六
激遅投稿(約一年ぶり)
「そういえば、竹刀袋が何で花壇にあったんだ?」
ふと疑問に思い、藤乃に聞いてみる。
藤乃は大きなカツを口に運ぶ手を止める。
それから少し考え込むように顎に手を当てた。
「推測ですが、混線したのではないかと考えられます」
「混線?」
「はい。あの竹刀袋はこの土地にとって敵性だと判断される何者かが侵入した際に、守護する人物の元に現出します」
「便利だな」
「普通は私の近くに現出するのですが、本来の守護者である喜井地家のあなたの引き寄せられたと考えるのが妥当かと」
「そうか。でも今までそんなことなかったんだろ?」
「はい。今回だけ喜井地君の元に現出した理由は分かりません」
そう言って、藤乃は再び箸を進め始めた。
次の日の早朝から稽古が始まった。
初めは素振りをして、途中から組み手の形式で打ち合った。
藤乃はさすが有段者と思わざるを得ない強さで、加減なしでは相手にもならなかった。
何と言うか、無駄がない。
俺がむちゃくちゃに打ち込んでも、全て防御された。
隙かと思って振ると、それは振らされただけで、的確に面を打たれた。
少し悔しかったのと、法眼が『代われ』と言うので、一度身体を明け渡した。
すると、俺であって俺でない身体が、藤乃から一本取った。
その後、藤乃のみ呼吸法を使用しての組み手になったが、法眼は一本も取られなかった。
どんだけ強いんだこのご先祖様……。
そして数日経過すると、俺ではなく藤乃の腕が上達していった。
俺は体力と筋力が以前と同じくらいに戻ったという結果だ。
「本日もご指南ありがとうございました!」
「うむ。お主はおなごの割りには飲み込みが早い。教えていて楽しいぞ」
「ありがとうございます!」
『お、俺の稽古ではなかったのか!?』
「それは幻想だのう。そもそも小僧、お主は上達の見込みがない」
『ひでぇ!』
「それは嘘だが、実際このおなごを指導する方が効率的だ」
なんだこの扱い。もしかして俺の力は必要ない?
俺は才能が少ない。って感じか。法眼されいればいい。って感じだろうか。
少し落ち込んできた。数日前の活躍も法眼の技量によるものだ。
つまり俺の存在価値は法眼が憑依できる身体。それのみだと言えなくもない。
言えなくもない、と婉曲に言ったが、それのみだと言い切れそうだ。
しかし、どんな形であれ誰かに必要とされている。
それでいいじゃないか。間違っていないのだから。
「しかしまあ……お主にはお主にあった修行が必要だのう」
『え? 今している稽古じゃだめなのか?』
「多少は強くなるが……、もっと根本から変えなければなるまい」
そう言った後、法眼は身体を俺に返した。
『ほれ、自分の身体を見てみよ。何か気付くことはないかの』
俺は手や足を見てみる。しかし特に変わったところは見つからない。
「何もないが……」
『それが自体が問題とは思わないのか?』
「はあ……」
『仕方ない、説明してやろう。
お主はつい数日前に戦いがあったことは覚えているな。その時、お前の身体には飛苦無での傷ができていたはずだ。それにわしが憑依して無理に動いたせいで筋がズタズタになった』
「確かに、でもそれはお前が〈回虎〉を使って治したんじゃないのか?」
『それで治せるなら何故おなごに肩の治療をさせた?』
「それは……」
『お主の身体ではできなかったからだ。しかし、お主にはもう傷がないのだ。特異体質とでも言おうか、昔お主と似た体質の者が……居た。だから分かるのだ。お主、血が足らん時があるだろう』
「え、ああ。普段から少し貧血気味だな。医師にもなんか変な顔されながら、とりあえず赤血球を増やすために鉄分を採るよう言われた覚えがある」
『ふむ。それと似たような感じだのう。
お主、これから食事の量を増やせ、回数も増やせ。それが修行だ』
「食事の量と回数を増やす!?」
俺が声を上げた時、藤乃の瞳が輝いたのを俺は見逃さなかった。
書かなきゃ(使命感)