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1話 勇者かと思ったら奴隷でした

1話 勇者かと思ったら奴隷でした



気が付くとそこは真白い部屋だった。

壁には窓がなく扉が一つだけあり、全てが白一色の部屋だった。

ただ足元には、まるでゲームなどで見るような魔法陣のような円形の模様が薄く光っていた。


「ようこそ<エルディア>へ勇者様!」


声がした方を見ると、そこには白い髪が肩まであり、装飾品などはなく質素な服装のきれいな女の人がいた。


「このたびはこの国の為においでくださり、ありがとうございます」


その女性は手を胸の前で合わせ、祈るような姿勢で僕の方を見ていた。


「ゆ、勇者?いったいなんの話を?…それにあなたは?」


理解し難い単語が聞こえ、一気に混乱した。


「申し送れました。私はこの国を、魔族の手から救っていただく為に、勇者召喚を行いました<エルザ>と申します。」


スカート少し持ち上げ頭を下げてそう言う姿は、礼儀作法などまったく知らない自分も、息を飲み込んでしまうほどの品格を感じてしまうものであった。


「………ゆ、勇者召喚って!?まさか、僕が勇者っだって言うですか!?」


エルザに見とれてしまい反応が遅れたが、やはり自分の事を勇者と言われたが、信じる事は出来ず聞き返した。


「はい!

今この国は魔族との戦争で、滅亡の危機にあります。そこで伝承に従い勇者様を御呼びいたしました。

お願いします!どうかこの国をお守りください!」


真剣に話すエルザの様子から、嘘や冗談を言っているようには見えなかった。


「そんな!急にこの国を救ってくれと言われたって困ります」


懇願のするようにエルザに頭を下げられても、急過ぎる話の状況に付いていけない。


「急にそんな事を言われても、困惑してしまう事は分かっています…しかしもう勇者様に頼る事しか出来ないのです。

この国には既に、戦う力がほとんどありません…魔族もそれが分かっているようで、ひと思いに攻め込まず遊んでいるのです。

本来、勇者様を国を挙げてお助けし、共に戦っていかなければならないのですが、王族や貴族の人たちは伝承を信じておらず疲弊しきっております…。

私が勇者様に差し出せるのは、この命しかありません!共に戦い、盾にしてもらってもかまいません!どうか、どうかお願いします!!!」


その瞳には涙が流れており、悲痛な顔で頭を下げていた。


「しかし僕にそんな力は…」


自慢じゃないが、僕は完全なインドア派の人間だ。そんな僕がいきなり魔王と戦える訳がないのだ。


「大丈夫です。勇者召喚で呼ばれた人には特殊な力が授かります」


力無く返事をする僕に、エルザが安心させるように、優しく言葉をかけてくれた。


「特殊な、力?」


その言葉に少し惹かれた。


「はい、まずはステ・・・・・え!?な、なにが?」


エルザが何かに驚いたと思ったら、周りが急に光だし、思わす目を閉じてしまった。






「ようこそ新たな奴隷よ」


「…は?」


いきなり周りが光ったと思ったら、目の前にはスキンヘッドの男がおり、こっちを見ながらそう言ってきた。


「さあ、お前の目覚めた能力を見せてみろ!」


「え!?………い、いったい何が?」


立て続けに訳の分からない事が起こり、ついて行けず動きが止まっていると、


「やはり追い詰めないと駄目か」


そう男が言うと、持っていた棒を高く持ち上げ


「が!?」


勢いよく殴られた。


「ほら、早く能力を見して見ろ!」


そう言いながらも男の手は止まらない。


「な、なにを言って…ぐ!!」


そのまま何十発と殴られ続き、意識を失った……


「ち、ハズレを引いたか…

 おい!こいつを牢屋に放り込んでおけ!」


「はい」


男は近くにいた兵士に指示出した。





あの日、天兎アマト 大輝タイキは街を歩いていた。小、中学といじめられていた大輝は、目立つ行動を避け、1人で本を読む事にはまっていた。ジャンルは問わず読む事が好きだった自分は、今日も本を買いに町を歩いていたのだ。


