9 マノス、ロリショタ姉弟を見つける
幼女副司令に執務室を追い出されたマノスは、通路で銀髪――というよりは白髪をした――双子のロリショタ姉弟を発見した。
2人とも小柄で、幼女副司令と見た目の年齢はそれほど変わらない。
ただし、痩せている幼女副司令に比べて、2人の方が肉付きがいい。
いやまあ、幼女副司令の体は痩せすぎているので、彼女に比べれば、ほぼすべての子供は肉付きが良くなる。
なので、このロリショタ姉弟は、子供としては至って平均的な体つきをしている。
我慢という単語が存在しないマノスは、衝動に任せて、背後から双子の姉弟に抱き着いた。
「ハ、ハワワワッ!」
「うわあっ!」
突然背後から抱き着かれて、慌てる姉弟。
エリュシオンの艦内は治安が維持されて安全なはずだけど、「もしかして変態さんでは」と、姉は焦る。
自分のことはいいが、せめて弟は守らないと、と思う。
幸いと言うべきか、姉の背中には、艦の整備で必要になる、工具一式が入ったバックがある。
2人の姉弟は、見た目は小さくても、エリュシオンのクルー。
整備班の一員だ。
工具を握る手に力を入れ、振り向きざまに、変態さんに一撃入れようとする。
「ねえ、あなたたち。私の部屋に美味しいお菓子があるから、私の部屋においでなさい」
だけど、その声がして、姉の動きが止まった。
その声は、まるで天上人のような美しい響き。
恐る恐る顔を動かして、抱き着いてきた人物の顔を見れば、そこには女神様のように美しい女の人がいた。
「女神様っ!」
偉大なる神を信奉する信者が、生まれて初めて神の御姿を拝見したかの如く、姉は一瞬呆けた表情になる。
だが、次のコンマ1秒とかからない時間で、脳内の電気信号が強烈に駆け巡り、女神様の正体に気づいた。
「し、司令官!」
女神様の正体が、本物の神だった……ではない。
人口210億を抱えるエリュシオンの艦長にして、艦隊司令官であるお方だった。
大事なことなのでもう一度言う、超弩級戦艦エリュシオンのクルーは、210億人に達する。
思いもせぬ殿上人の登場に、姉は大慌てて背中を伸ばし、直立不動の姿勢でシュビッと敬礼する。
「へっ、司令官?」
「あっくん、敬礼。早く敬礼して!」
「う、うんっ!」
姉と違って、まだ状況が正しく認識できていない弟のあっくん。
ちょっと鈍いところのあるあっくんだけど、姉に言われて慌てて敬礼をした。
「って、ええっ!司令官様ですか!」
ワンテンポどころか、3、4テンポ経ってから、あっくんもようやく司令官のことに気付いた。
幼い顔が、驚愕に彩られる。
「うふふっ、2人ともそんなに固くならなくていいわよ。楽な姿勢を取って」
「し、司令官の前で、楽な姿勢なんて取れません!」
マノスの提案を姉は頑なに拒み、弟も首を横にブンブン振って答える。
緊張しすぎて、しゃべることを忘れてしまっている。
「あら、この船の主人《艦長》である私が言っているの。敬礼なんてやめて、楽な姿勢になりなさい」
「……は、はいっ」
楽な姿勢なんて言われても、司令官の前でそんな態度をとれるわけがない。
でも、司令官の目がマジなので、姉弟が逆らうことなどできなかった。
何しろ顔は穏やかなのに、目だけは逆らったら殺されそうな、怖い目をしている。
そんな奴相手に、否と言える勇気が、姉弟にはなかった。
この後、マノスに促されるまま、姉弟はマノスの私室へご招待された。
2人の姉弟は、今日の仕事を終えて、これから帰ろうとしていたところだったのに、まさか艦長の私室に案内されるとは思っていなかった。
ガチガチに緊張する姉弟だったが、
「このお菓子美味しいわよ。飲み物は甘いココアがいいわよね」
部屋では、手ずからマノスにお菓子を振舞われ、2人は否と言う事なんてできない。
それにお菓子を食べているうちに、段々と艦長を前にしていても、緊張感がなくなっていく。
「このココア、とってもおいしい!」
弟のあっくんも、出されたココアを飲んで大満足だ。
「本当だ。おいしいね、あっくん」
「うん、お姉ちゃん」
仲良く頷き合う姉弟を見て、マノスはとても嬉しそうにニコニコ微笑む。
「でも、なんだか体が熱くなってきたような」
「あれっ、おかしいな。なんだか私も、服を脱ぎたくなってきちゃった」
エリュシオンの艦内は、生命維持装置によって常に快適な温度に保たれている。激しい運動でもしなければ、体が熱くなることはないはずだ。
「あら、それはいけないわね。じゃあ、私が2人の服を脱がしてあげる」
「ええっ、司令がですか」
「そんなのダメですよ。僕たち自分で服は脱げますから」
「あらあら、子供が遠慮なんてしなくていいの」
そのまま、笑顔のマノスが手ずから2人の衣服に手をかける。
「はうっ」
「あうっ」
服を脱がす際、マノスの手が体に触れると、2人の姉弟はなんだかとても気持ちよくなって、変な声が出た。
目がトロンとしていて、夢見心地な気分になっている。
足元がおぼつかなくて、フラフラするけど、空を飛んでいるような素敵な気分だ。
「あれっ、おかしいなー。なんだか変な気分」
「でも、とっても気持ちいいー」
翌日早朝、マノスの私室のベッドの上には、白髪の双子の姉弟が、スヤスヤと寝息を立てて眠っていた。
弟の方は天使のように愛らしい寝顔をしていて、一方の姉は口から涎を垂らして寝ている。
姉弟仲良く、抱き合って寝ていた。
そんな2人の寝姿を、つやつやした肌色のマノスが、微笑ましく眺めている。
「昨日の夜はご馳走様」
と、言いながら。