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クラスメイト捜索準備

 通されたのは六畳間程の小さな部屋だった。

 さすがに畳などというものはなく、磨かれた石の床に組み上げられた壁。

 中世的な建築様式の部屋は、どこか寒々しい。


 天井の光は電気ではなく、謎の光る光球。

 天井付近をフワフワと漂っている。

 丸テーブルに椅子が四つあるだけのその部屋に案内された俺たちをその場に放置して、「現状説明と協力を頼んでくる」とネリウは一人部屋を出て行った。


 そして、残された俺たちは気まずげに椅子に座る。

 気まずいながらも丸テーブルに肘をつき、二人を見てみる。

 さすがに女性をじろじろみるのは気が引けるので、すぐに視線を外して天井や壁に注意を向けてしまう、シャイな俺だった。


「えっと……武藤君、結局どうなってるの?」


「どう……って言われても。俺も何が何だか?」


「山田さんってもっと引っ込み思案っつーかさ、大人しい感じじゃなかった? なんであんな鼻に付く喋り方になってンの?」


 それこそ俺が知るもんか。俺としてはむしろ手塚の口調が鼻に付く気がするんだ。これは気のせいなのか?


「しーちゃん、たぶんアレが地なんじゃないかな?」


「マジで? 猫被ってたわけだ。ンで、こんな訳わかンねー状況になってリーダー風吹かせてるワケ? うっぜ」


「まぁ、ネリ……山田さんに関してはこの際置いといてさ、現状を確認しとこうぜ」


「それもそだな」


 俺の言葉に手塚が答える。

 腕を組みながらうーんと唸りだした手塚。

 両足をつま先立ちさせて椅子を傾ける。


 身体が小さいせいか、背伸びしている子供を見ているみたいで……なんだろう、凄く和む。

 口は悪いけど愛らしい。

 眉根を寄せ自分一人でまずは仮説を立てようとでもしているのだろうか。


 線の細い身体ながら胸だけはマスクメロンを詰め込んだようだ。

 かなり……目のやり場に困る。

 というか、視線がそこに向ってしまう。

 全くけしからん。実にけしからん。揉みしだきたくなるだろう。


「あ、あの……武藤君……」


 その視線に目ざとく気づいた大井手が遠慮した声で嗜めてきた。


「あ……な、なんでしょう?」


 焦りながらも視線を大井手に移動。

 綺麗とは呼べないが、悪くはない顔。

 そばかすがなければもっと可愛いのではと思ってしまうのだが、これはこれで恋愛対象にはぎりぎり入るかなといったところ。

 惜しむらくはその胸か。服の上からでは膨らみがわからない。


 隣の手塚がいるせいで余計に見劣りしてしまう。

 損な役回りだなと同情を禁じ得ない。

 彼女一人だけだったなら、それとない普通っぽい男が彼氏候補として告白してくれたりするかもしれないが、手塚が横に居るせいで、男たちの視線は手塚の胸がすべて受け止めてしまう。可哀想に。

 俺の視線が自分に移ったことで、恥かしそうに眼を伏せてしまった。


「えっと……その……なんでもないです」


 自分の胸が見られるのが嫌なのか、顔を背けられる。

 どうしろっつーの?


「とりあえずさ、今日の授業中から順序立ててみるか」


「ああ、そうだな」


 自力での考えに疲れたのか、手塚が提案してきたので肯定の返事を返す。そのおかげで大井手の意識もそちらに向いてくれた。


「まず、授業中にタイツ軍団がやってきたよな。それと蛇の怪人。何とか社

の怪人がクラスにいるから名乗り出ろとか。結局正義の味方に倒されンのにバカだよなー」


「【地獄の細胞】って言ってたよね。探してるの」


「つーこたぁその何とか細胞ってのは生徒の一人ってことか? 略称か何かかねマッキー?」


「た、たぶん? その後、山田さんが挙手したんだよね?」


 挙手というか、手が光ってたけどな。


「じゃあ山田さんが何とか細胞? つーこたぁあいつのせいで殺されかけたのかよあたしたちはっ」


「まぁ待て手塚さんよ」


 間違った答えを紡ぎだし、無実のネリウに怒りだした手塚。

 思わず俺は声をかけてしまった。


「その後は二人はどう認識してる?」


「あン? その後は気がついたら森の中にいたくらいだぜ?」


「うん。私も……あ、そういえば直前に目の前が真っ白になったような気がするかな?」


「俺からは……手を上げた山田さんから光が出てたように見えたよ。その後は森の中だ。その状況からして俺の仮説なんだけどな」


 といったん切って少し迷う。

 言ってしまったら変な目で見られないだろうか?

 いや、でも同じ体験してるんだし大丈夫だよな?


