聖戦士の契約
「お、いたいた」
目的の人物を見つけたあたしは、喜び勇んで駆け寄った。
「おーい。麁羅」
麁羅は丁度下田と一緒に男の人に謝っているところだった。
何かあったようで、遠慮気味に笑う男性に必死に謝っている。
うーん。麁羅に伝えるのは少し落ちついてからのほうがいいか。
しばらく待っていると、ようやく一段落したらしく、男が去っていく。
ため息を吐く二人に、あたしは背後から声を掛けた。
「麁羅、何してたの?」
「ひゃあぁぁっ!?」
あたしの声に驚く麁羅。下田は気にしたふうもなく、こちらに視線を向ける。
「あら、八神百乃。まさかあなたからここに来るとは、丁度よかった」
「も、百乃ちゃん!?」
「や。せっかく来てくれたみたいだから迎えに来たよ麁羅」
あたしは手を上げると、二人に近づいていく。
説明は余り必要はないだろう。
やるべきことは一つだけで十分だ。
「まぁ、説明はいいから麁羅、ちょいと付き合って」
「え?」
「ふむ。すぐに済むのなら私は待っていよう。終わったらここに来てくれ」
「おっけー」
あたしは下田に応えると、麁羅の手を取って適当な民家の裏手に向う。
戸惑う麁羅と共に裏手に着くと、あたしは麁羅に向き直った。
一応、周囲に人が居ないかだけは念入りに探っておく。
「あ、あの、用事って、何……かな?」
「あたしの聖騎士になって」
「……はい?」
単刀直入に言ってみたけどダメだった。
仕方ない。一から説明するか。
「本来なら監視するしか指令が出てないんだけど、聖騎士の契約をすればあたしも守護の名目で戦えるのだよ。まぁ、さすがに人間相手にゃ無理だけど、魔物や魔族には主も多目に見て下さることでしょう」
「な、なんのこと? 何言ってるの?」
あたしは、口で説明するのは面倒なので、力を解放する。
「我、主より賜りし力を顕現せん」
背中から出現する光の翼。頭上の天輪も顕現させて神々しさを醸し出す。
口調は、そうね。いつもよりは荘厳に行きましょうか。
驚く麁羅に輝く羽が頭に乗る。
「改めて、初めまして綾嶺麁羅。あたし……いえ、私はオルタナエル。主よりあなたの観測者を承った、天使です」
「……は?」
「この世界の危機を救うため、あなたを聖騎士に任命します。だから、私に力を貸してください」
理解できてない麁羅に、あたしは手を差し伸べる。
その手の中には、一つの宝石。エメラルドグリーンに光るそれは、今は鈍い輝きを見せている。
「え? え? どういう……なんで、私……?」
「このままだと手塚さんたちは魔王の軍勢に勝てないわ。一騎当千の人物は一人でも多い方がいいでしょう? なら、打てる手は全て打つべきでしょう。力天使である私の聖騎士では不満かもしれないけれど。私は……麁羅になってほしい」
「そ、それになったら、私どうなるの?」
「どうにも。今まで通りの生活を送るのも良いし、天使の仕事を手伝うのもいい。ただ、聖騎士としての力を手に入れるだけ。どう?」
「……そ、そんなの、下田さんの方が、元々強いし、もっと強くなるなら……」
戸惑う麁羅に近づき、あたしは抱きしめる。耳元に囁くように言った。
「私が聖騎士として認めるのは、あなただけです麁羅」
「わ、私……だけ?」
「聖騎士への契約を、していただけますか?」
麁羅は戸惑ったような顔をする。
私は身体を離して麁羅の瞳を真正面から見た。
「……これを、受け取ればいいの?」
「ええ。そのルミナスストーンを持って、誓いを述べるだけよ。あたしの後に続けて」
麁羅は石を受け取ると、こくりと頷く。
「「我、綾嶺麁羅は、力天使オルタナエル・フレイブレイズを主とし」」
あたしの言葉に麁羅が復唱を開始する。
「「平和と秩序を願い、共に歩み、共に助け、共に戦わん」」
「「聖戦士ルミナスの称号をここに授かることを宣言する」」
宣誓を終えた瞬間だった。
今まで鈍い輝きを放っていた石が光り輝いていく。
それはすぐに麁羅の全身を覆い隠した。
「ルミナスアーマーを思い描いて。あなたが憧れる戦闘衣装を。それがあなたの衣装になるわ」
「そ、そんなこと言われても……ひっ」
そこで気付いた。
麁羅の服が光の粒子と化してはじけ飛び、一糸纏わぬ姿へと変貌を遂げ始めたのである。
「な、なんで裸……っ!?」
メガネがなくなると結構可愛い。じゅるり……はっ。
「早く確定しないといつまでもそのままよ。とりあえず何でもいいの。固定されるわけじゃないから、服装を思い描いて!」
言われた所で出来ないだろうとは思っていたけれど……やっぱり羞恥心が先行して思考が定まらないようだ。
しばらく待っていると、ようやく何か考えたのだろう。
光が収束していき、彼女の服として纏わり付く。
そして現れたのは……いつものセーラー服だった。
「ちょ、麁羅、いくらなんでもそれは無しでしょっ!?」
折角の変身ヒロインなのに、変化前と服が一緒って!?
「だ、だって、いきなり服とか言われても……」
「ま、まぁ服装なんて後で決められるからいいわ。とにかく、変身用のキーワードと解除用のキーワードも一緒に考えておいて」
「う、うん。その、これで、私も、足手まといにならなくなるって、ことだよね?」
「ええ。あなたの力は全てが自分の想いから生まれるわ。強力な武器を思えば武器が、護りたいと思うのなら盾が。全ては意志の強さ。それが聖騎士、ルミナスナイトの能力だよ」
「そ、そうなの? が、頑張って考えてみるよ」
さて、一つ目の用事は終わった。
あたしは麁羅と共に下田の元へ向う。
さすがに天使の輪と背中の羽は消しておいた。
さぁ、戦力も増えたし、皆の元へ向いましょうか。




