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初めての変身

「落ち着いた?」


 しばらくその場で休息した俺たちは、ネリウの言葉で立ち上がる。

 腰が抜けていた手塚はネリウが回復魔法を唱えて回復させた。

 便利だよな回復魔法。


 説明を聞いた分だと、どうやらある程度の傷なら普通に直るそうだ。

 ただし、部位欠損。手や足を失ったりすると回復はできないらしい。

 その代わりといってはなんだけど、先天性の麻痺とか下半身不随とかは完治できるらしい。


 もし現代世界に魔法を持ち帰れば、今の医療は飛躍的に向上するだろう。

 俺も使えるようにならないかな。

 怪人状態で回復魔法が使えれば死ぬ確率も減るだろうし。


「なぁネリウ」


「何? 俺のアレをしゃぶれとか言う気? 変態ね」


「お前が変態だろっ。じゃなくてさ、その魔法とかって、俺でも使えるようになったりとか、できるのか?」


「魔法を? さぁ? 異世界人が魔法を使ったなんて聞いた事無いし。でも、魔法道具マジックアイテムなら使えるんじゃない?」


「マジック……アイテム?」


「ええ。魔力を秘めた道具のこと。例えばフレアセイバー。炎弾を放つ事ができるわ。回数無制限」


「そりゃいいな」


「それを使やあたしでもそのヘンな力使えるってことか……」


 会話を聞いて考え込む手塚。口元がにやけている事からすると、ろくでもない考えだろう。


「そろそろ夜になりそうね、これ以上暗くなる前に帰りましょ」


「はぁ? まだ一人も見つけてねーじゃん」


「そ、そうだよ、こうしてる間にも皆が……」


「でも、夜は魔物が活発よ。夜行性の触手モンスターなんて出てきた日には全身絡みつかれて……いやん、口ではこれ以上言えない」


 ゲームを知らない二人でも、その危険度だけは伝わったらしい。


「ま、まぁ夜更かしは肌の大敵っつーし?」


「み、皆もう見つかって城にいるかもしれないよね?」


 変わり身早いな。

 しかし、そんな生物がいるというなら確かに危険だ。

 ちょっと見てみたい気もするが、それを言うと殺されそうだ。主に仲間たちによって。


 すでに夕闇が迫りだした時間。

 ここから城に帰る頃には夜の帳も落ちるだろう。

 先程の戦闘員との戦いで全員疲れは溜まっているだろう。

 魔物とやらに出会ってしまったら、戦えないかもしれない。

 そうなったら……もう、変身するしか……


「よし、今日の捜索はこのくらいにしよう。相手も動いて帰り道にいるかもだしさ」


「後、そろそろ探索魔法の結果も出ている頃よ。城に戻ればクラスメイトの大体の位置は把握できるわ」


 そんな便利魔法があるなら早めに使えばいいのに。


「今使えばいいじゃんソレ。っつかなンで黙ってたンだよ」


 俺の思いを手塚が代弁してくれた。


「魔法陣が大きいし、必要な道具も多い。呪文も長い。持続させるのも魔力が必要だし、城内でなければムリ。何十人体制で行うモノよ。それに、私もう魔力が底尽きかけ、今魔物に襲われたらヤバイくらいよ。とてもじゃないけど探索魔法なんて使う余力はないわ」


