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対決、蛇男1

 城内の四方が壁に囲まれた内庭で、蛇男とジャスティスセイバーは対峙していた。

 彼のかたわらにはグラビィマッキー。

 今はロッドの力で姿が見えなくなっているがジャスティスセイバーは彼女の存在を認識しているらしい。


 俺と手塚は彼らに気付かれないよう、二階の窓から顔を出して見守る。

 立っていれば胸元辺りまで外から見えてしまう大きな窓ではあるが、俺たちはそこから顔だけを覗かせていた。


 重力魔法で飛ばされた蛇男は室内戦闘を避けたのか、ここへ二人を誘い出した様子。

 おそらく融通の効かない通路では万一大技が来た時避けられないからだろう。


 正義の味方の中には、ジャスティスセイバーのように広範囲におよぶ必殺技を持つ者が居る。

 大して強くもないとタカをくくると、思わぬ反撃で死亡する怪人が後を絶たないのだ。


 蛇男もそれを警戒したのだと思う。

 なぜなら狭い通路、二対一で不利になるのは、むしろ多人数である正義の味方チームであるからだ。


 二対一で戦おうにも狭い通路で同時攻撃はかなり無理がある。

 となれば、波状攻撃を行うしかないのだが、これでは二人いる意味が余りない。

 いちいち仲間の安全を確保してから攻撃しなければいけない分ロス時間が発生してしまうのだ。むしろ一人で戦った方がまだ善戦できたりする。


 まぁ、そんな通路戦にならず、蛇男のなにがしかの考えのおかげでかなり広い内庭での戦いになったのは僥倖だろう。


 二階から覗く内庭は、砂地の広場だった。

 一部壁側に藁人形があるところを見るに、おそらく訓練場の類で使われているのだろう。


 広場を覆うようにして壁が存在するが、俺たちから見て丁度右向かいの壁はなく吹き抜けになっていた。

 廊下を歩きながら訓練模様を見られるようになっているようだ。

 等間隔に太い柱が立っていて、壁の変わりに吹き抜け廊下の天井を支えていた。


「行くぞグラビィ」


「そ、その略称はどうかと思うよ。でも、まかせて!」


「ふん。戦闘員共を倒したからと、我まで倒せると思うなよ。このハブルティスが貴様らを地獄に送ってやるわ」


 今さらながら、蛇男の名前が判明した。もはやどうでもいい。

 あいつはこれからも蛇男で十分だ。


「ったく、あのデカイ剣を堀に落としたのは痛かったな」


 あのバカ、また剣を前のヤツに戻してると思ったら、ツヴァイハンダー落としてたのかよ。


「グラビティ・バインドッ」


「二度も通じると思うなよ小娘ッ」


 襲い来る重力波を飛び退き、右手を振り被る蛇男。


「喰らえッ」


 蛇男が腕を振う。

 その瞬間、離れた場所にいたジャスティスセイバーの間横を通り過ぎる長い腕。

 城壁に叩きこまれ、壁を貫き破壊する。


 腕が……伸びた?

