6話 角ウサギ
6話 角ウサギ
結局また気を失ってしまったが昨日は意図して起こった事なので落ち着いて朝を迎える事が出来た。起き上がってからステータスを確認してみるとHPもMPも全快していた。ケガをした訳ではないのでHPも回復してくれたようだ。そうしていると
「おはようお兄ちゃん!起きてる?朝ご飯だよ」
ミミは元気良く扉を開けて部屋に入って来た。
「おはようミミ。今日も元気だね」
僕はミミと一緒に部屋を出てワンスさんのいるテーブルに着いた。
「おはようございますワンスさん」
「おはよう。よく眠れたかい」
「はい、意識を失うようにぐっすり眠れました」
気を失うのが睡眠と一緒かは分からないがステータスは全快しているし、何より安心して朝を迎えれた事でかなり気持が軽くなった。
「それは良かった。では食事としようかのう」
朝食はパンとミルクだった。ただ日本のパンと違いかなり硬かったがミルクは濃厚でおいしかった。よく考えたら昨日一日何も食べていなかったが半分以上の時間、気を失っていたし召喚され訳の分からない状況で空腹に気が回らないほど余裕がなかったみたいだった。
「今日はどうする予定なのじゃ?」
「今日は朝から森に入ってレベルを上げる予定です。途中でMPが切れかかって休憩をし回復してからでも再びレベル上げする時間が出来ると思いますので」
「この村にある武器は弓矢ぐらいしかないので経験のないお主では役に立たないじゃろうから魔法に頼る事になるからのう」
「大丈夫ですよ。ブルースライムくらいなら木の棒でなんとかなりますし」
この世界での鉄は高価な物で武器などは作られているが普通の人は買えないし買わない。そして日用品としても普及してはいないのだ。もちろん弓も矢もすべて木で出来ている。
「それでは行ってきます」
「気をつけてのう」
「お兄ちゃんがんばってね!」
ワンスさんとミミに見送られ大輝は昨日の森に向かっていった。
一先ず落ちている握りやすそうな木の棒を装備してブルースライムを探した。森の中と言っても低い木は少なく歩きやすく木と木の間隔が広いため棒を振り回す事も容易に出来るスペースがあるのだ。ただそれでも3分も歩けば村は見えなくなってしまうので通った所に石を置いたり木の枝を地面に刺したりして迷子にならないようにはしていった。
昨日の話からレッドスライムはゲームで言うこの森のフィールドボスみたいな存在で一度倒すとしばらくは現れないらしいので安心だ。あと薬草は大地の力を多大に吸収した突然変異みたいな物らしく、この森にも生えているらしい。なので薬草の見分け方も教えてもらったので採取するのも今日の目的の一つにある。
そして今日初めてのブルースライムと遭遇した。
「さてと、頑張りますか」
気合いを入れ戦闘に入る。レベルアップの影響か体が軽く棒を持つ手に昨日以上の力が入る。
戦闘はすぐに終了した。
「んー、昨日以上に負ける気がしないな」
その後お昼前までに10匹ほど倒したがレベルが上がる気がしない。子供でも倒せるモンスターをいくら倒しても経験値は微々たる物の様に感じる。その間に薬草は一つしか手に入らなかった。魔法のような草が森に早々は落ちてはいないと思ったがやはり数は集まらない。
その後もブルースライムを倒し続け20匹ほど倒した時、頭の中に例のファンファーレが聞こえレベルアップした。
天兎 大輝
レベル 1 レベル 4
HP 41 / 48
MP 85 / 93
スキル 強化 ・ 風の初級魔法 (LV2)
・スライムの雫
・薬草
・薬草
「やはりレベルアップしてもHPとMPは全快にはならないか」
ゲームの様にレベルアップ時に全快する都合の良いシステムはなかった。しかしこのままブルースライムを相手にしていると次のレベルアップには下手をすると50匹以上を倒さないといけない事になる。命が掛かっているのだから慎重に行かないといけないのは分かるが時間が掛かるとワンスさんに長くお世話になってしまう。早く自立出来るように強くなる為に薬草をもう1つ見つけたら反対の森に行く事を決めた。
しばらくして3つ目の薬草を手に入れたので反対側の森へ向かう事にした。
反対側の森は木の間隔は同じくらいのはずなのに少しうす暗く感じる。未知のモンスターへの緊張感でただ歩いているだけのはずが汗が出てくる。そうしてしばらくするとこの森での初めての戦闘が発生する。
大型犬の少し小さいサイズのウサギで額に一本の角が生えている。このサイズになると角もそうだが歯もかなり危険に見える。レッドスライムほどの威圧感はないのは救いだがこの世界に来て始めての状況になっていた。
そう、角ウサギは3匹同時に現れたのだ。
「スライムとは違い知恵があり集団での戦闘もあり得るか……<かまいたち>!」
