拾い者が従業員へ強引にジョブチェンジした
勢いで書きましたので、設定なんかはないに等しいのですはい。頭空っぽにして読んで頂ければと思います。
「えぇあの、だ、大丈夫ですか?」
「君の、目には、どう……見えるんだ、お嬢ちゃん」
鍋食べたいなんて思い、そうだ今日はきのこ狩りだと王都裏の山に来た私。今なら山に入る前に今日は大人しく魔道具を作ってろバカタレ!と一喝したのになんてこった、持ってきたリュック一杯にきのこを採ってほくほくしてた所、瀕死のお兄さん……いやおじさんか分からん判断が難しい。が、木の根元に座り込んでいたのだ真っ青な顔で。流石に見なかった事にしようにもバッチリ目が合ったので声を掛けてみたのだ。
「何かヤバイものでも拾い食いしたのかと……」
「ははっ、違い、ない」
拾い食いで死にかけてるらしい。
この山で拾い食いするなんて驚いた。なにせこの山、基本毒を持つ動植物しかない。勿論、毒抜きの方法もあるしきちんとした処理をすれば絶品な食べ物になりはするが、それは専門職にお任せが懸命な判断と言うもの。私?私は大丈夫ちゃんと資格取ったもの!
まあ、それはさておき目の前の人に水筒を渡す。直接飲むタイプだが私はまだ口を付けてないしいいだろう、私はこの後新しい水筒買うけども。ついでにどんな物を食べたのか聞けば、紫色でつるつるしたきのこだと言うじゃないか。なんで紫色のやつ食うんだよ、見るからに毒持ってます!なきのこだろうに……。いけると思ったとか貴方の頭は何が詰まっているのですか、生存本能をもっと高めてよ。
「はあ……、じゃこのきのこ食べて下さい。治りはしませんが、症状の緩和はしてくれますから」
「いやぁ、むぐっ!」
背中のリュックから採ったきのこを出して口に突っ込んであげた。
この人が食べたきのこはおそらく『タオレダケ』だ。強い痺れや腹痛起こすのだが、屈強な男でさえ動けなくなる程のきのこなので危険度は5段階の5とされているのです。ただ、見分けは簡単なので数年に一人急患が出るかなぁ位。この人がいけると思った事が如何におかしいか分かるでしょう?私、初めて食べた人見たわ。特効薬はなくて、とにかく毒の成分が体外に出てしまうのを待つしかない。
私がさっきまで採っていた『キノダケ』は洗浄作用がピカイチで、とにかく不要なものをいち早く出すならこれと言われている。
「因みにどれ位の量を?」
「い、一本丸ごと……」
「うわ、よく訳の分からない物を丸ごといけますねぇ。多分、明日までかかると思いますよ?毒が抜けてしまうのは」
段々と汗が吹き出てきてるのを見て、ああやっぱりピカイチだわと納得。あと一時間もすれば汚い話、大の方も軽快に出るだろう。便秘にはこれ!と私の住んでいる通りの女子ならば常識だものね、一昨日も鍛冶屋の職人さん達の奥様方が買っていったし。
あれ、そう言えばこの人は何故こんな所に居るのだろうか?この山に入っておいて知識無しに危ないきのこをいけると思うような人はこの国の人間ではまずないだろう、なら隣国?いや待てよ隣国にだってこの山の事は有名だと聞いた事があるぞ。『毒山』なんて呼ばれるこの山は私には宝の山だが、資格と知識のない人には死亡フラグの山らしい。
「お兄……おじさ、いやお兄さん?うーん、まあいいや。貴方、どこの国の人間ですか?」
「お兄さん!まだ28歳だからっ……て言うかさっきから汗が止まらないんだけど」
28歳かぁ、それにしちゃ貫禄が有りすぎるというかなんと言うか。髭位は剃ってみたりちょっと整えたりしたら良いのに、無精髭が目に痛い。あ、髭のせいか?おじさんにも見えない事もない感じは。
「不必要な毒素を出してるんですよ、私ちゃんと資格持ってますから大丈夫です。で、どこの国の人間ですか?事と次第によっては憲兵に引き渡しですけども」
「ハハッ……根無し草だから、何処の国にも今は所属はしてないなぁ。なんならお嬢ちゃんが拾ってくれてもいいぜ?」
なんと根無し草だった、故郷はなしか。
今は、と言う事はつい最近までは何処かの国に所属はしていたんだろう。まあ、何の職業かは聞きたい所だけどそろそろ家に帰りたい。きのこは採れたし、肉やら野菜は買ってから出てきたもの。このお兄さん(自称)にはちゃんと対処してあげたし、なんの心配もない!
