2話 脱獄
2話 脱獄
「まさか今の状況を忘れてたのかい…」
そう今は牢屋の中で、このままでは見世物としてモンスターと戦わせられるんだった。正直スキルを得たことで浮かれて忘れてました。
「わ、忘れてはいないよ。それで此処から逃げる方法はないのですか?」
「…まあいいや。それで結論から言うと不可能だね」
ポールは少し疑うような顔になっていたが、話を続けてくれた。
「不可能?」
「まずこの部屋の壁や鉄格子には、魔法が効きにくい処理がされている。そうして力任せに壊そうにも、道具も無しではレベル24の僕ではビクともしない。見張りもあまり見回りをしないから壊せれば逃げれそうだけど、見張りの話ではこの鉄格子はレベル50の傭兵が、なんとか壊せる仕様にしてるらしい…僕たちでは不可能なのさ…」
「そんな…」
そんな状況を周りも再度聞いたことに絶望感が蘇り、空気が重くなった。
「…一応レベル40くらいまで生き残る事が出来れば、奴隷商に傭兵などとして高値で売られるので、ここから出られる可能性はあるらしいけど…前例は見たことはない」
「ならますます逃げないと!ポールのスキルでどうにかならないんですか?」
生き残っても傭兵、結局は戦わされる未来に大輝は慌て始めた。
「僕のスキルは氷の初級魔法だけさ…さっきも言ったけど此処の壁などは、魔法が効き難いんだ。当たる瞬間に大半が魔力に戻って、ダメージを与えられないんだ」
レベルが24に上がってもまだ初級魔法しか使えないのは不思議に思うが今は関係ない、そうなると僕の風魔法もおそらく意味がない、しかし強化の魔法ならどうだろう?今、一番に確認したいことがある。そう思いステータスと念じカードを出す。
「ポール、僕のスキルを見てくれませんか?」
そう言ってステータスをポールに見せた。
「?いいけど何故だい?」
ポールは大輝が何を言いたいのかが分からず不思議がっていた。
「僕のスキルは風の初級魔法だけですか?」
「ああ、それだけだね。」
やはりレベルの項目だけでなくスキルも一つ見えていないか…これは推測だが見えない方のレベルとスキルは夢かと思っていたエルディアに呼ばれた時に授かった力かもしれない。
「どうしたんだい急に?」
ポールは急に考え込んでいる大輝を心配していた。
「ポール、あとこの世界のスキルは、氷や風などの魔法しかないのですか?」
「ああ、僕が見聞きしたのは火などの自然を操る魔法だけだが」
やはりか!なら強化のスキルをレベル24のポールに掛け倍以上の力になれば鉄格子を壊せるかもしれない。
大輝は希望が出て来た事に、小さく拳を握った。
「後、減少したHPやMPはどうすれば回復するのですか?」
「HPもMPもある程度睡眠を取れば回復していくよ。ただHPの方は回復が遅い。血が流れると、どんどん減っていきそのうち死んでしまう…打撲などは時間で回復するけど、ケガが治るわけではないのは元の世界と一緒だ。MPは経験則では、3時間以上寝て回復が始まる感じだ。
後は薬草などの回復アイテムがこの世界にはあるので、それを食べると一気に回復する。
宿屋などで寝ればHPもMPも完全回復するゲームのような事は流石にないね」
強化の魔法を試してみたいが、いつモンスターと戦わせられるか分からない状況で、無駄にMPを使うわけにはいかない事は分かった。ぶっつけ本番なのは怖いが、どうせ後がないならこれに全力で掛けるしかない!
「この中のメンバーで一番レベルの高いのはポールですか?」
大輝は牢屋の中を見回しながらポールに聞いた。
「ああ、僕が一番レベルが高いが…さっきからどうしたんだい?大丈夫かい?」
ポールは、大輝が恐怖で頭がおかしくなってしまったかと思い始めていた。
「ああ、大丈夫です!それより頼みがあります。あの鉄格子を開こうとしてください。力いっぱい壊すつもりで!」
「さっきも言ったがそんな事をやっても無駄だよ」
「試してみたい事があるです。お願いします!」
大輝は頭を下げてポールに頼み込んだ。
「……分かったよ、それで君が諦めがつくならね…」
そう言ってポールは立ち上がり、鉄格子を両手で掴んだ。その背中に僕は手を置いて、魔力を全て使うつもりで
「腕力を上げるイメージで<強化>!さあポール、やってください!」
大輝の手から魔力がポールに流れて行った。
「わかった。よいしょっと」
グニャ、バキン!!!
そう言ってポールが力を入れると鉄格子は、まるでゴムで出来ていたように簡単に曲がり、そのまま壊れてしまった。予想もしなかった出来事に、ポールはもちろん周りの人も、現状を理解できないでボー然としている。
「な!?…な、何が起きたんだ?」
戸惑うポールと目を大きく開き不可解な現状を見つめる周りの人達、そして小さくガッツポーズをする大輝。数秒の沈黙の後、
「…逃げれる?…逃げれるぞ!!!」
一人の声を合図に、皆我に返り一斉に壊れた鉄格子から出て行く。大輝も逃げ遅れないように慌てて脱出する。
「確かこっちが外だったな、そこから逃げれるはずだ!」
そう言うポールを先頭に一斉に走っていく。
しかしすぐに問題が発生した。
ポール達はかなり足が速かったのだ。まるで自転車で全力で走っているようなスピードなのである。……異常なスピードにどんどん離されていく大輝、そうレベルの差が発生しているのだ。ステータスでは確認ができなかったが、ポールのレベル24を筆頭にする集団の足の速さに、当然レベル1の大輝が付いていける訳はなかったのだ。
なんとかついて行こうと頑張ったが、階段をいくつか上った所でポール達とはぐれてしまった……
「いったいどっちに行ったらいいんだ…」
建物の造りも今いる場所も全く分からない自分が、道に迷うのは当然の事だった。
人に見つかると不味いこともあり、慎重に通路を走り出口を探していると遠くの方で声が聞こえた。
「奴隷たちが逃げたぞ!人を集めろ!!」
その声を聞いてすぐにポール達が見つかったのだと分かり、一先ず身近な扉を開け中に人がいないのを確認して中に入った。
この部屋は調理場のようで色々な食材や調理器具などが置いてあった。今の時間が夜中なのか人はおらず、下拵えした料理があるだけだった。そしてその部屋の一角に、扉が見えたのでゆっくり開けてみるとそこは外だった。
「裏口かなにかか?これで逃げれるかも!」
しかし期待して外に出てみるとすぐの所に川があった。しかし数日前に雨でも降ったのか、かなり増水しているようだった。
「…これはさすがに渡るのは無理か……」
周りを見回しても橋などはなく、しかしまた建物の中に入るわけにもいかないので、川をそのまま渡れないかと近づき深さと流れを見ようとした時、急な眩暈に襲われた。
「あれ?何が……」
一瞬の期待からの気の緩みか、突然きた眩暈に意識をしっかり持とうとしても、視界が暗くなっていき足もふらつき立ってはいられない。
僕は倒れるように川に落ちて意識を失ってしまった。
次に意識を取り戻した時、見えたのは深い木々だった。