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俺のクラスメイトが全員一般人じゃなかった件  作者: 龍華ぷろじぇくと
第七話 勇者は嫌でも復活する
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ヌェルティスヤッちゃう

 ふふ、フフフ。ふはは、はーっはっはっはっ!

 無駄に高笑いを浮かべつつ、ベットに腰掛けた儂はワイングラスを片手に足を組んでいた。

 ワイングラスには真っ赤な液体が注がれている。


「くっくっく。はーっはっはっはっは」


 傍らには初老の男。執事として着こなした執事服を身に纏い、一糸乱れぬ体勢でただただ立っている。

 ……

 …………

 ………………


 うむ。飽きた。

 部屋に戻った儂は、とりあえず厨二病患者としてやってみたかった部屋の中でワイングラス片手に高笑いを一頻りやってみた。

 傍らに常に控える執事がちょっと邪魔で恥ずかしかったが、とりあえず今は何も考えたくなかったので放置して笑っていた。


 しかし、である。

 やはりこういう行為は一人ではなく周りのツッコミ待ちなのだ。

 一人でやってもただ空しいだけだった。

 そう、目の前にヴァンパイアハンター並みの誰かがいてこそ真価を発揮できる笑いなのだ。

 一人では辛さが増すだけだ。今回はそれに気付けただけでも良しとしよう。


「儂は、外へ行くぞ」


「ご随意に」


 バナナチョコ……だったかな? 執事は深々おじぎをすると、歩きだし、部屋のドアを開く。

 儂が外に出ると言った途端、こうやって通行の邪魔になるドアを先に開いてくれるのだ。

 さすが執事、抜け目がない。

 部屋を出ると、バナナチョコに見送られ、儂は城を後にするのだった。




 さてと、とりあえず街中をぶらついてはみたモノの、金がないので食べ歩きもできん。

 仕方ない、一人で魔物どもをぶちのめしておくか。

 いや、そもそもが奴らと顔を合わす必要もないのだから、この国に居る必要がなくなった訳だ。

 ならば簡単、儂は別の町に向ってしまえばいいのだ。


 魔王退治は奴らに任せ、悠々自適の異世界ライフを満喫するのだ。

 そうだ。それが一番ではないか。

 一人きりなら吸血能力で力を上げられるし、誰ぞに見とがめられることもない。

 何をしようが自己責任だが、自分のペースで旅が出来るのだ。


 よし、そうと決まればまずは吸血だ。

 一般人相手にはマズいだろうからそこらの片隅に居るゴロツキでも襲うとするか。

 それで……そうだな。奴らは近辺で遊んでおるだろうから少し遠くの……フリューグリスとかいう町にでも行ってみるか。

 地図はバナナチョコに貰ったので迷わず行ける。


 うむ。そうと決まればさっそく行動を開始しようではないか。

 儂は適当な路地裏に向うと気配を探る。

 パンク頭の血色の悪い男が一人いる場所を探し当て、気付かれない様近づくことにした。


 ただ一人でいるだけではなく、先程までシンナーか何かを吸っていたらしい。ふらふらしている。

 異世界にもあるのだな。随分と儂のいた日本寄りな世界である。

 でも、儂には気付いていないようだし、イカレていても吸血自体に問題はないので遠慮なく……

 かぷっとな。


 儂は男の首筋に噛みつく。すると男は痙攣を始めた。

 うぅ、かなり不味い。しかし我慢だ。

 結構な距離を歩くのだ、できるだけ多めに吸い取っておかねば。


 男が真っ青になってきはじめたので、儂は首筋から牙を抜き取った。

 ふむ? 視界の片隅に何か出たぞ?

