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楽園と地獄が混在する扉

 人間形態に戻るのも、変身と同じ方法だ。

 言葉を口ずさむ必要はないので俺は無言で変身を解くことにしている。

 一部の改造人間は変身を解く時も首領の為とか言って大声出して恥ずかしい動きをしていたが、俺は真似する気にはならなかった。


 さすがに人に見られると困るので、森の中に兵士達が見えだした所で怪人化を解いておく。

 そして近くにいた兵士の一人に声をかける。


「ネリウたちは来たか?」


「ネリウ様ですか? 城にお戻りになりましたが?」


「よかった。じゃあ俺も戻るよ。仕事頑張って」


「報告では男性を一人保護したと聞いております」


 おお、ということは進展有りか。

 でも、これだけ探して一人だけってのもなんか……すでに何人か死んだりしてるのか?

 いや、さすがにそれは考えたくないな。おそらく遠くに飛ばされたんだ。楽観視しておこう。


「ああ、そうだ。全身タイツ男と蛇男に遭遇したら下手に刺激せず逃げることを考えた方がいいぞ」


「全身タイツ? 蛇……ああ、リザードマンの亜種ですか?」


 ふと思いついたので兵士に教えてやると、蛇男がリザードマンにされた。

 リザードマンとは鱗の生えた蜥蜴みたいなのが擬人化した存在だ。

 ゲームなどでタマに出現する存在だが、ドラゴンの親戚だとか。

 水生生物だとかも噂で聞いたことあるな。どうでもいいけど。


「いや、リザードマンは会った事無いから知らないけどさ、普通の魔法じゃ殆ど効果ないみたいだ。ネリウがなんだっけ、ウォル・フェリス? って魔法で重体にさせてなんとか一体倒したけど」


「ウォル・フェリスで重体? まだ生きていたということですか!?」


 俺の言葉に兵士は驚きの声を上げる。


「了解しました。他の兵士に蛇男と全身タイツには極力近づかないよう、隊列を組んで行動するよう徹底させます」


 あれ? なんか大事?

 どうやらウォル・フェリスの魔法はかなり強力らしい。

 これで一撃で死なないということは、この世界ではかなり強力な敵になるのだろう。

 まぁ、いいか。

 俺は兵士に別れを告げて城へと戻るのだった。




 城へと帰還する。

 城門前に佇む兵士にネリウたちの帰還を聞いてから城内に入る。

 ちゃんと言った通りに城に帰りついていたらしい。

 信頼されたのか見捨てられたのかはともかく、全員無事ならそれにこしたことはない。


 城門をくぐり橋を渡ると、正門がある。

 木製の扉ではあるが、その巨大さは城門と大差ない。

 こちらも、近づいただけで扉が開いた。

 魔法で動いてるのだろうか?


 扉を潜り、通路を歩く。

 えっと、確かこの先があの部屋だったと思うのけど……

 石造りの冷たい通路を歩きながら、記憶を頼りに部屋を探す。

 さすがに城だけあって道が入り組んでいる。ドアも似たようなものが沢山ありすぎて迷いそうだ。


 ここだったかな? と扉を開けた瞬間だった。

 目の前に三人がいた。

 俺を見た瞬間動きを止めて注視してくる。


 対象となった俺も、動くことはできなかった。

 だって……皆、裸だったから。

 一糸纏わぬ健康そうなつるりとした肌に、多種多様に成長を遂げた双房。少し毛が生え始めた秘密の丘陵。

 やはり胸は手塚が一番だな。二番はネリウ。大井手は残念。

 しかし、その肌の白さはネリウが一番。大井手は惜しい。


 そこは、夢にまで見た千年王国。

 約束の楽園が、今、ここに!

 思わず拳を握り込む。


「い、いやああああああああああああああああああああッ!」


 大井手が叫ぶ。


「このッ、変態ぃぃぃ――――」


 手塚が手短にあった鉄の剣を投げつける。


「ウォル・フェッ」


 即座にドアを閉めた。

 その瞬間ドアをブチ破って水の弾が俺の脇を掠める。

 さらにその隙間から飛んでくる鉄の剣。

 殺す気か? 当然、奴らは殺す気だ。

 背筋に怖気が駆け抜けて行ったのは言うまでもない。


「お前、勇気あるな」


 聞き覚えのない声が隣から聞こえた。

 誰かと思って振り返ると、見覚えのある服。

 黒い男子学生服。俺が着ているものと同じだ。


 こいつ、クラスメイト?

 そういえば兵士が男を一人保護したと言っていた気がする。

 するとこいつがその男子?


 そこにいたのは赤髪の男。

 顔は、まぁそれなりに良いと思う。

 熱血漢とも軽薄とも取れる爽やか笑顔で立っていた。

 ああ、思い出した。こいつ確かバスケ部のヤツだ。

 名前はえっと……


「俺は河上誠かわかみまこと。お前は?」


「あ、ああ。武藤薬藻だ」


「まぁ、なんか分からんが緊急事態だ。他の奴ら捜索してんだろ、俺も手伝うぜ」


「へ? あ、うん」


 手を差し出してきたので思わず握手する。

 すると河上は俺の背中に逆の手を回し、バンバンと叩きだす。


「ははっ、そんな辛気臭せェ面すんなよ。俺がいるんだ、大船に乗ったつもりでいろよ。なんたって正義の味方だからな」


「ぇほっ、げほっ。せ……正義の味方?」


 背中への衝撃で思わず咳き込んだ俺だったが、朗らかに笑う河上の言葉についつい反応してしまう。

 正義の味方……俺が居た場所のメインといえば、バグソルジャーという正義の味方だが。確か隣町は仮面ダンサーだったか。他には……宇宙刑事アダチとか言うヤツもいたな。


「緊急事態だ、そういった力は存分に発揮するべきだろ」


「いや、それだったら蛇男が来た時点で……」


「仲間が人質に取られてるんだぞ、死にに行ってどうするよ?」


 ……こいつ、本当に正義の味方か!?

 しかし、マズいな。こいつが本当に正義の味方だとしたら……

 いや、戦力が増強されるのはいいことだよ。でも、俺はヤツの敵。

 万一変身した姿を見られれば、敵として始末されかねない。


 身近にそんな危険人物がいたなんて……

 いや、今のうちに分かってよかったと思おう。

 こいつの前では絶対に変身しねぇ。


「そ、そうか、まぁ正義の味方ってんなら、これから頼むぜ。皆を守ってくれよな」


「当り前だ。可愛い女の子は全て俺が守ってやるさ」


 ヤベェ、ネリウたちにとっちゃこいつもある意味敵だ!?

 今のうちに暗殺しちまうか? 

 邪な考えを抱いた時だった。


 恐怖の扉が開く。

 着替えが終わったらし……ッ!?

 身の危険を感じたその瞬間、ドアから現れた三つの腕が……俺の服を掴み取り、地獄の底へと誘い込む。

 これは……殺、される?


「頼む河上ッ、助け……」


 身体を扉の中へと引きづられながらも、必死に河上に手を伸ばす。


「さらば武藤。お前は真の漢だった。皆に永遠に語り継いでいくさ」


 正義の味方は薄情だった。敬礼と共に送り出される。


「い、嫌だぁぁぁぁぁ――――ッ!!」


 そして、再び閉じたドアの奥。

 断末魔の悲鳴だけが響き渡った――――

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