その時、前方に何かのカードが落ちていた。誰も気づかないのか見向きもしない。しかし薄く光っているようにも見え、気にないり拾おうとして触れた瞬間、地面に魔法陣のような模様が光って…………





「がは………いってぇぇぇ!」


目が覚めた自分は、痛みですぐに夢ではないと悟った。


「いったい何がどうなっているんだよ…」


薄暗い部屋の中を見回すと


「やあ、目が覚めたかい?」


そこには何人かいて、その内の1人が話し掛けてきた。


「だ、誰ですか?」


「フフフ、僕の名前はポール。キミと同じ被害者さ」


疲れ果ているようで声に張りがない。

金髪だが汚れていて艶がなく、顔も痩せていてまるで浮浪者のような男だった。


「被害者って?……それにここはエルディアではないんですか?」


「エルディア?何を言ってるか分からないが、ここは異世界<エルグラウン>の<ノーム帝国>だよ」


ポールの言葉を聞き、意味が分からず混乱した。


「ここは異世界で、僕たちはこの世界に召喚されてきたのさ」


「な、なにを言っているんです?」


さっきまで話もあり、大輝はただ聞き返す事しか出来なかった。


「僕たちはここ<コロッセオ>で、見世物として魔物と殺し合いをさせる為に呼ばれた召喚奴隷さ」


そう言ったポールの顔は、諦めしか感じなかった。


「・・・・・」


いきなり奴隷、そう言われ言葉を発する事も出来なかった。


「君もカードを拾ったんだろ?」


「…ああ」


混乱はしていたが、身に覚えがあった事だったのでどうにか返事が出来た。


「あれはこの世界に呼ぶための契約書、力を貰う代わりにこの世界に行きます。というね」


「そんな!触れただけで契約なんて詐欺だろ!」


急に理不尽な事を言われ、怒りのままポールに文句を言うと諦めたような笑い顔で、


「僕も最初はそう怒ったね…ハハ…」


「どうして笑っていられるんです!」


こんな理不尽なことが起こったのに、笑っているポールを大輝が睨むと


「もう、………諦めているのさ…」


ポールは俯きながら話を続けた。


「…僕は二ヶ月前に呼ばれた。この中では一番の古株さ。僕より前に呼ばれた連中は、皆死んでしまったよ。

ここはね…昔、魔王がいて勇者が呼ばれ、世界を平和にした後の剣と魔法の世界なのさ…」


その言葉に疑問を覚えた。


「平和な世界なのになぜ僕たちが呼ばれたんですか?」


「過去、魔王は何度も復活し人々を苦しめてきたらしい…そんな魔王に対抗する為に、最初はここが作られた。

しかし、ここ数百年は魔王も現れない…もう魔王がいたのかさえ疑問視され始めたんだよ…。

………平和な世界が続くとどうなると思う?」


「どうなるって…」


突然の問いかけに言葉が出ない。平和が続く事は良いことなのではないだろうかと考えていると。


「天敵のいない、ただ暮らしていくだけの世界では刺激がほしくなる…そして、自分より下の者を探して、虐げるようになっていくのさ…。」


「……………」


「そうしてその欲を解消する為に、ここは奴隷たちを戦わせる場に変わっていった…。

しかし弱い奴隷たちを戦わしても、飽きてくるし数も限られている…そうして…………。

勇者召喚を行い、奴隷とし迫力ある戦いを楽しむようになったのさ…」


現実感がわかない話だが本能的に夢を否定している。


「…なぜ?僕は、いや僕たちの世界ではほとんどの人が、剣など使った事はないし戦いもしていない。そんな世界の人間を呼んでも、迫力のある戦いなんて出来ないでしょう?」


自慢じゃないが自分は喧嘩すらしたことがない。そりゃ物心つく前の時はあったかもしれないけど、周りでも殴り合いの喧嘩は見た記憶はなかった。


「さっきも言ったが、この世界に来ると力が貰える…勇者召喚の恩恵、とでも言えばいいかな?」


「契約……」


力を貰う代わりにこの世界に来る契約、その事を思い出し、今までの話に納得した。


