その頃の勇者たち5
また死に戻った。
今回は仕方ないとはいえ、なんとも面倒臭い。
これなら城でヌェルりんと待ってればよかった。
次は行かないで待ってようかね。
どうせあたしゃ空気みたいな存在だし、何も言わずに消えても気付かれまい。
ヌェルりん探して諸国漫遊でもしとくか。
彼女、アレはアレで傍で見てるぶんには面白いし。
というわけで、部屋の中で完全に空気に徹する。
「すまんっ」
突然、日本が土下座を始めた。
まぁ、こいつの性格からすればそうだよねー。
人の足引っぱったとかいってヌェルりん遠ざけたのは自分だし、川の敵倒そうとか提案したのもこいつだしー。
大井手から言わせれば手塚を死地に追いやった最悪な人だ。
「な、何言ってンだよ。別にお前のせいじゃねェーだろ」
「そ、そうだよ。まさか挟み討ちされるなんて思わなかったよ、ねぇしーちゃん」
「ああ。予想以上に強かったしなあいつら」
しかし、土下座が効いたのか、手塚も大井手も慌てて否定する。
ヌェルりんの時とは大違いだ。
あたしとしてはちょっと嫌だなこういうの。
なんか差別してる感じがするんだよ。意識はしてないだろうけどね。
もっと慈愛を持ってほしいですな。
昨今の人間というのはほら、隣人を愛せよって言葉をどうにも実行しきれていないというか。
はぁ。今さら何か呟いたところで無意味か。めんどー……
あたしが布教活動したって主様を本気で信じる人が何人いるやらだしね。
そもそも……っと、横道逸れた。
「ふむ。川の辺りはまだ戦いにならんな。次は北の山脈に向ってみるか」
「あ、待ってくれ。その前に田中のヤツに会いたいンだ。いくらなンでも仲間はずれは悪い気がしてよ。あいつも悪気はなかっただろうし。少しは反省してると思うしよ」
手塚が言うと、大井手も同意していた。
しばらく間を置いたおかげで気持ちに余裕が出来て許す気になったようだ。
あたしもヌェルりんに会いたいし、とりあえずは付いていくか。
……なんて、思っていたのだけれど。
兵士の一人を捕まえてヌェルりんの居場所を聞くと、何故か「騙されますなっ!」と怒鳴られた。
ヌェルりん……一体何やった?
「勇者様、御無事でよかった。まさか勇者様のパーティーに魔族が紛れ込んでいるとは気付きませんで、奴は馬脚を現し、子供を殺して逃走いたしました!」
なんと!?
子供を、殺し? あのヌェルりんが?
あたしはさすがに驚きを隠せなかった。
でも、ちょっと納得した。どうせまた何かヘマやらかしたんだ。だってヌェルりんだし。
しかし、ヌェルりんは町に居られなくなってどっかいったってことか。
捜索は難しそうだ。一人でまたトラブルに巻き込まれて死んだりしないでしょうね?
あたしが近くに居れば復活させられるけど、人知れず死んでるとどうにもならないし。
「どう……なってるんだ?」
日本が戸惑いの声を出す。
全員、寝耳に水だと兵士に詰め寄っているが、彼からは大した情報は貰えないだろう。
にしても、ちょっと眼を離した隙にこれとは……運ないなぁヌェルりん。
いや、でも、ちょっとおかしいか?
過失だとしてもここまで町民に恨まれるの変だ。
これは、少々調べる必要があるかもしれない。
全く、この世界は完全管轄外ですよ主様。
時間外給みたいなのでますかねぇ。
はぁ。全く使いっぱしりも楽じゃないわ。
「嘘だろ? なンで田中のヤツが人殺しなんて……」
「あのバカ……まさか俺が付いてくるなと言ったせいで自棄になったのか……」
日本……そんな訳ないでしょうよ。あのヌェルりんがその程度で悪に染まるタマか。
しっかし、あたしの当てが外れたな。
ヌェルりんがいないんじゃこのパーティーから離れるのもマズいか。
仕方ない。もうしばらくは復活役をしておきますかいね。
……?
あら? あらあらあら?
これ、この感覚。観察対象がこの世界に来た?
へー、ほー。あーそう。そうなっちゃうか。
んじゃ、行動変更。あたしもこいつら誘導してあっちに合流しますかね。
「ふむ。田中が消えたとしても問題はあるまい。俺たちのやるべきことは魔王を倒す事だ。それが済めばあいつも教室に戻れるだろう」
赤城はどうでもいいといった感じでため息交じりに言う。そういう問題ではないと言いたいが、こいつは何を言った所で動じる事はないだろう。
「そういう問題じゃねぇ。けど……確かに、田中を探した所で見つからねぇだろうしな。あたしらが出来るのはレベル上げて魔王軍に対抗できるようにすることだけか。あの程度の蜥蜴と河童に負けてる場合じゃねぇよな……」
手塚もさすがにこのままではヤバいと理解しているらしく、自分から死地へ赴いてでもレベルを上げたいようだ。
ならば、丁度いい。
彼女との合流を提案しておこう。
「ほいほい。んじゃあたしからていあーん」
「うおっ!? や、八神か。そういえばお前も居たな」
何気に酷いね日本。あたしは忘れられていたんかい。
しかも他の三人まで同意見だった。
空気に溶け込んで去らなくてもすでに忘れられていたとか。はは、笑える。
「まぁいいや。それより東に村があったっしょ。あっちに行かない? いいことあるかもよ」
あたしの提案に怪訝な顔をしていたクラスメイトたち。
でも、あの川へはもう一度向う気にならないらしく、結局受け入れられた。
よし、待っててね、あたしの聖戦士候補。