相手のペースに巻き込まれるのはまずいと考え先制して3メートルの位置からかまいたちを放つ。しかし角ウサギは難なくかわして体当たりを仕掛けてくる。レッドスライムよりは遅いが角を向けて突進してくるのでかなり怖い。1体目2体目と攻撃をかわしたが3体目の攻撃が背中から来た為、対応出来ずに直撃をくらってしまった。幸い角が刺さる事はなかったが今日初めてのダメージはかなり痛い。
1体目と2体目が体勢を整えまた向かって来たので一体目をかわして2体目の体当たりに合わせて風の刃を目の前で放つ。昨日のレッドスライムとの戦闘でも使った手だが力もスピードも劣る攻撃に合わせるのは楽だった。
近距離での魔法の為、強化なしでも角ウサギを真っ二つにすることが出来た。いきなり仲間がやられ戸惑い動きが止まっている3体目に走りよりすれ違いざまにかまいたちを放ち倒す。1体目が不利を感じたのか逃げようとしていたので風の魔法で動きを止める。
「<ダウンバースト>!」
角ウサギの上から風を押し当てた。飛び跳ねようとした瞬間上から押さえつけられた為、潰れたような恰好になっている。すかさず近づきかまいたちで倒す。
角ウサギもスライム達と一緒でしばらくしたら霧のようになり消えてしまった。その中の1体だけが角を残していったので回収していく。
「何に使えるか分からないけど回収していくか」
アイテムを手に入れたのはうれしいが余裕はない。一対一ならまだしも複数相手には木の棒ではあまり武器にはならずどうしても魔法で倒す必要は出てくる。今の戦闘で風の魔法を5回使用したから残りMPが50ぐらい、良くて後2回同じ戦闘をしたら終わりなのである。
「これは武器をどうにかしないと今後も大変だな…」
その後は良く出て2体同時までだったのでMPを温存しながら戦いレベルも6にまで上がった。
天兎 大輝
レベル 1 レベル 6
HP 23 / 65
MP 13 / 112
スキル 強化 ・ 風の初級魔法 (LV3)
・スライムの雫
・薬草
・薬草
・角ウサギの角
薬草を1つ使ったが十分な経験値を稼げたと思う。
「そういえば、スキルのレベルアップは教えてくれないんだな」
スキルのレベルは気が付いたら上がっていた。戦闘中などでは威力の差なんて分からないのでステータスを見ないと分からなかったのだ。
そうして辺りが暗くなってきたのでワンスさんの家に帰っていくのであった。
ワンスさん達との夕食の後
「この辺りで武器らしい武器は手に入らないのでしょうか?」
「急にどうしたのじゃ?ブルースライム相手では必要がないじゃろうに」
ワンスさんに今日の経緯を説明し、レベルもすでに6になったと伝えた。
「もう西の森に入っておったか。予想外の成長じゃ」
「角ウサギの角を手に入れたんですがこれは武器に加工出来ませんか?」
そう言い角ウサギの角をワンスさんに渡した。ワンスさんは驚いた表情で角を見ていいる。
「お主はよほど運が良いのじゃのう。スライムの雫に続きこの角まで手に入れるとは…」
「この角はそんなに珍しい物なのですか」
「スライムの雫に比べると手に入りやすいが基本倒すと消えてしまうモンスターがアイテムを落とす事自体が珍しいのじゃ。そしてこれは高級家財道具などに使われる素材アイテムで加工すると手触りが良く見た目も綺麗になるのじゃよ。しかし強度は高くないので武器や防具には向かないのじゃ」
「そうですか…」
加工すればすごい武器に、と多少は期待していたがやはり無理だった。地道に行くしかないかと思っていると。
「武器を手にするには城下町の方へ行くか、たまに来る行商に期待するか、危険だが南のダンジョンに行けば運次第では手に入るかもしれんのう」
「南のダンジョンで武器が手に入るのですか?」
「南には元々洞窟があったのじゃが何年も前に瘴気が溜まったせいでダンジョン化してしまったなじゃ。ダンジョンには年に何人かが腕試しで挑みに来る者が、その中には帰って来れなかった者もおる。その者達の武器が放置されている可能性があるのと、モンスターに刺さった武器や飲み込まれた武器などがある事もあるのじゃ。もちろん危険な場所だし武器がある補償もない」
「かなり危険な所なのですね…」
「ダンジョン化してからそんなに年月が経っていないさほど危険なモンスターはいないはずじゃが、暗くて見通しの悪い所での戦闘になるので危険である事には変わりない」
仮にも腕試しを挑もうと思える者が帰れない事があるダンジョン、無計画に挑む訳にはいかないのは分かる。だがこのまま武器もなしに戦うのは必ず限界が来るのは予想出来る。
出来れば戦わず平穏に暮らしたいが、取り合えず冒険者にならないと身分証明も今後の生活もままならない。その為にも武器は必須だ。
「分かりました。明日、余裕がある時に無理なく挑んでみます」
明日の予定も決まったので残りのMPも魔法を使い今日は寝る事にした。