 そういえば、あいつアンデッドスネイクの怪人だったな。

 蛇の伸縮性を腕に付けたか? いや、それだけじゃ説明つかないな。

 確か、アンデッドスネイクは隠し武器を内蔵させるので有名な秘密結社だったはずだ。


 隠し武器……というよりは隠し拳といったところか。初見であれはまずかわせないだろう。俺でもくらってしまえば敗北していたかもしれない。

 運のいい事にグラビィマッキーはその場におらず、攻撃は空振りに終わったが、予想外の遠距離攻撃は二人を戦慄させるに十分だった。


「そらっ」


 驚きから戻る間もなく蛇男はジャスティスセイバー向けて腕を振う。


「ぐあっ」


 遠距離からの近接攻撃。

 ジャスティスセイバーは慌てて防御行動を取るが、蛇男の腕に吹き飛ばされ城の壁に激突する。


「お、おい武藤……あれ、ヤバくね?」


 瓦礫と共に廊下に沈むジャスティスセイバー。

 その様子だけで、蛇男の攻撃力の高さが容易に想像できる。

 しかも、蛇男は残るグラビィマッキーを倒すべく、周囲に拳を走らせる。

 城壁に無数の穴を作りながら、まるで散弾のように四方八方に拳の雨を降らせていく。


「クソッ、どこだ。さっさと撃墜されろ!」


「だ、ダムド――――ッ」


 重力波対拳。

 普通に考えれば重力波の圧勝のはずだったが、拳の打ちだされた速度によって優位性が打ち消されていた。

 重力波を打ち消した拳だったがそこで弾かれ相殺される。


「そこかァッ」


 しかし、拳は二つある。

 蛇男は逆の腕を振り被り、重力波が飛んできた方向向けて拳を打ち出した。

 

「きゃあぁっ」


 見えないのでよくわからないが、ぎりぎり回避したらしい。けれど、これで迂闊に魔法は使えなくなった。

 非常にマズい状況だ。

 姿こそ見えないが、拳を何度も撃たれればいつかは当ってしまう。


「このままじゃマッキーが……」


「打つ手がない……か」


 奴を倒さなければ現代世界に戻っても意味がない。

 下手をすればネリウの故郷が消されかねないしな。

 だから、ここで確実に倒さなければならない。


 ジャスティスセイバーとグラビィマッキーで何とか出来れば良かったが……

 どうにも荷が勝ち過ぎているらしい。

 近づく事すらできずに蛇男にいいように翻弄されている。


「行くぜ……ジャスティス。砕け……セイバー!」


 不意に、ジャスティスセイバーの声が聞こえた。

 せっかくの不意を討てるチャンスだというのに、大声でそれを叫ぶのは無意味だ。

 蛇男も声を聞いてジャスティスセイバーに意識を向ける。


「必殺! ギルティーバスター」


 真上からの振り下ろし。凶悪な光の一撃が蛇男へと飛んで行く。


「な、にぃぃぃぃっ」


 さすが悪役というべきか、驚きつつもなぜか逃げない蛇男。

 そのまま光に飲み込まれていった。


「やったぞ、あいつら」


「いや、ダメだ」


 あの野郎……そういう能力も持ってたのか……

 土埃が蛇男の姿を隠す。

 やったか? と力なく蛇男に近づくジャスティスセイバー。

 あのバカ律儀にフラグ立つやがった。

 グラビィマッキーも透明化を解除して様子を見に来てしまう。


「まだだッ、逃げろッ」


 さすがにマズいと俺は大声で叫ぶ。

 それに気付いた二人が慌てて回避行動に移るが、二人の速度を上回る勢いで拳が飛んでくる。

 悲鳴すら上げる暇なく壁へと吹き飛ばされた。


「う、嘘……」


 手塚の呟きに俺は生唾を飲み込む。

 不意の一撃を喰らったジャスティスセイバーは半壊した壁に激突して沈黙し、グラビィマッキーは俺から見て右側の柱にぶつかり、変身が解かれていた。

 ロッドこそ堅く掴んでいるが、気絶したのか動く気配もない。


「マッキーッ」


 その様子を見て手塚が身を乗り出す。

 そして、蛇男が手塚を捕捉した。


「そこにも居たかッ」


 拳を振り上げた蛇男。

 その真横には、先程まで彼だった、皮が捨てられていた。

 脱皮である。

 彼はギルティーバスターが当る瞬間、自らの皮を脱ぎ棄て難を逃れたのだった。


 まさに早技だった。

 つるんと滑る様に脱皮した蛇男は、ぬらつく身体を地面に滑らせ、光が飲み込む直前脱出してしまっていたのだ。


 加えて脱皮直後で体液にぬらついていた彼にはギルティーバスターの威力を軽減する力があったようだ。

 ほぼ無傷の状態でギルティーバスターが通過後、元の場所へと戻っていた。


 蛇男の拳が手塚に向い飛ばされる。


「手塚ッ」


 慌てて彼女を助けようとするが、間に合わない。

 来るんじゃなかった。

 手塚を連れて来るんじゃなかった。

 このままじゃ彼女は殺されてしまう。あの凶悪な拳で叩き潰される。

 だから、もう、迷ってる暇は―――ない。


「flexiоn!」


 腹を決めるしか、なかった。

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