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気が付けば黄昏時。カフェで話した後、潤と二人で学校に向かっていた。モンスターの謎や上木華の失踪について調べるためである。今の時間帯であれば警察も居ないはずだ。校門前に来ると、一人の女性が花を持ち、佇んでいる。彼女は俺達と目が合うと逃げるように背を向け歩きだした。
「どっかで見たことあるな......」
「蒼助、知り合いか?」
思い出した。あの時、逃げ惑う中にいた女子だ。あのときバスケ部のユニフォームを来ていたはず。現場にいたバスケ部は保護されているため、彼女は貴重な情報源になるかもしれない。
「おい! お前バスケ部だろ」
声を掛けると彼女は足を止めた。
「もしかして何か知ってますか!? 僕達もあの場所に居たんです!」
潤の必死さに応えるように、彼女は振り返り驚いた顔で口を開けた。
「あなた達もあそこに居たんですか? あの後どうなったか知っていますか!?」
想像以上に強い関心をみせた。俺達は些細な情報でも手に入れたい。だが、自分達が戦かったことも知られる訳にはいかない。慎重に対応するべきだ。
「俺達が行った時にはもう、警察が対応していた。大きな動物が暴れていたがなんとかなったらしい」
「なんとかなったって、どういうことですか? あの子は何も悪くないのに......」
頭の理解が追い付かない。あの子? どうも嫌な予感がする。先に口を開いたのは潤だった。
「すまない、一から教えてくれないか」
「ごめんなさい。私はあの日、補習を受けていました。遅れてバスケ部に行ったら華ちゃんの身体が膨れ上がって......」
膨れ......上がる......?
「私は怖くてすぐに逃げ出したんです」
「いじめをしていた罰が当たったんです。見て見ぬふりをしていた自分も同罪です。だから、謝りに来たんです」
背筋が凍りついた。俺達が戦ったのはモンスターじゃなかったのか......? 潤は彼女の両肩を掴み問うた。
「上木さんが......あの、巨大動物になったってことですか!?」
潤のあの顔は一度も見たことがない。顔面を蒼白にし恐怖に打ちひしがれた、そんな顔だった。彼女は潤に恐怖したように腕を振りほどいた。
「私だって......分からないですよ!」
持っていた花を落とし去っていく彼女を前に潤は崩れた。俺は黙って見ることしかできなかった。
翌朝スマートフォンを見ると一通のメールが来ていた。
「俺はもう戦えない」
潤からのメールだ。モンスターの正体は人間の上木華である可能性が高い。きっと体育館での戦いで人を殺めたと考えているはずだ。行方不明になったのは闘いの末、灰塵と化したためだろう。戦えるのは潤だけだ。パワードスーツを託せるのも。俺達にはアイツが必要だ。三人で話し合おう。
大門寺と共に潤の家に向かう。アポは取ってないが。
「潤くん、きっとショックだよね一番......」
「そうだな、けどもし罪を感じているなら俺も同罪だ。モンスターを倒す装備を作ったのは俺だ。潤が代わりに戦ったのも、俺がすぐにのびちまったからな」
「罪って......潤君はみんなを守ってくれたのに」
「アイツが、来なかったらあそこに居た全員殺されていただろうな。だが、あのモンスターは人間だった」
「こんな報われないことってあるのかな......」
何が原因で上木がモンスターになったかは分からない。だからこそ、俺達は真実にたどり着かなければならない。
「報われねぇからこそ、会いに行く」
「うん!」
大門寺は俺の顔を見るとニコッと笑った。二人を巻き込みたくはない。けど、あの戦いで分かった、一人では不可能でも三人なら可能だと言うことを。
「二人ともなんでッ!?」
「うっす、上がらせてもらう」
「お邪魔します」
潤の家に突撃した。家ではまずいと感じたのか、近くの浜辺に行くことになった。家族に聞かれたら怪しまれる可能性があるからな。海風が肌に染みるなか深刻な表情で潤は口を開ける。
「俺は人を殺めた......自首しようと思う」
真面目な潤らしい台詞だ。俺は目を閉じ大きく息吸って叫んだ。
「あの時から俺達三人は運命共同体だ! もしお前が自首するなら俺も自首する!」
「私も!」
さらに俺は潤の胸ぐらを掴み大声を上げた。
「だがもし俺達全員が自首したら、誰が守る!? 誰が真実を暴く!?」
久しぶりに声をあげ、息が上がる。罪から逃げる訳じゃない。俺達は人を殺めました、と自首してそれで事件が二度と起こらなければそれでいい。けどそうはならないはずだ。
「真実を暴くってのは俺達が戦ってきたことも公に出す。それが正義だ」
最後まで戦って、事が終わったら全てを話す。それで終わりだ。潤は今まで見たこない表情をしている。それもそうだろう。こんなに声を出すなんて初めてだからな。
「分かった! 分かった!」
潤はそう言うと俺の手を払い、頭を下げた。
「俺だけ逃げてごめん、怖かったんだ。戦う事が、それに元が人間だったなんて知ったらなおさら」
そんなの当たり前だ。潤は最前線で戦っている。一番リスクが高いのは潤だ。
「俺も戦いに巻き込んで悪いと思ってる。だが、今はお前の力が必要なんだ」
俺も頭を下げ、願う。潤も同じく頭を下げた。
「なら、俺の命を預ける。恐怖も弱さも罪も、二人が支えてくれるなら戦える」
潤は頭を上げると真っ直ぐな瞳で俺と大門寺を見つめる。やはり、こいつの眼は死んでいなかった。
「それに潤、お前に殺しはもうさせねぇ」
「それって?」
「対策する。相手が人間って分かったんなら元に戻せばいいだけだ」
口で言えば簡単だが、勿論検討なんかついてない。けどやるしかない。
「やっぱり二人はすごいな」
「大門寺さん?」
「だってそうでしょ。蒼助くんが作ったスーツで潤くんがみんなを守る。私は成り行きで二人といるだけ......」
こんな寂しそうな顔をする大門寺は初めて見た。笑ってないときのこいつの顔を見ていると胃がキリキリし出した。
「何言ってんだよ、お前も十分すごいだろ」
「え?」
「モンスターが現れたのに生身一人でわざわざ体育館に来たのは誰だよ」
「大門寺さんはみんなを助けようとしたんだよね?」
「蒼助くん、潤くん......」
なんか少し照れ臭い。柄じゃないことやり取りをしているなと思っていると。
「蒼助くん顔真っ赤だよ」
「!?」
「耳もな」
「そんなわけねぇだろ、海風が冷たくてそうなっただけだろ! ああ、後デザインダサいって言ってたよな」
「ギクッ! あれは勢いで言っちゃって......」
「これから研究する。大門寺、お前が補佐しろ。潤にはまたスーツの機能説明をする」
学校が休校になると同時に、科学研究部に移した父親の機材は俺の家に移動させてある。母親は仕事で居ないため、三人で集まった。そして。
「これで、完成だな」
「理論は間違ってないはずだ」
父親の本を読み直したが、モンスターを人に戻す計算式は書いてなかった。だが、研究を重ね、二人の協力もあり特殊な薬液の開発に成功した。
「で、大門寺先生的にデザインはいかがなもんだ?」
「うーん、まぁまぁかな」
まぁまぁなのかよ。とりあえずこれが、命名、デザイン共に大門寺。これが俺達の新たな力。
「ブレイブスーツ」




