6話 マタタビと一旦お別れ
すいません、キャラメイクで話が終わってしまいました。
食事会が終わり翌日、トウカと朝食を食べた後一服し腹ごなしにマタタビと中庭を散歩をしてから多目的ホールの自分のスペースに向かった。
トウカと別れ自分のスペースに入るとすでに安達医師が待機していた。
中の様子は昨日と違い俺の使う機械の横には昨日なかった小型の酸素カプセルが設置されていた。
「おはようございます、昨日はよく眠れましたか?」
「おかげさまでぐっすり眠れました。昨日はお手数おかけしました」
安達医師と挨拶を交わしながら俺の使う機械の半分ぐらいの酸素カプセルについて聞いてみる
「これがマタタビ用の機械ですか?」
「ええ、ペット用に小型化、調整したものです」
「そういえば今更ですが、この機械は名前なんて言うんですか」
今更ながら機械の名前を聞いていない事に気が付き質問すると安達医師は苦笑いしながら
「まだ正式な名前は無いんですが、一応我々はVRポッドと呼んでます。商品化の際にはこのカプセル型とヘルメット型の2種類を発売する予定です。ヘルメット型よりカプセル型の方が性能が良いのですが、どうしても値段が高くなってしまいますし、場所も必要ですからヘルメット型の方が需要がありそうですけどね」
と答えてくれた。
それにしてもゲームのタイトルといい、VRポッドといい名称が決まってないのが多くないか?
βテストの段階だとこんなもんなのか?
「昨日食事会でアイリッシュ・ウルフハウンドという大きな犬を連れていた男性テスターと仲良くなったんですが彼のペットにはこのペット用のVRポッドでは無理じゃないですか?」
昨日見たリキオーは大きかったなぁと思いながら安達医師にきいてみた。
「ああ、詳しくは知らないですが事前に申告があって人間用のVRポッドを調整して使うことで話がまとまったみたいですよ」
なるほど、流石にペット用では無理だったようだ。
まぁデカいからしょうがないよね。
そんな世間話をしながらキャラメイクまで時間を潰した。
「そろそろ時間になりますのでVRポッドに入って『ダイブ』といってください。そうするとキャラメイクの空間に移動できます。最初は驚くとは思いますが落ち着いてください。マタタビ君は最初はこちら側でスイッチを入れて移動させます。直ぐに同じキャラメイクの空間で会えるので安心してください。それでは世界初のVRMMOを楽しんでください」
俺は頷き、マタタビにまた後で会おうなといいながら一撫でしVRポッドの中に入った。
やべー、ドキドキする。本当に大丈夫か?
でもマタタビは問題なかったし・・・俺、冷静なつもりだったけどいきなりマタタビに機械つないで・・・最悪だな。
後で謝ろう。
自分の昨日の行いに頭が冷えて冷静になったところで目を閉じ。
「ダイブ!」
俺はVRの世界に飛び込んだ。
目を開けるとそこは一面真っ白な空間だった。
「おー小説とかでよくある仕様だな」
なんてくだらないことを考えていると隣が急に光だしマタタビがやってきた。
「おっ、マタタビ来たか、問題なさそうか?」
「はい!昨日は急に何も見えなくなって驚いてしまいましたが、今日は主殿の姿も見えますし、すぐそばに居てくれるので大丈夫です!」
「・・・昨日はいきなり機械につないだりして悪かった。急に目が見えなくなれば誰でも不安になるし取り乱すよ。あれは話もしないでいきなり機械を付けた俺が悪い、ごめんな」
俺はマタタビの返事にやはり悪いことしたなと改めて思い謝罪した。
「いえ、終わったことですし気にしないでください。それに昨日の取り乱し方を思い出すと恥ずかしいので、もう触れないでいただけたら嬉しいです」
そう言いながらマタタビは顔を逸らした。
