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最強の剣

初投稿です。

楽しんでいただけたら幸いです。



「俺が間違っていたのか?」



 足元に並ぶ死体の山を夕暮れの橙が照らし、血の赤をぼかしていく。

 凄惨な戦闘の爪痕を時間がいくら濁しても、ジャハブ皇国の剣士長ガンジの後悔の念は強まるばかりだった。



 トニーにバックス。ゼイン、ジャン。それから、それから・・・。

 みんな俺について来てくれた家族にも等しい仲間。俺の部下たち。

 10日間に及んだ、前哨戦は俺を残して全員死んでしまった。

 隊長として正しく導けなかった、俺が殺したも同然じゃないか・・・。



 右手に持っていた身の丈程の大剣が、抜け殻の男に飽きたかのように、スルリと血まみれの大地に落ちていった。



「本隊は何故来ない。作戦では合流する手筈だったろうに、俺たちを何故見捨てた!!」



 仲間への悲しみが、今まで堪えていた怒りを呼び覚ました。

 その時、敵兵の死体の下から微かな声が。



「う・・・ぐっ。隊長」

「ジャン! おまえか!」



 死体の下から引きずり出した男は、隊のムードメーカーにして、槍使いの名手のジャン。

 いつも、最強の槍使いの称号たる蛇の刺繍を施した腕章をチラつかせては、みんなに生意気だって怒られる天才気質の若造。

 生きていた事への喜びで胸に熱いものが込み上げてくる。



「生きていたか! 流石は最強の槍使いだ!」

「へへっ。俺がオジさん達に負けるわけないっしょ。だって・・・はぁはぁ、天才ですから」



 そういって、いつもの様に腕章を見せようとするが、その右手が彼にはもう無かった。

 右手は2m先で自慢の槍を握ったまま、敵兵に誇らしげに刺さっていた。



「あれ? あんな遠くに・・・俺は負けたけど、あの槍は勝ったみたいっスね。ゴホッゴホッ!」

「おい! 無理をするな! お前も立派に戦った。お前も勝ったんだ! さっさと帰って一緒に酒を飲むぞ!」

「そいつは良いっすね。っで、さっきから立ち上がろうとしてるんすけどね。どうにも足の感覚がなくて」



 体を確認すると、胴には矢が3本刺さっていて、足は骨が折れているのか、あらぬ方向に曲がっていた。

 切り落とされた右腕からは、熱く滾らせてきた血が絶え間なく流れ落ち、彼から熱を奪う。

 こんな光景を幾つも見てきた故にガンジは悟った。

 彼がもう助からないと。



「ジャン! しっかりしろジャン!」

「剣士長。ダメっすよ・・・。泣きたいのは俺なんすからね。へへっ。どうやら、俺の最強は今日までみたいっす・・・ゲホッ! ・・・今までありがとうございました。」



 お調子者のジャンが丁寧に言い放った言葉に胸が詰まる。

 笑い泣きばかりしていた男が最後に流した涙は、重く、酷く冷たかった。

 魂の抜け落ちた英雄を強く抱きしめ。ガンジは世界を恨んだ。



「ジャン。お前はこれからも最強だ。ありがとう」



 そう優しく諭し、ジャンを弔った後、強い決意で立ち上がった。

 戦友の大剣を左手で拾い上げ、右手にジャンの槍を持ち、自らを強く在れと鼓舞するように歯を食い縛った。

 戦いの最中に、えぐり取られた左目は、もう何の像も結ばない空白の片目へと成り下がったが、あの日仲間と見上げた空をみて、一人吠えた。



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 我は、ジャハブ皇国の剣士長ガンジ! この戦、負けはしたが、死んだ仲間の分の首は頂くぞ!!」



 その咆哮を聞きつけ、敵国アーガスの兵士がガンジの周りを囲んだ。



「なに!? まだジャハブ皇国の生き残りが居たとは!」

「こいつ剣士長ガンジじゃねぇか。まだ生きていたとは、手柄がまた一つ増えるぜ」



 軽口を叩く敵国兵士を獣の様に睨みつけ、軋む体で剣を構えた。



「いくら死にぞこないとはいえ、アーガスの貴族兵士などに遅れはとらん! その細い剣で、この首を取れるか試してみろ!」

「なんと言おうが所詮、負け犬の遠吠え。この量の兵士を相手どこまで粋がれるかな!」



 そう言い放つと、敵国アーガスの兵士が一斉に切りかかった。

 だが、切りかかった先にガンジはもう居ない。

 ガンジの名が他国にまで広がっているのは、その現実味の無い大剣を持ち合わせている以上に、その速さだった。

 重い剣を背負っているため実際には、早く動けているわけではない。

 長年培った体裁きが、それを錯覚させているのだ。



「消えた!」

「遅いぞ!! はっ!」



 横なぎに振り出した大剣は、敵兵士3人をあっさり真っ二つに切り裂いた。



「ひえっ! バケモノっ!」



 続いて、右手のジャンの槍で一人、また一人と突き殺し。

 束で固まった間抜けどもには、大剣が噛り付くように貪った。

 その武は、まるで2つの頭を持つ双頭の竜の様だった。



「何が死にぞこないだ! あんなのに勝てるわけない」



 恐怖に駆られた者が現れ始めたとき、敵国の将がニタリと笑った。



「いやぁ、見事だ。敵ながらあっぱれ。我が国の兵士で無いのが惜しい。お前が居なければ、この戦の結末はもっと早い段階でついていただろうな」

「何を余裕ぶっている。はぁはぁ・・・。高みの見物では部下に笑われるぞ。臆病者よ」

「貴様らが何に負けたのか忘れたわけでは無いよな?」

「くっ・・・」



 そうだ。

 こんな鍛錬の一つもしていない、貧弱物に我が隊の精鋭が負けるはずが無かった。

 通常なら・・・アレが出てくる。

 刻印の使い魔。“刻獣”が。


コメントを頂いて成長していきたいと思っていますので、罵詈雑言でもお待ちしております。



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