悪役令嬢は王子の元から逃亡したい!!
私は、悪役令嬢である。なぜ、そう断言できるのかというと、私には前世の記憶があるからである。私は6歳のころ、たまたまボールが頭にあたり、前世の記憶を思い出した。前世の記憶からすると、私はいつか婚約している王子に婚約者&断罪される。だから、前世の記憶がよみがえったあの日以降、私の目標は!
逃亡すること!!
私は地道に掘ってきた城と下町を繋ぐトンネルを通り、下町にでる。
「や、やっと、逃亡成功‼︎」
今まで何度王子に邪魔されただろうか?
・真正面から逃亡→速攻でバレて失敗
・商人のフリをして逃亡→国中に指名手配され失敗
・遊びに行くといいそのまま逃亡→まさかの王子に尾行されていて失敗
それ以外にも沢山の作戦で失敗してきた。今度こそ、やっと成功したのである!
もちろん指名手配されても大丈夫なように変装道具も装着済みである。
本当は王子に秘密で逃亡するなんて心苦しいけど…。でも、やっぱり、
「逃げなきゃいつか、婚約破棄&断罪されるもんね‼︎」
よし、行くぞ!と顔を上げた瞬間、
「あれ?ローズではないですか。これからどこかに行くんですか?」
にこやかに微笑む目の前の男をみて私は顔がひくりと引き攣るのを隠せない。
「お、王子、何でここに…」
すると、王子は笑みを深めながら答える。
「どうやら城に不審な穴があいていたので、それを辿ってここまできたのです。それで、ローズはどうしてここに?」
グッと言葉に詰まる私を見ながら王子はクスクスと笑う。
「まさか、逃亡しようなどと思っていたわけではありませんよね?」
ふわりと美しい花のように微笑んだ王子の目は全く笑っていなかった。
さて、どうしようか…。
王子は慌てて城に戻っていったローズを見ながら思案する。
ローズは昔はパステルカラーのドレスが印象的なわがままで使用人に当たりつけるような子供だった。それが今はどうだろうか?キリッとした顔の真面目で使用人にまで優しく美しい女性となった。近くで見ているものが惚れないわけがない。
少し問題があるとすれば逃亡癖だが、惚れた弱みだろうか?どうにか逃亡しようと頑張る姿すら可愛くみえる。だが、最近はそんな悠長なことを言っていられなくなってきた。逃亡スキルが上がり、危うく本当に逃亡されそうになることがたびたびあるのだ。今回のトンネルも気づいたのは昨日のこと。もし、あと一日トンネルの完成が早ければ逃げ出されていたかもしれない。今まで自分勝手に無理矢理ローズとの婚約を継続していたが、
「もう、限界か…」
そう言い王子はローズを追いかけるように城へ戻っていった。
さて、どうしようか…。
ノートを前にして私はそう呟いた。
はじめての逃亡計画を立ててから10年ほどたったが、一度も計画に成功したことはない。だがもうそろそろそんな逃亡計画も終わりを告げようとしていた。なぜなら…そろそろ計画のネタが切れてきたからだ。
ノートを前にしても、逃亡計画が全く思い浮かんでくれない!
だが、正直自分をめちゃくちゃ褒めてあげたい。何度王子に余裕の顔で計画を潰されてもあきらめずに今まで何十回、いや、何百回もの逃亡計画を実行してきたのだ。
「そろそろ終わり時かしら」
とにかく早めにこの逃亡にけりをつけないと。
コンコン
「少しいいかな、ローズ」
「は、はいっ‼︎」
私は急いでノートを片付けると身支度してドアを開ける。
「王子、どうかしましたか?」
こてりと首を傾げると王子は大きく深呼吸した後告げた。
「ローズ、君は僕との婚約を破棄したいですか?」
ひゅっと思わず息を呑む。ドクドクと嫌な音を告げる胸を抑えながらなるべくいつも通りの声が出るように気持ちを落ち着かせる。
「何故、今更そのようなことを?」
「もうそろそろ、限界だと思いましてね。」
限界、その言葉が大きく私の胸にのしかかる。
そう、だよね。こんな私といるのはもう限界よね…。
「断罪はありますか?」
「断罪?なんか悪いことでもしたのですか?」
「い、いえ、今のは忘れてください」
王子の様子を見るに断罪などはないのだろう。
断罪なしの婚約破棄。今までずっとそれを求めていたはずなのに、ズキズキとさっきから胸が悲鳴をあげている。
「なんで、なんで、それを10年前に言ってくれなかったんですか!」
思わず叫んでしまい、急いで口を押さえたが、今更そんなことをしても無駄だった。王子は目を見開くとすぐに悲しそうに目を伏せる。
「そんなに前から婚約破棄したかったのですね…。」
なんで、私から婚約破棄してほしいって言ったみたいになってるの?最初に婚約破棄したいか、と聞いたのは王子なのに。なんで、そんなに王子は傷ついた顔をしてるの?
「さようなら」
「待って!」
思わず引き止めてしまったことに、私自身が困惑する。このまま婚約破棄してしまえば、王子に断罪されることも、ヒロインと王子をみていちいち傷つくこともなくなるのに…。
6歳のころは断罪回避のためだけにただただ逃亡を繰り返していた。だが、今はどうだろうか?今、一番怖いのは、ヒロインに嫉妬して私の知っている悪役令嬢のようにヒロインをいじめ、王子に軽蔑されることだ。
王子に軽蔑されるくらいならいっそのこと王子の中でいい思い出のまま去ってしまいたかった。
だけど、やっぱり!
「王子と離れたくない!」
「…ローズ?」
あれほど逃げ出したかった相手の王子の胸に私は自分から飛び込む。
「お願いだから捨てないで!軽蔑しないで!私を、私だけを好きでいてほしい!」
一生叶わない願いを叫ぶと私は心のままに泣いた。
少ししてポツリと王子が呟く。
「当たり前じゃないですか。」
「へ?」
「ローズ、捨てないし、軽蔑しないし、ローズだけを好きでいるなんて当たり前のことじゃないですか!」
ポカンと驚く私に向かって王子は言う。
「どうかお願いだから僕から逃げないでください!婚約破棄なんて受け入れないでください!」
そういう王子の顔は真っ赤で嘘なんて言っているようには見えない。
「そ、それこそ当たり前のことじゃないですか!」
「その当たり前を破ったのは誰ですか?」
さっきまで真っ赤だった顔をすぐにいつもどおりにした王子は私をジトリと見つめる。
「ごめん…なさい…」
そのまま数秒お互いの顔を見つめどちらからともなくプッと吹き出して笑い始める。少しして笑いが落ち着くと王子がいつも通り柔らかな笑みを浮かべ聞いてくる。
「これからはもちろん僕から逃げませんよね?」
そんな王子を見て今までで生きてきた中で1番の頷きを返す。
「当たり前です!」
その後、2人が「ヒロイン?なにそれ」と言わんばかりの幸せな人生をおくったのは言うまでもない。
読んでくださりありがとうございました!
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〈追伸〉
PVが1000を超えました!!読んでくださる皆さん、ほんっとーに、ありがとうございます!!
2022/04/10 18:30