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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

図書委員と図書室警備員4

作者: 朝吹小雨

これの続編です。

図書委員と図書警備員3

http://ncode.syosetu.com/n6179dj/

「大丈夫ですか!?」


図書室で女子生徒が倒れている。

図書委員の真西理晴は、女子生徒に駆け寄り、声をかける。

動かない。死んでいるのか。そんなまさか。

どうしよう。どうしよう。今日は能々が用事でいない。理晴は、よりいっそう心細かった。


「あのっ! 起きてください!」


もう1回声をかける。ぴくりと動いたような気がする。ほっとする理晴。


「うーん…。むにゃ、むにゃ……あれ?

 私、何してたんだろう。たしか本を立ち読みしてて、そのままうとうとして…」


女子生徒は、寝ぼけながら、ゆっくり起き上がる。

ずいぶん長い時間寝ていたのだろうか。ショートカットの髪から、寝癖がピコンと出てる。


「起こしてくれてありがとう。私は二年の冬後涼子」


「私、図書委員の真西理晴。同じ二年だね。大丈夫? 苦しいなら保健室に…」


「大丈夫だよ! あのね。ちょっと難しい本を読んでたら、眠くなっただけなの。

 ほら、これ。この本だよ」


涼子はそう言って、ぶ厚い本を理晴に見せ付ける。

タイトルは『資本論』と書いてある。


「し、資本論…?」


凄まじいタイトルの本に、理晴はうろたえる。

本好きの理晴でも、読むのをためらってしまうぐらい、難しい本だ。


「私、頭あんまよくないからさ。本を読めば、頭よくなると思ったんだよね。

 でも読んでたら眠くなっちゃう。まいったね。あっはっはっは」


だからといって資本論はレベル高すぎじゃないか?

