変わらない形
お初にお目にかかります。神羅 真です。
普段は別サイトにて二次をちまちまと書いています。
今回、苦手ジャンルの恋愛を書いて投稿するのはとても不安ですが、キャラクターに思い入れのある作品になるので、楽しみながらやっていこうと思っています。
文才も文章力も皆無ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
これから宜しくお願いします。
「美姫ちゃん」
「何?」
少しだけ前にいる美姫が僕の呼びかけに振り向く。ぱっちりとした茶色の目が僕を見上げる。ふわりと香る美姫ちゃんの匂いにドキドキしながら、笑いかける。心臓は苦しいくらい早く動いて、手汗で持っているカバンが落ちそうになる。
「好きだよ」
「あー。はいはい。今日も相変わらずだね」
平静を装って告げた言葉に、またか。みたいな顔して、美姫ちゃんの顔に浮かんだのは苦笑。それに少しだけ泣きそうになるけど、えへへって笑って誤魔化す。
「友雪、行くよ。のんびりしてたら遅れちゃう」
セーラー服のスカートがひらっと揺れて、美姫ちゃんは僕から視線を外す。
「あ、待って」
先を行く美姫ちゃんに置いていかれないようにと僕も続く。【葉山】と書かれた表札が目の端に写って少しだけ気まずくなるけど、今日は会った瞬間、気持ちが溢れちゃったんだから仕方ないよね。
美姫ちゃんのお父さんに聞かれてなくてよかったなって後から思ったけど、他に誰もいなかったから、結果オーライ。
アスファルトで舗装された通い慣れた道を2人で歩く。つい数日前に高校入学した僕達は、小学校からの習慣みたいな感じで一緒に登校している。とは言っても、僕が美姫ちゃんと登校したいから、毎日声をかけてるだけなんだけど……。
住宅街が終わる交差点まで来ると、他の学生達の姿が見え始める。美姫ちゃんの家からこの交差点までが、2人だけの貴重な時間……なんだけど、それを気にしてるのは今の所僕だけ。
5分も歩けば交差点に着く。信号を渡って真っ直ぐ歩けば、僕らが通っている学校に行くことが出来る。ちなみに、交差点を右に行くと中学校。左に行くと小学校がある。
丁度赤信号に変ったばかりで、2人並んで信号を待つ。真横に美姫ちゃんの気配があるだけでソワソワとしてしまう。ちらりと横目に美姫ちゃんを見ると形の良い頭と旋毛が見えた。
顔、見えないなぁ
出会った時はそんなに背の高さも変わらなくて、いつでも目が合っていたのにな。
「美姫ちゃんは高校でも水泳部に入るの?」
少しでもいいから顔が見たくて、ちょっとだけ気になっていた事を聞いてみたけど、顔の向きは変わらず前を向いたままだった。
「そのつもり。他も一通り見学はしようかなって思ってるけどね。友雪は陸上?」
「うん。先輩から声もかかってるしね」
ふぅんとあまり興味なさそうな返事が耳に届いて、交差点からピッポ・ピッポという電子音が混ざる。青に変わった信号を確認して、2人で横断歩道を渡り切った。
他愛ない話をしながら、学校まで続く道を進む。通学路に沿って植えられている街路樹は薄紅色の花を命一杯咲かせている。撫でるだけの風が吹いて優しく枝葉を揺らす。半歩前を歩く美姫ちゃんの頭にひらりと、桜の花びらが落ちた。
「美姫ちゃん、頭に花びらついてるよ」
僕の言葉にぶんぶんと頭を振って花びらを落とそうとしている美姫ちゃんが可愛くて、頬が緩む。
あぁ、可愛いなぁ
「取れた?」
「ううん。取れてない」
「取って」
自分で取るのを諦めた美姫ちゃんが僕の方に頭を傾ける。意識してない美姫ちゃんの行動に、僕はドキドキして手が少し震える。さらさらとした薄茶色の髪を間違っても引っ張らないように注意しながらそっと触れて、薄紅色の花弁をつまんだ。
「取れたよ」
摘まんだ花びらを見せると「有難う」の言葉と笑顔が返ってきた。嬉しい気持ちと懐かしい想いにキュウッと胸が痛くなる。
手の平に花びらを乗せてそれをそっと握りこむ。
――昔も、今も『好き』の形は変わらない
何もなかったかのように美姫ちゃんは踵を返して、学校への道を歩き進める。僕はそれを追いかけながら、出会ったあの日のことを思い出す。
******
家から子どもの足でも10分程度で着く小さな公園に、母親とまだ1歳になっていない弟と一緒に行った日だった。
雲一つない青い空にポカポカとしたお日様。絶好のお出かけ日和だったけど、僕はあまり気のりしなくて、行きたくないと愚図っていたように思う。
当時、幼稚園に通っていたけど、すぐに熱が出たりして休みが多い僕には友達があまりいなかった。仲がいい子がいないわけじゃなかったけど、休みに一緒に遊んでくれる友だち何て誰もいなくて、パパは仕事でいなくて、ママは弟にかかりきりで、少しだけ寂しかった。
しかもその日はいつも遊んでくれるお姉ちゃんが土曜授業で午前中は学校があって、家にいるのもつまらなくて、しぶしぶ家を出た気がする。
最近歩けるようになった弟は嬉しそうにはしゃいで、母親に手を引かれてた。僕達が着いた時はまだ誰もいなくて、母親から好きなところで遊んでいいと言われた。
弟……こうくんは、おすなばであそびはじめた。ママはこうくんのよこでニコニコしている。ボクはブランコにすわって、ゆらゆらとゆれながらそれをみていた。