「私の店、人足りてるんで大丈夫ですっ!じゃ、夕暮れには回復してると思いますからさようなら」
親指立ててグッバイ!と帰るべく回れ右した私に、お兄さんがちょっ放置とかないよとか言ってるが聞こえなかった事にしよう。お兄さん、厄介な気配がぷんぷんするもんなぁ。所属とか言葉選びがもう厄介、せめて住んでないとか根無し草で止めといて欲しいものだ。
「店やって……うっ、なんだ腹痛いんだけど」
「あ、まあ体を綺麗にしようとしてますからね、そりゃあ出すもの出そうとしますよ。大丈夫!全部出したら心も体もスッキリ爽快ですから!」
「ちょっなにそれ?!うわ、やべっトイレはっ?!」
この山の中にトイレなど有るわけがない。ので、そこの草むらは丁度良いんじゃないかと教えてあげたのに恥ずかしいって駄々をこねるとはこれいかに。流石に私だって草むらに行ったらちゃんと離れるつもりだし、耳だって塞ぎながらそっと帰るよ?なにもここでガンガンに見るつもりなんか死んでもないよ。
赤くなりつつデリカシー無さすぎだと抗議されるなんてとっても不本意。むしろ、見ると思ってるのがデリカシーなくない?それとも見られて興奮する性癖なのか?どちらにしても、私は不本意極まりない。まあ、取りあえずそっと必要だろう紙を渡して耳を塞ぎ王都の自宅へ向けて改めて出発した。なんか、耳を塞ぐ瞬間に追いかけっからな!なんて捨て台詞が聞こえた気もするが気のせいだよね。そう、気のせい。早く出しきれるといいねとせめて祈ってはあげよう。
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「…………あれ、お兄さん草むらトイレットに缶詰めじゃなかったんですか?」
「回復した。で、お嬢ちゃん店やってんだろ?俺の事雇って」
「えぇ~、ふてぶてしい上に図々しいんですけど……」
一時間かけて山を下りて、一キロ程先の王都の北門までもうちょいだ頑張ろうと思った所、あの真っ青で汗だくだったお兄さんが目の前に現れた、顔色は大分ましになっておりこうして元気に私を追い掛けて雇ってと言う位だ確かに回復したよう。ふんぞり返ってるけどね。
「雇うにしても、一体何が出来るんです?うちの店、専門職なんですけど」
「そうだなぁ、用心棒的な?」
「的なって……いや、仕事欲しいなら王都ぐるっと回ればそれなりに募集してると思うんですけど」
私の職業は魔道具師である、まあ詳しい内容は別の機会にでも。アクセサリーを主に作っているので多少狭くとも問題ない。しかも店を出している通りは通称『静寂通り』王都でも指折りの気難しく腕っぷしも有る職人が軒を連ねる通りである。あの通りで何か一つでも買い物出来たら一人前、と憲兵の間では言われているらしい。
そんな通りに私も店を構えているので、用心棒要らない。腕っぷしは普通だが、得意の魔道具で色々やるし騒ぎを聞き付けて参戦してくれるご近所さんも居るしで何の心配もない。むしろ、私の店でやられるのが一番酷いらしくあの店で無傷で生還したら尊敬すると酒場でほろ酔い憲兵が力説していて、思わず呑んでいたビールを盛大に噴き出す所だった。つい先日の出来事を思い出していた私に、なんとも胡散臭げな笑顔を浮かべたお兄さんが仲良くしようぜばりに手を差し出てきた。
「まあまあ、これも何かの縁だ。なら助けてくれたお嬢ちゃんに世話になるってのも良いだろ?」
「いや、私が何一つ良い事ないんですが……」
「気にしない気にしない。大丈夫だ、紳士的な接客してやるよ、色んな害虫駆除だって出来るしな!て事で、宜しくなお嬢ちゃん」
色んな害虫って何だ。
私の店はクリーンな商売してるし、変な客は居ても妨害するような客は居ない。あと手、問答無用で握ってくるの止めて欲しい。草むらトイレットに手洗い場なんぞ有るわけないから手を洗ってないでしょうし、王都に入ったらまず手を洗おうと決めた。
宜しくするなんて一言も言ってないのに当たり前のように私と並んで王都のどの辺なのお嬢ちゃんの店~とへらへらしているのが腹立たしい。この感じは結局、雇わないと余計に面倒この上ない事になるんだろうと溜め息をついた。
きのこのついでに、従業員も拾ってしまいました。