理晴は心の中でそう突っ込んだ。


「あーあ、本読んで眠っちゃうなんて、私ってほんと馬鹿だなぁ。

 どうしよ。もっと簡単な本から読んだほうがいいのかな?」


あるよ。もっと簡単な本が。理晴の図書委員魂が、ぼわっと燃え上がる。


「それなら……もっと簡単な本があるよ」


「えっ? マジで。教えて教えて」


涼子が食いつく。目がきらきらしてて、とびっきりの笑顔だ。

なんか、子犬に頼られてるような気分になる。


とは言え、何をオススメしていいのやら。

理晴は少し考えてみる。


あの本にしようかな。この本にしようかな。

涼子に合いそうな本は…なんだろうか。


「ショートショートとかどう?」


「えー? ショートショート? ショートケーキなら知っているけど」


「くすっ。そうじゃないよ。

 ショートショートって言うのは、とても短い小説のこと。

 お話がおもしろいから、最後まですらすら読めるはずだよ」


「ほー。なんかよくわからないけど、ショートショートを読めば頭よくなるというのはわかったよ!」


頭が良くなるとは、ひとことも言ってない。

だが、涼子はとりあえず納得したようだ。


「ほら、ショートショートの小説集だよ。これを読んでみようよ」


小説集を涼子に渡す。


「どれどれ…ふむふむ。なるほどなるほど」


小説集をぺらぺらめくって読む涼子。真剣なまなざしだ。


「うーん…?」


涼子の顔がだんだん青くなり、あまりつまらなそうな顔をしている。

ついには首をかしげてしまった。


しまった。あまり面白くなかったのだろうか。

理晴はあわてだす。


「あの…。あまりおもしろくなかったかな?」


「いや、そうじゃなくて」


「?」


「ここの字がなんて読むかわからないんだよ」


涼子のひとさし指が、漢字を指す。読めない漢字らしい。小学校で習う漢字だ。


「えー、えっと、その漢字の読み方は…」


理晴は、漢字の読み方を教えてあげる。


「漢字に詳しいね」


「え、えへへ…そうかな?」


理晴は、ひきつった顔で笑う。

まさかその漢字がわからないなんて。

本を読まない人の漢字レベルって、そんなものなのかな。

理晴は軽くショックを受けていた。


「よし、漢字おしえてもらったから、ショートケーキをいっぱい読めるよ!」


「ショートケーキじゃなくて、ショートショート」


「あれっ? そうだっけ。まあどっちでもいいや。あっはっは」


よくありません。


「あれっ? この漢字なんだっけ。理晴、読める?」


「え? その漢字の読みはね…」


こうやって、読めない漢字に次々と引っかかるものだから、どうしようもない。

まさか、1つのショートショートを読むのに、30分もかかるとは思わなかった。

せっかく読み終わったけど、涼子はあんまり楽しそうじゃない。

これじゃあ本が嫌いになっちゃう。理晴は「私が読み聞かせようか」と切り出す。


「私が本を読み聞かせてあげるね。ほら、あそこに座ろうよ」


「読んでくれるの? ラッキー!」


理晴と涼子は、図書室のイスに、ふたり並んで腰かける。


「むかしむかしあるところに、お兄さんとお姉さんが住んでいました…」


「理晴の声、かわいい。癒されるし、うっとりする」


「えっ、そ、そうかな? 照れるよ」


「ほら早く、続きを読んで!」


声をほめられて、気を良くした理晴。

ナレーターになったつもりで、すらすらと読み進めていく。


「あっ…」


理晴は、左肩にあたたかいものを感じた。と同時に、さわやかな風のような匂いも感じた。

涼子が、肩に手をおいたのかな? と思ったら、違った。


涼子の頭が、理晴の肩にもたれかかっていた。

目は閉じている。寝ているのだろう。


「涼子ったら、居眠りしちゃった」


「すーすー」


幸せそうな寝顔だ。

理晴の読み聞かせが、とても気持ちよかったのかもしれない。


それにしても顔が近い。理晴の顔のすぐ横に、涼子の寝顔がある。

理晴は、なんだか困るような、照れくさいような、変な気持ちになった。


涼子は、そんな理晴の戸惑いも知らず、すーすーと気持ちよさそうな寝息をたてている。

涼子の身体のさわやかな匂いを感じる。

良い匂いだなぁ。理晴は、本のことなんて、どうでもよくなってきた。


起こしちゃ悪いから、そのままにしておこう。

理晴は涼子の目が覚めるまで、何もしないことにした。

ゆっくり本を閉じ、机の上に、静かに本を置く。


何もできないので、図書室の窓の外をぼんやり眺めるだけ。

太陽がさんさんと輝いている。いい天気だ。ぽかぽかした気分になる。

うとうと…。とうとう理晴も眠くなってきたようだ。


(あっ、わたし寝ちゃう…? まあいいや。どうせ図書室に人なんて来ないし)


この高校は、図書室利用率が低いから、どうせ誰も来ない。寝ても大丈夫。

心の中にいる、少しだけ悪い「理晴」が、現実の理晴を誘惑する。

現実の理晴は、あっさり誘惑にひっかかった。


理晴の瞳は、やがてゆっくり閉じられ、頭が傾いていく。


ふぁさっ。

理晴の頭と、涼子の頭が、くっつく。

少しだけ長い理晴の髪が、涼子の顔を優しくなでていく。


小鳥同士が身を寄せ合うような、あたたかな雰囲気で、ふたりは眠り続けるのだった。


そんな幸せそうな二人をよそに、図書室のドアから入ってくる生徒がいた。


「図書室に忘れ物しちゃった。早く見つけないと。

 あれ? 理晴先輩がいない…。

 どこ行ったんだろう? あ、図書室の奥のほうかな」


東川能々。理晴の後輩にあたる、図書委員だ。

今日は用事があり、放課後すぐ学校を出たが、図書室に忘れ物をして戻ってきたらしい。


「あ、机のイスのところに、先輩が座っている」


本棚に隠れながら、こっそり理晴に近づく。

わざわざこっそりする必要はないけど、それが能々の性格だった。


「せんぱ……あっ」


能々は見てしまった。気持ちよさそうに、頭をくっつけて眠る、理晴と涼子の姿を。


何があったんだろう。先輩の隣で寝てるこの人は誰だろう。


何も知らない能々は、なんだか気まずい気持ちになり、忘れ物を回収すると、

無言のまま、すばやく図書室を出て行くのだった。


おわり

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