現代のスプラッタ
読者様の意見がとても気になるタイプです。
酷評でかまいません。ツマンネの一言で結構です。評価とコメントの方、是非お願いします。
もし、協力していただけるなら、どこがおもしろく、どこがつまらないか、詳しく教えていただけると大変ありがたいです。よろしくお願いします。
或る冬の平日の朝、男はナイフで自分の左腕に「HELLo」と書いた。
書き進めるうちから血は溢れ出していた。「HE」と書き終えたあたりで血が腕を流れて、これが滴ればカーペットを汚す事に男は気付いた。そのため男は「HE」から溢れる血を時折舐め啜りながら、「LLo」を書ききった。
ナイフで直線はうまく書けず、「o」などはほとんど四角形になってしまったし、余計な線も随分ついてしまった。それでも深く書かれた部分を繋げればちゃんと「HELLo」に見え、男は満足した。
左腕を台所の水道で流すと染み付いた血が洗われ、深く書かれたために赤く開いた「HELLo」だけが鮮明に浮き上がった。水を拭き取るとすぐにまた血が溢れてきて、男はそれをまた舐め啜った。しかし、「何か足りないな」と思い、ふと閃いた男は「HELLo」に味塩コショウを振りかけて舐めてみた。すると実に美味しかった。
こんなに美味しいなら他のものにも混ぜてみようと思い、男は冷蔵庫から納豆を取り出した。左手が使えないためパックを開けるのに手間取った。納豆に血を少量滴らせて、醤油を加え、よくかき混ぜた。かき混ぜるとすぐに納豆は真っ赤に染まった。「血の赤は随分濃い色素なんだな」と、男は感心した。
保温されてあったごはんを茶碗によそい(これもまた難儀だった)、真っ赤な納豆をかけた。見た目は梅風味の納豆かけごはんのようだ。
食べてみると、これはよくなかった。動物性の材料に納豆は合わない。ごはんとも酷い相性だ。しかし勿体無いから全部食べた。やはりステーキとかだと合うんだろうという、在り来たりな結論を男は得、他のものに合わせてみるのはやめた。血はおそらく、味塩コショウだけで頂くのが一番だろう。
男はその後しばらく味塩コショウをかけて舐めていたが、いい加減飽きたので止血することにした。少しは消毒になるだろうと思い、塩コショウをかけた上から包帯をぐるぐる巻いた。包帯はすぐに赤く染みてきていたが、包帯から他には染みないだろうと思えた。左手は使えないし、男は眠ることにした。
ナイフは男が「もしも」の時の為に購入したものだ。「もしも」というのは男の危険の事ではなく、男の愛する人たちの危険の事だ。貧弱なる男は「もしも」の時、自分が素手では解決出来ない事を十分に理解していた。同時に「もしも」の時、警察が何の役にも立たない事も理解していた。男がナイフを持つのは男にとって当然の事だった。気付くのが遅かったぐらいの事だ。
人は凶器を持つと使ってみたくなるという。男が「HELLo」と書くのにナイフを使ったのもそのせいだろう。度の程度の力を加えれば度の程度刺さるのか、度の程度速く振れば度の程度切れるのか。男はそれが知りたかった。
しかし何より、男はその平日の朝、きっといつもより退屈だったのだろう。