「そうか、了解した」
俺の謝罪が一段落すると目の前が光りその中から30cm位の大きさの妖精が現れた。
「ようこそ神様ワークスオンラインへ。『何者だ!主殿お下がりください!』『落ち着けマタタビ。これはゲームの案内をしてくれる妖精?だ』『・・・そうなんですか?小人に虫のような羽が生えていて何とも不思議なものですね、初めて見ました』『妖精は人間が物語の中で想像した物だから実際にはいないさ、でもこれから行く世界には見たことのない物がたくさんあるはずだから楽しみにするといい』『はい!楽しみです!』・・・よろしいでしょうか?私はマタタビ様をサポートするAIでイマルと申します。よろしくお願いいたします。」
「私のサポートですか?」
そう挨拶をしたイマルさんにマタタビは不思議そうな表情で質問した。
「はい、今回マタタビ様は人間型のキャラをお使いになると言う事なので歩き方を始め体の扱い方のトレーニングを行います。私はそのサポートの為に作られたのです。今回は挨拶を兼ねてキャラメイクの説明も一緒にさせて頂きます」
「そうなのですか。私の為にわざわざすみません。よろしくお願いいたします」
マタタビは納得したように挨拶をした。
「ちょっと確認させてくれ、マタタビにトレーニングが必要なのは事前に聞いていたから構わないのだが、俺は一緒に居てやることは出来ないのか?俺は自分でトレーニングをしてやるつもりだったのだが」
「はい、マタタビ様にはキャラメイク後トレーニング用のエリアに移動していただきます。このエリアは本来のゲーム用エリアの時間圧縮率の倍になっております。もちろん、服織様が一緒に居ていただくことも可能ですが、マタタビ様のトレーニングにつきましては職員のペットのデータを基に作成したメニューがございますのでそちらの方が効率がいいと思われます」
成程、専用のトレーニングメニューが用意してあるなら確かに効率はいいだろう。
「トレーニング内容については了解しました。確かに専用メニューがあるならその方が効率いいのでしょう。それについては口出ししません。ただ、マタタビの側で応援する位なら問題ないでしょう?」
「ええ、マタタビ様も服織様が近くにいた方が安心できるでしょうし構いません。ただ、トレーニングに進み具合によってはゲームの進行がほかの皆様に比べてかなり遅れてしまう可能性がありますがよろしいでしょうか」
「ええ、別に競争しているわけではないので構わ『待ってください、主殿!』・・・どうしたマタタビ」
「主殿、私は一人でトレーニングを受けようと思います!主殿が側にいていただけるのは心強いですが、私は主殿の足手まといになりたくないのです!それに主殿は今日の朝からソワソワしていたのでこのゲーム?というのを楽しみにしているのもわかっていますので先に行ってください!がんばってすぐに追いついて主殿をビックリさせて見せます!」
マタタビが俺の言葉を遮って発言をするというのは珍しい気がする。
言葉を交わせるようになってからはもちろん、今まで俺が話しているときに鳴いたりアピールしたりする姿を見たのは子猫の時以来だろうか?
マタタビは決意のこもった目で俺を見つめている。
「意思は固いようだな」
「はい!やり遂げてみます!」
「ふぅ、解った。だが、くれぐれも無理だけはするなよ。それだけは約束してくれ。それから、一つ言っておく。俺はマタタビを足手まといだなんて考えていないが、どんなに時間が掛かっても待っているから納得するまでやってみろ」
「はい!ありがとうございます!」
「・・・話がまとまったみたいですね、それではキャラメイクを始めましょう!」
イマルさんの事忘れていたわけではないんだよ?ほんとだよ?