 23:54? おお、23:53になった。

 確認した今もどんどん減っている数字は、どうやら吸血による強化時間らしい。

 23分しか持たんのか。まぁ、動物辺りから補給しつつ向えばよいか。


 強化を終えた儂は、路地裏から出ると、城下町の入口へと向かう。

 さぁ行くぞ、と思った時だった。


「なぁなぁ、姉ちゃんって勇者の仲間だろ?」


 突然、背後から声がかかった。能天気な子供の声だ。

 勇者の仲間というのはあまり言われたくないのだが……とりあえず振り向いておくか。


「そうだが、どうした?」


 少年はどこにでもいるような容姿で、キラキラした眼で儂を見上げている。

 かなり幼い少年だ。


「なんで勇者いないの?」


「それは……」


「少し前勇者たち外に行くの見たよ? なんで姉ちゃん一緒じゃないの?」


「い、いや、それは……ほれ、儂は寝過ごしたのだ」


「えー。じゃあ起こされることなく放っていかれたんだー。姉ちゃんハブられてるんじゃないのー」


 イラッと来た。

 なので、拳を握り、少年の頭に拳骨を落としてやった。


「ええいっ。ハブられとらんわっ。ちょっと怪我したから残されただけだッ!」


 と、叫ぶように吐き出した儂だったが、その視界にダイアログが開いた。


 ――ヌェルティスの攻撃! ピンポイントアタック! クリティカルヒット! マカロニに2400のダメージ! マカロニを倒した!――


 ……は?

 唖然とする儂の目の前で、少年がぐらりと傾ぐ。

 そのまま地面に倒れ込んでしまった。


 お、おい? 冗談であろう?

 ただの拳骨だぞ? これで死ぬとか、おい、おいっ!?

 慌てて少年に駆け寄る。

 抱き上げて肩を揺するが反応はない。

 本気で死亡したらしい。


 確か、そう、確か復活魔法を使えばこの状態なら助かるはずだ。

 儂は少年を抱えたまま立ち上がる。少年の真上にダイアログボックスが現れアイテムうんぬんを聞いてくるが、今はそんなものに構っている余裕はない。


「誰かッ、誰か復活魔法。アイテムでもいいっ頼む! 誰かこいつを救ってくれぇッ!!」


 走った。

 儂は無我夢中で助けを求める。

 周囲の住民がどんどん振り返る。

 戸惑いの声が聞こえ出す。

 くそっ。野次馬共が、誰かリザレクだったかは使えんのかっ!


 しかし、1分が経過した時だった。

 儂の腕の中が、急に軽くなる。

 え? と思って視線を向けると、少年の頭上にあったダイアログが光の粒子となって消え始めていた。


 その瞬間、儂は思い出す。

 死亡した人間には近づいてはいけない。

 近づけばアイテム入手の確認ダイアログがでるからだ。

 しかもそれは、1分放置すると自動的に……アイテムを入手してしまう。


 理解した時には、ダイアログが消え去った後。

 慌てて【いいえ】があった場所をタッチするが、後の祭りだった。

 少年自体が光の粒子へと変わっていく。

 眼の前で……腕の中で……確かにあったモノが消え去った。


 ――子供服一式を手に入れた! ミサンガを手に入れ……――


「嘘だ……こんな……」


 こんな簡単に……人は死ぬのか?

 思わず両手で頭を抱えて絶望する。

 視界にはどうでもいいメッセージが流れている。


 絶望する儂の周りを人々が囲いだす。

 なんだ? と顔を上げると、各々手に武器を持った町人たちが儂を恐怖と怒りに満ちた瞳で睨みつけていた。

 すぐに兵士が大勢で駆け付けてくる。


「俺は見たぞ! 罪も無い子供を殺しやがった!」


「私も見たわっ。アイテムまでせしめていたわ!」


 ま、待て、違うっ。儂は殺したくて殺した訳では……

 いい訳しようにも、殺気を漲らせる彼らは聞く耳など持ちそうになかった。

 殺される。間違いなく、このままここに居れば、殺される。


 儂は、この光景を知っている。

 昔、遥か昔に体験した。

 どんなに抵抗しても、いい訳しても、助けを求めても、犯罪者として刑を受けさせられる。

 無実を証明するために殺される。死ねば無実だったと証明される。

 ……魔女狩りだ。


 い、嫌だ。またあんな体験をするなんて……嫌だッ!

 儂は考えるより早く【蝙蝠化】を使用する。

 全身が無数の蝙蝠へと変化する。

 驚く民衆が我を取り戻す前に、儂は空を飛んで逃げ出した。


「ま、魔族……あれは魔族だ!」


「バカなっ、王都だぞ! なぜまだ侵略してきていない魔族がここにっ!」


「防備を固めろ、アレ一匹だけとは限らんぞ、魔族狩りだ! 街中を探せぇっ!」


 逃げる折、なにやら誤解が生じたらしい。しかし、儂はとにかく逃げる事にした。


 ――PASSIVEスキル:魔王の卵を獲得しました!――

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