つまんない……
だれにもおしてもらえないブランコは、おもしろくない。ちょっとだけあそんだブランコをおりたら、ピンクのはなびらがクルクルまわりながらぼくのまえをとおって、じめんにおちた。
それをひろって、じっとみる。このかたちは『ハート』だ。このあいだ、かたちについてパパとママにおしえてもらったから、まちがいない。
かたちがたくさんかいてある、えほんをみながら、ひとつひとつ、おしえてもらった。しかくは、ハコとか、テレビ。まるはボールやおおきなケーキ。さんかくはおやま、ピラミッド。ほしはよるにおそらでキラキラしてる。
『ハート』は、こころやしんぞう。そして「すき」をかたちにしたものだってママがいってた。ぼくはちいさなハートをぎゅっとにぎって、うえをみる。
ブランコのちかくにある、ベンチのよこのところに、ピンクのおはながさいてる「き」がたっていた。
この「き」には「すき」がたくさんついてるんだ。そうおもうと、すごいことをみつけたきがして、ママにおしえてあげようとおもった。
「ママ」
「あ、友君、ちょっと待ってて、幸君がお砂口に入れちゃったから、お口綺麗にしてくるね」
「……うん」
こうくんの、くちやようふくはすなだらけで、ママがこまったようなかおをしてた。ママはこうくんをだっこして、すいどうのところへいってしまった。
ボクはすこしかなしくなって、ピンクのはながさいている「き」にせなかをくっつけて、じめんをみてた。
ひらり、ひらり。おちてくる「すき」のかたち。
「ねぇ、なにしてるの?」
とつぜんのこえに、ビクッと、からだがはねる。めのまえには、しらないこがたっていた。
あおっぽい、ながいズボンと、はいいろのパーカーをきてたから、さいしょはおとこのこだとおもった。ぼくのかおを、おおきなちゃいろいめでじぃっとみてくる。おひさまでキラキラしたうすいちゃいろのかみのけがきれいで、ぼうっとみていたら、また「ねぇ」っていわれた。
「これ……」
ボクはてにもっていた『ハート』をそのこにみせてあげた。わぁっとたのしそうなこえがそのこからきこえて、キラキラしためでボクをみている。
「さくらのはなびら。かわいい。ひろったの?」
こくんとうなずくと、そのこはにっこりとわらった。そのえがおに、どうしてかわからないけど、なきそうになった。
「あそこにたくさん、おちてるよ。いっしょに、ひろってあそぼう」
てをつなごうとだされたてを、ドキドキしながらにぎる。ギュッとにぎりかえしてきた「て」はあったかかった。グイグイとひっぱるそのこにひきずられるように、「き」からはなれた。
「みきはね、みきっていうの。あなたは?」
ジャングルジムのよこまで、「て」をつないでいどうして、そのこはなまえをおしえてくれた。おしゃべりのとちゅうから、おんなのこだとおもっていたから、なまえをきいて、やっぱりっておもった。
じめんがピンクいろになるくらい、はなびらがおちていた。もくてきちについたから、みきちゃんはつないでいた「て」を、パッとはなしちゃった。
そのとき「て」がはなれて、さびしかった。
それでも、きいてくれたことにはこたえないといけない。みきちゃんになまえをおしようとしたとき、つよいかぜがふいて、きやじめんのはなびらがぶわ~とうかんで、めのまえがピンクになった。
たくさんの『すき』がみきちゃんのうえにおちていく。
まるでボクのきもちみたい
みきちゃんはおちてくるはなびらに、たのしそうにはしゃいでいる。ボクはゆうきをだして「みきちゃん」とよびかけてみた。
「なに?」
「あのね、ボクは、ともゆき、だよ」
「そっか。じゃぁ、ともゆきくん。あそぼ」
このきもちはなんだろう。うれしいきもちとあったかいきもち。ぽかぽかするのは、おひさまがでているからなのかなぁ
きがついたらママとみきちゃんのママがいっしょにいて、なにか、はなしをしていた。
それから仲良くなった僕達は実は同じ幼稚園に通っていたり、家が凄く近所だったりって事が親同士の話でわかって、よく遊ぶようになった。弟に親を取られたような気がして、ちょっとだけやさぐれていた僕は、美姫ちゃんに会ってそれがすっかりなくなってしまった。
あの日、あの時、間違いなく僕は美姫ちゃんに救われて、それからずっと勝手に恋してる。
あの時よりも随分と大きくなった手に、小さなハート型の花びらが1つ。先を進む美姫ちゃんに向けてそれにフッと息を吹きかける。手から飛び出した花びらは美姫ちゃんに届くことなく、ひらひらと地面に落下し、薄紅色の絨毯の中に紛れてしまった。
埋もれる好きに思わず苦笑がもれた。コレくらい届いてもいいのに。
いつか、届くかな……?
校門をくぐり、靴箱へと向かう。残念なことに僕と美姫ちゃんはクラスが違うから、ここでいったんお別れだ。
「じゃぁね」
と手を振ってさっさと行ってしまう美姫ちゃんに手を振り返して、小さくなっていく背中に向かって呟く。
「……好きだよ」
片想い歴は10年以上だけど、高校生活は始まったばかりだし、これからだよね!
僕、頑張るよ。
決意を新たに僕も自分の教室へと一歩踏み出した。
最後まで読んで頂き、有難うございました。