イマルさんの宣言と同時に目の前に人型が現れた。
身長が185cm位の肩幅のがっしりした体、筋肉質だが薄く脂肪がのっていてマッチョという感じではない。
顔は眠そうな目が気になるが可もなく不可もなくという感じか。
髪は軽く目にかかりボサボサ、白髪が多いな・・・ってまんま俺の姿だった。
「再現率が半端ないな」
「昨日の健康診断のデータを読み取った素体になります。最初に名前の設定をしてください。その後容姿の変更になります。」
「容姿の変更は実際の姿から大きく離れるとダイブアウトした際クラクラしたり気分が悪くなったりする場合がありますので変更箇所は種族・髪型・髪色・肌の色・目の色・年齢・体重は±10kg・身長に関しましては±5cmまでとさせていただきます。また、種族を変更しますと体の一部に特徴が出ますのでご注意ください」
「解りました。名前は〈イップク〉でお願いします」
「次は容姿の変更です」
と言われてもそんなに変更するつもりはないんでけどね。
髪の若白髪が恥ずかしいから思い切ってくすんだ灰色に変えて終了。
種族まで変えちゃうとマタタビが驚いちゃいそうだし。
「終わりました。マタタビ、これが向うでの俺の体だから覚えておいてくれ」
マタタビは目を丸くして頷いている。
「次はマタタビ様のキャラです」
そうイマルが言うとマタタビの前に70cm位の猫獣人が現れた。
目は薄いエメラルドグリーン。
全体にサバ模様だが口の周りからお腹にかけてと前足と後ろ足が靴下の様に白くなっている。
こっちもまんまマタタビだな。
「まずは名前の設定からです」
「名前を変えるなんてとんでもない、今のままでお願いします」
「解りました」
「次は容姿の変更になります。マタタビ様のキャラは掴り立ちをした時の身長を基に作成してあり、慣れない体ですので変更できる箇所は目の色・体毛の色のみとなります」
「そのままで構いません。主殿、これが私の体なんですね・・・感動です!頑張ってお役に立ちます!」
如何やらマタタビは人間型の体に興奮しているようだ。
そんなに憧れていたのだろうか?
「はい、これでキャラメイクは終了居なります。今後の呼び方はイップク様とさせていただきます。
マタタビ様はこの後すぐにトレーニングエリアに移動となります。イップク様はキャラの才能・適性を決定する質問に答えていただいき終了しだい【始まりの街】に移動となります」
そう言うとマタタビの体が光に包まれる。
「マタタビがんばれよ、待てるからな」
「はい!待っててください!言ってきます!」
そう言ってマタタビは消えていった。
「それではイップク様に質問をさせていただきます、考え込まないで思ったことを答えて下さい」
「はい、お願いします」
「それでは貴方はこのゲームで何がしたいですか?」
「マタタビと一緒に冒険したいですね。興味のあることは何でもやってみるつもりです」
「普段の生活で貴方は何をしていますか?」
「大学で勉強、その後は定食屋でバイト、休みの時はマタタビと遊んだり散歩したり、興味がある事には一通り手を出す感じですかね」
「貴方はどうやってモンスターと戦いますか?」
「俺は実家の道場で槍術と体術が一番性に合っていたのでゲームでも槍と体術を使う予定です」
「貴方の前に困っている人が居たらどうします?」
「とりあえず話は聞くかな?後は話の内容によると思います」
「貴方にとって魔法とは?」
「魔法かぁ・・・あんまり考えた事無かったですね。あんまりピンと来ないんですよね火を出したり嵐を起こしたり、でも小説とかである生活魔法とか異空間収納とかできたら便利ですよね」
「最後に、現実の貴方が自分自身に望むことは何ですか?」
「・・・右足の麻痺が治って健康な体に戻ることです」
「ありがとうございました、それでは【始まりの街】に転送します。チュートリアルは総合ギルドで行えますので行ってみて下さい」
そういうと俺の体は光に包まれていく。
「イマルさん、マタタビの事よろしくお願いします」
そう言い頭を下げる。
「はい、かしこまりました」
最後に見えたイマルさんはそう答えて微笑んでいた。
そして俺は光が収まると中世ヨーロッパ風の街に立っていた。
次回こそゲーム開始します。よろしくお願いします。
[H27.5.31加筆修正]