「山田さんが魔法みたいな能力使ってクラスメイトを逃がしてくれたんじゃないかと思うんだが」


「頭大丈夫か?」


「厨二病全開だね」


 手塚が可哀想なものを見る目で、そして大井手は苦笑いを返してくれた。

 なんだろう? この胸に穴を開けられたような気分。

 寒い。身体の中心が、心が氷の刃で串刺しにされたようだ。


「いや、そう仮定した方が教室から森に瞬間移動とか説明しやすいかなと」


 泣きそうになりながら一応自分をフォローしておく。


「……ま、確かに現実的に考えてもおかしいことはおかしいしな。実はあたしたちは全員蛇男に捕まって、何か改造された後に記憶消されて森に放置されてたとか、ありそうじゃね?」


「そっちのが怖いよしーちゃん」


 手塚の話を想像したのだろう。大井手が泣きそうだ。


「とりあえず、俺達がこの城の近くに居たってことは他のヤツもこの辺りにいる可能性が高い。それと……蛇男たちも」


「うあ、その可能性は考えてなかったわ」


「じゃあ、今も……クラスメイトの誰かが先生みたいな危険に晒されてる……ってことなのかな?」


 そういえば……先生、生きてるんだろうか? いや、あの状況じゃ無理だろうな。


「話が通ったわ」


 話が一区切りしたとたんだった。ネリウが戻ってくる。


「この城の兵士がクラスメイトの捜索をしてくれるから、皆はこの城で待ってればいい。全員揃ったら元の世界へ返すわ」


「ちょ、元の世界って……お前も厨二患者かよ!?」


 手塚が若干引いた顔になる。

 しかしネリウは構うことなく言葉を続けた。


「私、異世界から学校に通ってたの。本当はこの世界の住人。そしてここクラリシア城の王女ネリウ・クラリシア……なんて言ったら、どうする?」


 秘密にした方がいいのでは? と俺がわざわざぼかした言い方していたのに、当の本人が普通の顔でぶっちゃけていた。

 俺が笑われた意味はなんだったんだ? 俺の純情を返せこんちくしょう。

 この厨二病末期患者め。くそっ、くそっ。俺は厨二病じゃない、違うんだよちくしょう。


「あ、あはは、ぶっちゃけありえねェし」


 手塚がけたけたと笑いだす。しかし、その頬は微妙に引きつっていた。

 どこかで信じている自分がいるようだ。でもそれを肯定する気にはなれないらしい。

 おのれ手塚め。自分で納得してるなら俺への厨二病宣言を取り消せっ。


「ま、せっかくだからこの世界ではネリウと呼んでくれると嬉しいわ。そこの……えっと……ほら、苦いくて緑色っぽい……」


 俺を指して口ごもるネリウ。もしかして名前がでてこないとか?


「武藤な。武藤薬藻むとうやくも


 言ってから気付く。なるほど。苦くて緑色か。

 薬は苦いし、藻は緑だ。分かりやすい覚え方だ。

 当の本人である俺にとってはそんな覚え方してほしくないけどな。


「そうそう薬藻。彼が私の事をネリウって耳元で囁くのよ、それもねちっこく舐るように。だから、そっちで呼ばれるのに慣れてしまったわ」


「俺は殆ど呼んでないはずだぞ? しかもさん付けだったしっ」


 女性陣の冷ややかな視線を受けながら、思わず反論。


「あら、二人きりの時はあんなに野性的だったくせに」


 棒読み口調で言われても困るのだが、それを真に受けた手塚と大井手の視線が痛い。

 必死に言い訳するにもドツボに嵌りそうなので戸惑っていると、急にネリウが笑いだした。


「冗談よ薬藻。それより、現状確認は済んだ? 他のクラスメイト捜索に行くわ、付いて来て」


「え? 俺も?」


「ちょっと、あたしらは!?」


「私みたいに魔法が使えるワケじゃないでしょ、自宅待機しとけば? 給料は出ないわよ警備員さん」


 挑戦的な笑みを残して部屋を出ていくネリウ。挑発されたと勘違いしたらしい手塚が立ち上がり俺の側へとやってくる。


「行くぞッ」


 言葉が終るより早く、俺の襟を掴んで引っ張って行く手塚。


「へ? 俺?」


「わ、しーちゃん待ってぇ」


 戸惑っている間に部屋から連れ出されてしまった。

 一人残された大井手も慌てて後を追ってくる。


「結局付いてくるのね」


「当り前だ。あンな狭いとこ長時間居れるかっつーの」


 石造りの廊下を早歩きでネリウに追い付いた俺達。

 ネリウは半ば予想していたのだろうか、ある部屋の前で待っていた。


「仕方ないわね。この部屋で装備を整えて。外は魔物が出るから」


「魔物!?」


「……え? もしかして本当に、異世界?」


 と、大井手が思わず俺を見る。

 そうだよ、俺が厨二病患者ってわけじゃないんだよ。

 当ってただろ? 伊達にゲーム脳じゃないんだ……あれ? ゲーム脳って厨二病の一種じゃね?


