生徒会の総力をあげ彼らの溜まり場を発見した、スポーツ万能と噂の白鋼君に一緒に来て欲しくてね」
如月を止める、同じ志を持ち腕が立つ俺に白羽の矢が立ったらしい。そしてその溜まり場には女子生徒が連れ込まされていると。
「早く助けに行きましょう」
「上手く行けば決定的な証拠になる。話が早くて助かるよ」
「気を付けろよ、潤」
「おう!」
海沿いにある、古い小屋に彼らはいると言う。近付くと如月と取り巻きがおり、怯えた表情の女子生徒が一名いる。
「白鋼君、敵陣に突入しますよ」
「このまま突っ込むのか?」
「ええ、彼らは自分たちが襲われるなんて、考えてませんよ」
白鷺会長はニッコリ笑うと小屋へ全速力で突撃した。
「如月さん、生徒会長が来ましたよ!」
「ちっ、ばれたか。やっちまえ、お前ら!」
複数の取り巻きに囲まれるが、華麗な動きで翻弄し対応している。
「白鋼君は如月を追って下さい」
気付けばヤツがいない。逃げたのか。
「危ない!」
隠れていた取り巻きが白鷺を背後から襲ってきたが蹴り飛ばした。
「さすがだね、頼みましたよ」
「会長こそ、無事で」