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君にエールを

第二話ですが、視点は友雪君のお友達になります。今後、何人かの視点が入りながら、話が進んでいくことになります。友雪君やそのお友達と一緒に片想いの行方を見守って貰えたら、幸いです。


 学校の正面玄関を潜ると、靴箱の横に背の高い男が見えた。後姿だけど、明るい茶色の髪と背の高さで、それが同じクラスの一条(いちじょう) 友雪(ともゆき)だという事が判る。そもそも友雪くらいの背の高さの同級生って数えるくらいしかいないから、特定は簡単だ。

 この間の身体測定の時に180cmは超えてるっていうのを聞いて、その身長を5cmでいいから分けて欲しいとマジで思ったし。

 おまけに足も長いから背格好だけならモデルって言っても通用しそうだ。本人にその気はなさそうだし(多分)向いてないから、やらないだろうけど。


 俺は数メートル先にいる友人に声をかけるために、少しだけ声を大きめに出した。

「友雪」

 一瞬、きょろりと辺りを見回した友雪は俺に気付いたようで、身体ごと振り返り手を振って応える。振り返った友雪は相変わらず、開いているのか閉じているのか判断の難しい細い目をしていた。

「おはよう、拓也君」

 俺が靴箱のそばに来たところで声をかけてきた。俺もそれに「おはよう」と返し、上履きを取り出した。自然と友雪の隣に立つと、細い目を更に細くしてにこにことしている姿が目に映る。


 この顔してる時は、大体、あれだよな。近くに――


 爪先が青い色の上履きを履きながら友雪の視線の先を追いかけてみる。ちょうど曲がり角を曲がって姿が見えなくなる直前だったが、ちらりと見えたセーラー服と背格好で、やっぱりなと思った。

「今日も葉山と一緒にきたのか?」

「うん」

 嬉しそうにくしゃりと笑う。この笑顔がどうやら女子受けがいいらしいと知ったのは、つい最近だ。だが、女子達の言わんとしてることは何となくわかる。葉山といる時の友雪は、忠犬よろしく頭の上にピンと立った耳と、お尻辺りにちぎれんばかりにブンブンと左右に激しく揺れてる尻尾が見える気がするからだ。

「そっか、相変わらず仲いいよな」

 えへへと友雪は照れたように笑う。


 あー。俺にそんな趣味はないが、恋してると可愛いのは女子だけじゃないってことだな


 うんうん。と心内で頷き、友雪と一緒に教室へと向かう。移動しながら、昨日テレビ何見た? みたいなどうでもいい話をしながら、さっき見た後姿を思い出す。


 葉山 美姫みき。ショートボブな髪型のせいなのか、それともキリッとした眉のせいなのか、目がくりっとした二重なのに、何となく顔立ちが少年みたいな印象を受ける。よく男に間違われて困る。と本人も言っていた。運動神経は抜群によくて、中学の時は水泳部でなかなかの好成績を残してた……と思う。


 葉山は友雪の好きな奴。これ、この学校だと常識レベルで皆知ってる。俺達は小中高とエスカレーター式で上がってくるから、ほぼ全員が小学校からの顔見知りだ。長い奴だと幼稚園や保育園時代から一緒の奴もいる。

 にもかかわらず、友雪と葉山は同じクラスになったことが一度もないらしい。俺は友雪とは今回のを入れて4回。葉山とも2回は同じクラスになったことがある。

 高校のクラス発表で貼りだされた紙を見て、友雪の見えない耳が見る見るうちにしょんぼりと下がって、尻尾も元気なく垂れ下がっていくのが見えたのは、きっと俺だけじゃない筈だ。

 葉山はいつも通り、何も気にすることなく「今年もクラス違ったね~」と明るく言っていた。それを聞き、思わず顔に手を当て天を仰いだのも「ともゆきっっ!!」って叫んで駆け寄りたくなったのも、俺だけじゃない筈だ……!

 実際に、しょんぼりとしている友雪の肩をポンポンと叩いて自分のクラスに向かう奴等を何人か見たし。


 いや、ほんと、いくら5クラスあるとはいえ、幼稚園の頃から12年…更新して13年同じクラスになれないとか、呪いでもかかってんじゃねぇか? 今度お祓いとか勧めてみるか?


