4話 相棒と一緒?
話の区切りが見つけられず今回は少し長くなってしまいました。宜しくお願いします。
「動物実験に協力しろってことですか?」
思考が再起動した俺は、怒りを抑えながら静かに安達さんに尋ねた。
「お、落ち着いて聞いてください」
安達さんは青い顔をしながら話しかけてきた。
いかん、殺気が漏れてしまったみたいだ。
俺が深呼吸をして落ち着いたのを認した安達さんは汗を拭きながら説明を始めた。
「今回、VR技術を開発した際に1人の研究者が脳波を使ってキャラクターを動かせるのならば動物でも使えるのではないかと疑問を持ちまして、人間用のVR技術と並行して開発を進めてみたんです。結果としては成功したんです。したんですが、一部問題も残ってまして・・・」
「問題ですか?」
「はい、こちらの言葉をある程度理解できる動物でしたらVRの中で会話を交わすこともできます。一緒に遊ぶこともできます。ですがキャラクターを人型にした場合身体を動かすのに慣れるまで時間がかかるのと、現実に戻った時に体調を崩しやすいと言う事ですね。また、言葉が通じるようになると今までの不満が爆発する子や、言う事を聞かずに好き勝手動き回る子など性格や知能によっては必ず良好な関係が築けるわけではないという事ですね」
「・・・なるほど。ペットと話したりできるのは魅力的ですが、体調を壊しやすいというのはどの程度の事なんですか?命に係わることや障害が残ってしまうようなことは無いのでしょうか?」
「命に係わることや障害が残るようなことは在りません。基本的にテスターの皆様に使う技術を動物用に調整した物ですから。データによると5分から10分程度歩くときにフラフラしてしまう位でしょうか」
「解りました。まあ、信じるしかないってことですね。私としてはペットと一緒に遊べるならそれに越したことは無いのですが、本人?に確認してみない事には何とも言えないですね」
いくらマタタビが賢いと言っても、猫が今の話の内容を理解できるかどうか。
「それでしたら一度ペットを連れて来てもらってVR用機械を使って会話だけでも試してみませんか?キャラクターを動かすようなことがなければ夢の中で会話しているような感じになりますのでそんなに時間もかからないはずです」
「これから連れて来れば良いんですか?」
「はい、15分ほど時間をいただければ機材の準備も出来ますし、食事会までまだ時間がありますので、意志の確認だけでもしてしまいましょう」
「解りました。では連れてきますのでよろしくお願いします」
そう言って俺は急ぎ足で部屋に向かった。
「そうだトウカに話しておかないと待たせてしまうか。先に話をしておこう」
隣の個室には人の気配が無かったのでベンチで待っているのだろう。
ベンチに小走りで向かうと案の定トウカはベンチで座って待っていた。
「トウカすまん。事情があって食事会ギリギリになりそうなんだ」
「そうですか、別にやることもないんで待ってますよ。中庭を散歩すれば時間を潰せそうですし。それより、なんだかうれしそうですね?」
「ああ、もしかしたらマタタビと話が出来るかも知れないんでな。年甲斐もなくワクワクしている」
「・・・?よく解らないのですが?」
「すまん、詳しい話は食事の時に説明するから!ちょっと急ぐんでゴメンな!」
トウカに断りを入れた後急いで部屋に向かった。
トウカには悪きことをしてしまったかな。
部屋に戻るとマタタビに声を掛ける。
「マタタビちょっといいか?これから特別な機械を使ってマタタビと話ができるか試してみたいと思うんだがどうする?何時も通りYESならお手、NOならオカワリだ」
ちょっと解り難かったかも知れないがどう説明したらよいのか解らないので仕方がない。
マタタビも困った様子で迷っているようだが結局一鳴きしてお手をした。
「よし、それじゃあ一緒に来てくれ」
マタタビにそう言い多目的ホールの自分のスペースに向かった。
「お待ちしていました。」
戻ると安達さんのほかに2名職員が待機していた。
話を聞くとセッティングする技師(新井さん)と獣医(木下さん)らしい。
獣医さん居たんですね、頭から抜け落ちていました。
「凛々しい猫ちゃんですね、何て名前ですか?」
待機していた木下さんがマタタビを見て話しかけてきた。
「マタタビって言います。オス猫ですよ」
「そうですか~、マタタビ君怖くないからね~」
「それで私はどうすればいいのでしょうか?」
「そうですね、服織さんはマタタビ君を抱いて落ち着かせてあげてください。」
「こちらの機械を猫ちゃんに装着します。怖くないからね~」
そうマタタビに言いながら新井さんが機械を取り付ける。