「ほら、行くならさっさと用意して」


「そ、そうね……」


「薬藻は別に大丈夫でしょ?」


 できれば剣くらいはほしいかも。

 そういうのちょっと憧れます。改造人間だけど。

 ほら、男って生き物はやっぱり英雄に憧れる生き物で、勇者っぽいものといえば聖剣やら魔剣で、つまりは剣なわけで……


 女子三人が俺の思考を放置して部屋に入ってしまう。

 装備なので着替えもあるだろう。

 彼女たちがでてくるまで扉の前で待つ事にした。ちょっと切ない。


 こうなったらもう覗きたい気はするけどさ、一人だとさすがに勇気が。

 というか、バレた時のダメージがでかすぎる。

 それにドアには覗き窓ないからドアの隙間から覗く事になる危険度は段違いだ。


 あ、でも変身すれば覗きくらいは……

 いや、ダメだ。さすがにそれはマズいだろう。

 部屋の中からは黄色い声。なんのかんのと手塚も大井手も楽しそうだ。本当に中で何が起こってるのか気になる。


 しーちゃんの胸こんなに柔らかいんだぁ。とか、揉み返しだマッキー。とか、中で何が!?

 終いには山田……じゃなくてネリウも結構胸でけーよな。

 とか飛び火しだして慌てるようにネリウが部屋からでてきたし。


「って、お前の服装は変わってねーのな」


 脱出してきたネリウを見て、俺は呟く。

 折角の異世界なのに未だセーラー服。せめてその上に魔女っぽい三角帽とか黒マントとか着てほしい。ファンタジー要素が足りないよネリウさんっ。


「私は魔法が使えるから。何? もしかして私の着替えが見たかったの? 嫌だわ変態。私の何を期待してるの? まさか今夜のオカズにしてやろうぐへへとか鬼畜な……」


「お前は俺に何をさせたい訳?」


「……怪人のこと、話さないの?」


 急に話題を変えられて押し黙る。


「正体は隠しきれないわよ。すでにあの蛇男のいる秘密結社には素姓がバレてる」


「でも、俺のクラスにいるだろう。って程度だ」


「すぐに特定されるわ。それとも、同じ事を繰り返す? あの時名乗り出なかったのはなぜ?」


「同じ事を繰り返す気はないよ。それに、手を上げなかったのは迷っただけさ。どうせ出ていったところでクラスメイトは殲滅させられる。怪人の秘密を知った人間を、秘密結社は生かさない。どの秘密結社でも同じさ。後は洗脳するか殺すかの違いだ。アンデッドスネイクは皆殺しにする事が多い。特定された時点で皆殺されてる。だからさ……感謝してるんだ。君が異世界転移? してくれたおかげだ」


「まだ、予断は許さないわ。多くのクラスメイトはまだ外だし、私達も外に出る。蛇男だけじゃない。この世界には魔物が出るわ。いつまでも隠すのは無理よ」


「それでも……戻れた時に普通の暮らしに戻れないのは……」


 辛い。

 そんな言葉を俺は飲み込む。

 確かに、無事全員が戻れたとしても、アンデッドスネイク社はまた別の怪人をよこし、俺を無理矢理スカウトしにくるだろう。


 逸れの怪人は貴重な戦力なのだ。

 何処の秘密結社も欲しがるものだ。

 それが嫌なら正義の機関に助けを乞うて共に悪を倒すしかない。


 正体がばれてしまえば、平和な日常など二度と……

 それに、俺の怪人形態はあまりにも醜すぎて……正義には向かない。

 それでも、やはり破壊活動のある悪の秘密結社に再び所属するのは……


「おまたせっ」


 俺の思考を断ち切るように、扉が開く。

 現れたのは、現代学生服から一変。

 鉄の鎧に身を包み、鉄の剣を脇に差した手塚と、同じく鉄の鎧を着てボーガンを手にした大井手だった。


「ボーガン? こういう世界って普通弓じゃないのか」


「えっと……私に扱えそうなのがこれくらいしかなくて」


 弓が得意という訳でなく、大井手は武器全般が苦手らしい。というか、女学生なんだから得意武器とかがある方が怖い。ゲームとかなら弓とか魔法の杖なんだろうけどな。

 実際に弓を扱うとなると弓術を習っていないと弓を引く事すら難しいと言われている。

 ボーガンなのはレバーさえ引けば矢が相手に飛んで行くからだ。


「銃でもありゃ楽できンのにな」


「この世界でそんなものあったら大変ね。オークやゴブリンが銃持って襲いかかってきたりして」


「お、オークとかゴブリンって……何?」


「あら? 大井手さん、知らない?」


「あたしらはあんたらと違ってゲーム脳じゃねーの。109でショッピングしまくる生活だっつーの」


 まさか、ゴブリンやオークが通用しない人が身近にいるなんて……

 俺とネリウは同時に驚いた顔をしていたらしい。

 手塚が面白くなさそうに眉根を寄せた。


「まぁ、なんだ。空想世界で活躍してる、緑の肌を持つ人型の生物がゴブリン。ブタが二足歩行で道具を使いだしたのがオークって名付けられた魔物な」


「ブタが……二足歩行? ありえねェだろ」


 まぁ、実際に見た事ないからなんとも言えないけどな。

 とりあえず、俺も防具着ていくか。

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