 そんなことをつらつらと考えている内に、朝のホームルームは終わり、もうすぐ1限目の授業が始まる……という所になっていた。取り敢えず、これから始まる授業の教科書とノートを机に出しておく。退屈な授業をぼんやりと聞きながら、黒板に書かれた文字をひたすらノートに書きこんでいく。

 カリカリとシャーペンを滑らせながら、無意識についた溜息。それから頭に浮かぶのは昨日の出来事。


 学校の裏庭、桜の木の下。花びらがひらひらと舞ってて、地面は薄ピンク色で綺麗で、シチュエーションとしては悪くなかったと思う。中学の頃に仲良くなって、気になっていた笹崎さんを放課後、呼び出した。

 笹崎さんはどちらかというと地味で、見た目も普通な方だと思う。でも凄く話しやすくて、友達想いで優しくて。気が付いたら目で追っていた。友雪じゃないけど、笹崎さんとクラスが離れて、落ち込んで……

 いや、でも付き合えばクラス関係なくね? とか、たまに2人だけで話したりもしてたから脈ありなんじゃね? とかさ、ちょっと夢みてたんだよなぁ。

 呼び出されたことで話の検討はついてたのか、ちょっとソワソワした笹崎さんが来て、どうしたのかと聞かれた。それに思い切って告白したんだよ。好きです、付き合ってくださいって。定番の台詞で。そしたらさ、返ってきた答えは

「ごめんなさい。私、友雪君が好きなの」だった。

「え? でも、友雪は葉山のことが好きだろ?」

 と条件反射で返してしまった俺は悪くないと思う。それに笹崎さんは怒る訳でもなく、笑って頷いた。

「そんなの知ってるよ」

 そんなの常識でしょ? という声が聞こえた気がした。

「じゃぁ……」

「好きになっちゃったんだから仕方ないよ。たまたま好きになった人に、好きな人がいただけ」

 確かにそれ自体はよくある話しだ。現に俺も今その状態な訳で……。

「えっと、じゃぁ、試しに付き合ってみるとかは?」

 我ながら女々しい気もするが、失恋確定している恋をし続けるより、新しい恋に目を向けるのも必要だよなと、自分を正当化してみる。

「うーん。ごめんね。私、友雪君たちの恋を見届けるまでは誰とも付き合わないって決めてるの」

「えー……高校卒業まで進展がなかったら?」

「その時は告白して、玉砕する」

 あまりの潔さにそれ以上は何も言えなくなった。俺はそっか、とだけ答えてその場から離れたような気がする。正直あんまり覚えてない。勝手に上手くいくって勘違いしてたせいか、思っていたよりも失恋のショックが大きかったらしい。気がついたら家に帰って、自分の部屋のベッドに突っ伏してた。


 それから、どうしたんだっけなぁ。多分、飯食って、風呂入って、寝たんだろうけど……


 はぁ。と何度目か判らない溜息が零れた。黙々と書き写した黒板の文字をぼんやりと眺めながら、俺の斜め前の席に座る友雪を視界の端に入れる。


 ピンと背筋を伸ばして、シャーペンを動かしているのが見える。糸目のせいでイケメンとは言い難いが、愛嬌のある顔だとは思うし、背も高いし足も早い。そして何より友雪は内面がイケメンだと思う。

 そのせいなのか、お陰なのか悩むところだが、友雪を好きだと言っている子は多いらしい。


 友雪が見た目も超イケメンで、それを鼻にかけてるような嫌な奴だったなら、爆ぜろ!って思って恨めたんだけどなぁ。


 また溜息が零れた所で授業終了のチャイムが鳴った。それから昼休みまで、やっぱりどこか薄ぼんやりとした思考のまま時間が過ぎていった。


 昼飯は俺と俺の後ろの席にいる黒縁眼鏡の鈴木と、友雪の3人で摂る事が多い。今日も相変わらずのメンバーで俺と鈴木の机をくっ付けて、友雪は俺の席に座って、俺は隣の席の椅子をちょっとの間、拝借してそれに座る。基本的に友雪は母ちゃんか姉ちゃんが作った弁当で、俺と鈴木はパンを食べていることが多い。