「これからスイッチを入れたらマタタビ君にこのマイクで話しかけて下さい」
そう言い新井さんがスイッチをオンにする。
「マタタビ聞こえるか?聞こえたら返事をしてくれ」
「主殿!どこですか!何も見えません!」
・・・主殿ってなんでそんな話し方なんだよ。
「落ち着いてくれマタタビ。さっき取り付けた機械のせいで声しか聞こえない状態になっているだけだから、不安だと思うけど落ち着いてくれ」
5分間ほどマタタビを落ち着かせるのに時間がかかった。
こんなに慌てるなんて聞いてませんと安達さんをにらむと申し訳そうな顔して頭を下げてきた。
「マタタビ落ち着いたか?」
「はい、もう大丈夫です。取り乱してすいません。でも、本当に私の言葉が解るのですね」
「ああ、今マタタビの頭につけている機械のおかげだな。これから機械を取り付けた理由を説明するからよく聞いて答えて欲しい。解らないことがあったら聞いてくれ」
「解りました。お願いします」
「今日、出掛けてきたのはこの機械を使ってゲームをするためだ、この機械を使うとゲームの中に入って遊ぶことが出来るんで。本当は俺だけ遊ぶ予定だったんだが、この機械を使ってマタタビも一緒に遊ぶことが出来ると言われたから、マタタビも誘うことにしたんだ」
「ゲームとは何ですか?」
「ゲームとは・・・どう説明すればいいのか難しいのだが、もう一つの体を使って此処じゃない所で一緒に狩りをしたり、しゃべったり、ご飯を食べたり、遊んだりすることかな」
「もう一つの体とか此処じゃない所というのはよく解りませんが、主殿と一緒に狩りが出来てしゃべることが出来るのは楽しそうですね」
「もう一つの体っていうのは、今のままの姿と俺みたいな人間型の体を選ぶことが出来るらしい。『人間型!主殿と同じ人間型でお願いします!』・・・ただ、人間型だと歩いたり物を掴んだり出来る様になるまで訓練が必要なのと、元の体に戻った時に10分位フラフラするらしい。それでもいいのか?」
そんなに食いつくとは思わなかったからびっくりしたよ。
「・・・そうか、それじゃ一緒に遊ぶか?」
「はい!よろしくお願いします!」
「それじゃ機械を止めるから気持ちを落ち着かせてくれ」
そういって機械を止めてもらって。
周りを見回してみると数人の知らない職員が集まっていて驚いた顔をしていた。
「・・・こんなにはっきりしっかり会話できるとは思ってなかったからびっくりしちゃったよ。他のペットだともっと片言だったからね。随分賢い猫ちゃんだね。」
木下さんと話していると、なんか後ろの方で『ぜひ、研究の為・・・』とか聞こえてるけどマタタビを抱きながら殺気を飛ばしながら睨み付け黙らす。
青い顔してそそくさと逃げてい言った。
「フフフ、大丈夫ですよ。そんな怖い顔をしなくても彼に何か出来るほどの勇気なんてないですから。大切にしているんですねマタタビ君を」
「はぁ、それならいいんですけど『にゃ~』おっ、もう大丈夫かマタタビ。」
そういいながらマタタビを撫でる。
「さぁ、マタタビ君の意思確認も終わったし、食事会まで後15分て所だね。そろそろ行くといいよ。マタタビ君も一緒で大丈夫なはずだし。私達は追加のマタタビ君用の機材を設置するから。」
そう新井さんは言いながら機材を動かしている。
「解りました。お手数おかけしますがよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げる。
「いやいや、私達も良い物を見せて貰って感謝してますよ、明日からマタタビ君と一緒に楽しんで下さい。」
安達さん、新井さん、木下さんと挨拶を交わしてトウカが待っているだろう中庭ベンチに向かった。
「あれ?トウカが居ない」
散歩すると言っていたからまだ戻ってないのかな?
探しにいって入れ違いになるのも困るしここで待ってるか。
一服しても大丈夫かな?
「マタタビ、俺、一服してくるからトウカが来たら喫煙スペースに連れて来てくれるか?」
「ニャ!」
「じゃあよろしく」
一服始めて直ぐにしているとマタタビに先導されたトウカがやってきた。
「待たせた相手を探さず一服してるとかどうかと思います」
トウカにジト目で怒られてしまいました。
うん、普通に考えたら無いな。
きちんと謝っておこう。
「ごめんなさい。我慢できなくて」
「言い訳しない。はぁ、まぁいいです。お腹が空いたので食事会に行きましょう。先ほどの話は食事をしながらゆっくりと聞きたいです」
「了解しました」
そう返事をして2人と1匹で食事会に向かった。
いかがでしたでしょうか。マタタビ君のβテスト参加が決定しました。