「魔法ってのも案外使えねーのな」


「万能魔法なんて夢の話よ。それに……戦力は科学に及びもしないもの」


 見た感じだと充分通用しそうだけどな。

 異世界転移とか俺らの世界にはなかったものだし。

 あの技術がもし秘密結社に渡ったら……


 下手に魔法なんて覚えない方がよさそうだ。

 そんなものを手に入れたら研究素材としても狙わねかねない。

 俺の日常がそれこそなくなっちまう。

 なんて、どうでもいい事を考えていると、


「散開してッ」


 不意に、ネリウが大井手の腕を引っ張って叢に飛び込む。

 何が起こったのかと戸惑う俺と手塚。

 その前に躍り出る……人間大の蟷螂。


「え? 何アレ……」


 大蟷螂は両鎌を掲げて威嚇する。

 黄色の複眼には点が付いているため、俺たちではなく少し上を見ているように見える。

 しかし、これは只の模様か何か、実際には複眼なので俺たちの動きをつぶさに見ているはずだ。


「蟷螂……でかっ。っつかで……かぁ!?」


 思わず手塚を突き飛ばす。

 別に相手が攻撃してきた訳じゃないが、こんな訳のわからない敵を相手にするには一般人は邪魔だ。

 目の前で死なれるのも目覚めが悪いし、俺がやるしかないだろう。


「武藤っ!?」


 叢に消えてネリウたちに合流したのを確かめ、俺は目の前の怪物に剣を向ける。


「ネリウッ、先に帰っててくれ」


 視線を外したら飛びかかってきそうだったので、大蟷螂から視線を外さず声だけをネリウに向ける。


「いいの?」


「二人を安全な所へ、夜も近いんだろっ。それに、魔法も使えなくなりそうなんじゃないのか」


「……こっちよ、二人とも」


 理解してくれたらしいネリウ。俺が改造人間だと知っていたためか随分と手早く、戸惑う二人を先導して逃走を開始する。

 三人の足音が遠のいて行く。


 よし、これならなんとかなりそうだ。

 戦力がないなら、それを温存してる奴が使えばいい。

 俺にはその力があるんだから、こういう事になら、俺は……


 羽を広げて威嚇し始めた蟷螂が、じりじりと近づいてくる。

 蟷螂は自分の間合いに来た瞬間、物凄い速度で相手に鎌を振っているとかドクターから聞いたことがあるな。


 確か、同僚にも蟷螂女がいたはずだ。

 天然ドジっ娘属性を巧みに使い相手を油断させて自分の間合いへ、即座に狩り取ることから死神天使とか言われていたっけ。

 どうでもいいなこの話。


「洗脳解けてからは初めてだよな……」


 力を解放するのは久しぶり、けれどその方法はすんなりと出てきた。

 右手をぐっと握り込む。

 別に怪人である自分は、正義のヒーローのようにポーズを付ける必要はない。


 ある言葉を口にするだけで、変身が可能だ。

 変身のキーとして本人の声帯ではなく思考で認識される。

 つまり、言葉にせずともその言葉を思い浮かべれば変身はできるのだ。


 しかしだ、俺のいたインセクトワールド社は首領が率先して発声変身を推奨しているので、ついつい声を出してしまう。

 というか、もう慣れてしまった。


 首領曰く、声に出して変身した方が格好イイではないか。

 やはり悪であろうともそのくらいの格好は付けねばなるまい? とのことである。

 なので、インセクトワールドは全員その変身キーが首領が考えた言葉で固定されている。その言葉が……


「flexiоn!」


 自分の身体を構成する何もかもが変質する。

 自らの身体から溢れだす光を感じる。

 その光が強まる程に、目の前の化け物が怯えた声を発する。


 ああ、やってしまった。

 だが、この高揚感。

 自分が強くなったことが手に取るように理解できるこの感じ。

 今なら全ての敵を屠れる。そんな思いが湧き起こる。


 光が収まる。

 そして、人間ではなくなった異物が、俺として現れた。

 その姿は、何度見ても、自分が見ても醜悪で、余りの奇怪さに初めの頃は吐き気が常に付きまとった程だ。


 洗脳されながらも何度ドクター達に殺意を抱いたことか。

 なぜ、こんな姿に?

 インセクトワールドだ。昆虫に関する怪人ってのがセオリーなのは分かるんだ。でも、俺が改造されたのは、余りに昆虫とかけ離れた生物。


 顔を構成するパーツは全て消え、能面を押しつぶしたような形。

 中心の窪んだ部分からは数本の管が、後頭部の方へと上下左右に伸びている。

 さらにその中央部からは擬口柄と呼ばれるラッパの様な口を持つ容姿。

 それは気色悪い潰れたひょっとこのような形をしていた。


 気持ち悪い事この上ない。

 しかも、怪人化したことにより、この奇怪なフォルムに真黒い胴体がついてしまっている。

 全身タイツみたいな状態だ。正体がばれると恥ずかしい事この上ない。

 昼夜を問わず、出会えば絶叫モノの怪人である。


 まぁ、この黒い身体にも理由はあるんだ。

 それは、俺が暗殺専門の仕事を行っていたからである。

 暗闇に紛れるのも都合がいい訳だ。


「さぁ、どうする大蟷螂」


 一体どこから声が出ているのか、自分ですら良く分からない声が、一応、擬口柄から出てきている事だけは理解できている。

 その前段階である声帯が見当たらないけれど。


 蟷螂は突如変化した異物に後退したものの、羽を震わせ飛びかかる。

 鎌を振り抜き一瞬で殺す。そう判断したのだろう。

 だけど、それは選択ミスだ。

 地獄の細胞への対応ミスだ。


 大蟷螂が刃を振おうとしたその刹那、俺は体内で精製された霧を噴きつける。

 超強力な、毒霧を。

 無防備に浴びた大蟷螂は、慌てて逃走を開始する。


 しかし、幾らもしないうちに足はもつれ、狂ったように鎌を動かす。

 その姿は、まるで【死のダンス】をしているよう。

 やがて、動きは緩慢になり、木の一つに頭を打ちつけつつ息絶えた。


「やっぱ……えげつないよなぁ、俺の攻撃……」


 力尽きた大蟷螂を尻目に、ため息を吐く。

 元になった生物が毒を使う生物だったせいで、俺の攻撃方法も毒に関するモノが多い。

 できればド派手な必殺やビーム兵器みたいなのが良かったが、無いモノねだりは空しいだけだ。そこは半ば諦めている。


 さぁ、次の魔物が出現する前に、速く合流しよう。

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