 今日も家族が作ってくれた栄養バランスのよさそうなお弁当を広げていた。もうすぐ体力テストがあるから、話題はどうしてもその辺の事になる。

中学の頃の成績がどうの、みたいなことを言ってるうちに3人とも食べ終えて、友雪が弁当箱を片付けたくらいのタイミングで、2年生の先輩が友雪を訪ねてきた。

その後、そのまま用があるとどこかに友雪を連れて行ってしまった。残された俺と鈴木は「あの先輩って陸上部の人だっけ?」「多分?」と首を傾げつつ、何か話題がないかと思案している所で


「あれ?」

 と声が聞こえた。声の方を見ると、葉山が教室を覗き込んでいる所だった。

「葉山じゃん。どうした?」

「あ、田中君、鈴木君。友雪は?」

俺(田中)と鈴木に気付いた葉山は、教室に入ってきて、きょろきょろと辺りを見回す。

 相変わらずの友雪のタイミングの悪さに頭を抱えたくなるが、ここは少しでも引き留めてやらねば……と謎の使命感にかられる。

「さっき先輩に呼ばれてどっか行った」

 って、鈴木ー! それ言ったら、葉山のことだからすぐ帰っちゃうだろ。空気読めよ! く・う・き!

「そっか。じゃぁ、伝言お願いしていい?」

「いや、もうすぐ戻ってくると思うし、ちょっと待ってたらいいんじゃね?」

 やっぱりそうなるよな! と内心で突っ込みつつ、友雪の席に座るように勧めるが、それは首を横にふって断られた。

「別に大した内容でもないから」

 聞かれて困る事もないし、と案に伝えられ、さっさと用件伝えて戻りたいオーラが凄い出てる。


 ごめん、友雪。葉山を引き留める理由が思いつかない……


「今日の放課後は用事が出来たから、1人で帰って~って伝えておいて」

「毎日、一緒に帰ってんの?」

 わざわざそう伝えに来るって事は、そうなんだろうな。と俺も思ったが、そこは鈴木の方が気になったらしい。

「毎日って訳じゃないよ。今日みたいに用事があれば別々だし。お互い部活が本格的に始まれば時間もズレるし、ただ、友雪が気付いたら迎えに来ることが多いから、入れ違うと悪いなって思ってね」

 先に帰ったとも知らずに、校内を探し回るのも可哀想だという事だろうが、律儀にそれを伝えに来るってことは、何だかんだ満更でもないんじゃないか? と、ちょっとだけ期待して葉山を見たら

「じゃ、よろしく~」と片手をあげて、俺と鈴木に軽く手を振った後、あっという間にいなくなってしまった。

 うん、どっちなんだろうなこれ……。いやでも、嫌いな奴とは登下校、一緒にはしないだろうし……


 そして案の定というか何というか、葉山がいなくなって、ほんの数分で友雪が戻ってきた。

「ただいまーって、拓也君、どうかしたの?」


 ああああ。やっぱりもう少し引き留めてやるべきだった……まじ、ごめん。


「え、いや、何でもない。あ、そうそう、葉山が来たぞ」

「美姫ちゃんが?」

 頭を抱えてた俺を友雪は心配そうに見ていたが、葉山の名前を出した途端、一気に興味がそっちに移った。

「今日、用事が出来て一緒に帰れないから、1人で帰ってくれってさ」

 な、と鈴木に言うと、鈴木も頷いて「そう言ってた」と同意する。それを聞いた友雪は明らかにしょんぼりとした表情を浮かべた。

「そっか。分かった。教えてくれて有難う」

 お礼を言って微笑んだ筈の友雪から、クゥーンって声が聞こえる気がするんだが?! これ、幻聴だよな? 何だろ、すげー罪悪感。

「葉山と帰らないなら、俺達と放課後どっか行こうぜ」

 思わず誘ってみたが、友雪はそれに首を横に振って申し訳なさそうに笑った。

「今日はお家に帰るよ。ごめんね。また今度、どっか行こう」

「いいって、気にすんな」

 明らかに落ち込んでいる友雪の背中を軽くバシバシッと叩いてやる。大きい筈のその背中が何だか小さく感じた。


 うん。俺も笹崎さんに倣って友雪の恋の行方を見届けよう。てか、出来る限り協力しよう。早くまとまれば俺の恋も進展するかもしれないし。


 何より放っておけないこの友人の恋を、俺はこの日、本気で応援すると心に決めた。



ここまで読んで頂き、有難うございました。

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