「そう、勇者召喚で呼ばれるとまずこの世界の言葉が喋れるようになる…

次にレベルが貰える…

最後にスキルが貰える…」


それでこの世界の人の言葉が分かったし、見た目から外人のポールとも普通に話せる理由が分かった。


「それでレベル?やスキルとは?」


「レベルは魔物を倒すと上がっていき、理由は分からないが力とかが上がっていく…

スキルとは個別の能力…魔法だよ…」


「まるでゲームのようですね…それでそれはどうやれば分かるのですか?」


まんまゲームと一緒かよと思い、少し呆れ顔になったが、聞く事はまだあるので気持ちを切り替えた。。


「ステータスと心で念じればカードが出てきてそれで確認が出来るよ…」


「なるほど…」


ステータスと念じてみるとこの世界に来る原因となったカードが出てきた。


天兎 大輝   


レベル 1     レベル 1


HP    18 / 28

MP    64 / 64


スキル  強化   ・ 風の初級魔法 (LV1)


なんだ…レベルが2種類ある?これはどういう意味なんだ?


よく分からない表示に大輝は首を傾げた。


「君は風の魔法が使えるのか。それにMPの初期値が高めだな」


ポールがカードを覗き込み、感想を言った。


「ステータスが見えるなら、なぜ僕は殴られたんですか?」


そうあの男はスキルを見せろと殴ってきた。カードを出させれば、簡単に解決するのに意味が分からない。


「ステータスのカードは、この世界に呼ばれた者にしか見えないのさ…」


「なるほど、後このレベルの項目が二カ所にあるのはどういう意味があるんですか?」


1つ疑問が解決したので、ステータスの不自然な所を聞いた。


「?。どこにあるんだ?」


カードを見たポールが首を傾げる。


「え、いやここに…」


「?」


見えないのか?どういう事なんだ?


「じゃ、じゃあこのスキルとはどういうスキルなんですか?」


疑問は残ったが、これ以上聞かない方が良いと判断し、次の質問をした。


「ああ、スキルはその項目を触れば詳細が見えるよ」


便利なカードだなと思い…まずは風の初級魔法を見る事にした。


風の初級魔法 『消費MP 6 ・・・ 少量の風を操る事が出来る』


「?。少量の風を操れる…説明はこれだけ?」


いや詳細がこれだけって説明が少なすぎるだろ…正直意味が分からない。

そう困っていると


「ああ、そのままの意味だよ。風を圧縮して飛ばして当てたり、カマイタチのようにして切り裂いたりと、使う者のイメージを形に出来るのさ。

使っていればスキルのレベルが上がり、操れる量も増えていくのさ。」


ポールの説明で理解出来た。


「そういう事ですか。なら…《そよ風》!」


そう言って右手を自分に向けると急に風が吹き始めた。イメージ通りの風が出たが10秒くらいで消えてしまった。


「なるほど、思ったより簡単ですね」


「君はよほどイメージ力が強いんだね…普通はこんなに正確にイメージ出来ないものなんだけどね…」


イメージ力か…ずっと本ばかり読んでたから想像力が上がっているのかな?まさか本を読む事が、こんな所で役に立つとは思わなかったなぁ…完全に想定外の出来事だけど…


そういえばもう一つのスキル<強化>も調べれるかな?


強化 『消費MP   ・・・  強化する』


は?

これだけ?説明がなさすぎだろ!


いや…さっきの例から自由度があると考えてみると、…まず消費MPが空白なのは、自分で消費量を決めれると想定出来る。そして強化するのは対象を選ばない、と考えるとかなり使いやすいスキルではないだろうか!これは色々試してみないと。

そう浮かれて考えていると


「しかし…君もいつまで生き残れるか…」


「え?」


ポールの一言に我に帰って現状を思い出した・・・



     

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