反撃開始
誰もが絶望を感じていた時だった。
突然、クラスメイトの一人を人質にしていた戦闘員がさらさらと消える。
誰も彼もがそれを思わず見送ってしまった。
「な、何が……?」
自らの目論見通りに動いた状況にあざ笑っていた蛇男は、その光景に眼を疑った。
ありえなかった。
正義のヒーローも、魔法少女も、誰も彼もが手も足も出ない中、一体誰が戦闘員を攻撃するのかと。
だが、二体目の戦闘員が砂へと帰る。
戦慄で声が出ない蛇男、周りを見渡しおかしな行動をしている相手を調べ出す。
だが、いない。
三体目が消える。
ありえない。何が起こっている?
敵はどこだ。何処に居る?
「な、何者か知らんが、それ以上は止めろッ、貴様のクラスメイトを殺すぞッ、首を圧し折るぞッ!?」
四体目が氷の塊となり破砕された。
その瞬間、好機とばかりに動き出す三人。
「ロード、セイバーッ」
ジャスティスセイバーが戦闘員の一人に斬りかかる。
人質こそ取ってはいたが、困惑していた戦闘員は傷を負い、人質を離してしまう。
グラビィマッキーとネリウは蛇男の脇を抜け、部屋の外へ。
強制沈黙が効果を発揮しない場所まで来ると、あらかじめ唱えていた魔法を解放する。
「ウォル・フェリスッ」
「グラビティ・バインドッ」
ネリウの魔法で残った戦闘員に一撃。戦闘員を仰け反らせ、体勢を崩させる。
さらにそいつを重量魔法が襲う。
重圧による捕縛魔法だ。さすがの戦闘員も力なく「ヤー」と答えて地面に這いつくばる。
余りの重圧で立っていることすらできなかったらしい。
そんな戦闘員の一人の首にキラリと細い何かが絡まった。
そして、戦闘員の首が飛んだ。
きらめく糸に斬り裂かれ、霧のように消えていく。
「残り、一体だ」
最後の戦闘員が糸で首を裂かれると、その背中に一人の男。
「き、貴様はッ」
「ただの学生だ」
そこにいたのは、御影だった。
その手にはコンバットナイフ。心なし刀身が震えている。
御影曰く、ナノサイズで細胞を切断する超振動ナイフらしい。
反対の手には戦闘員の首を落とした糸。攻撃に使用していないためか、垂れさがっている。
「ただの人間の身でできるのはここまでだ、アレの相手は任せるぞ正義の味方」
「任せろ」
御影に応えるようにジャスティスセイバーが蛇男に跳びかかる。
戦闘員による人質が無くなった今、敵は蛇男だけ。何の問題もなく戦えるのである。
むしろ蛇男を自由にしてさらなる人質を取られる方がよっぽど危険だった。
さすがにジャスティスセイバーは正義の味方だった。
敵の行動を阻止するためにセイバーを叩きつける。
しかし、彼のセイバーはナマクラである。
ジュッと音を立てて蛇男の皮膚を焦がすが、それだけだ。
「おのれ貴様らッ」
「グラビティ・バインドッ」
咄嗟に反応しかけた蛇男だったが、グラビィマッキーの魔法で動きを止められる。
ジャスティスセイバーの更なる一撃が彼を襲う。
しかし、やはり出力が足りない。
脳天からの一撃も、頭に少し傷をつけただけで終った。
「ああ、クソッ、俺じゃ致命傷を与えられねぇってか?」
蛇男は重力に押し潰される前に、逆らうように転がり逃げると、部屋の外に居たネリウへと手を伸ばす。
「この、グラビティ……」
「シャァッ」
蛇男に新たな魔法を掛けようとしたグラビィマッキー。
しかし蛇男は彼女に顔を向けると、毒液を吐き飛ばす。
ビシャリと赤いスーツに毒液がかかる。
「か、河上さん?」
「大丈夫だ。このスーツならヤツの毒は防げるッ。攻撃をッ」
あのスーツ、耐毒性に優れているようだ。
改造人間はその特性上毒を扱う奴が多い。
俺もそうだし、蛇男もそうだ。
これは元にした生物が毒を持っているからなのだが、これがまた人間やら他の改造人間には有効なのだ。
さすがに正義の味方は俺たちのような毒持ちを相手にするので毒への対処も凄まじい。
吐きつける程度の毒なら無効化する奴が多いのだ。
まぁ、俺の毒は鞭毛を突き刺して注入するので結構有効なんだけどな。
「だ、ダムドッ」
ロッドを振り下ろすグラビィ・マッキー。
放たれた重力が蛇男を弾き飛ばす。
「今ですッ、皆さんを部屋の外へ。ネリウさん任せますッ」
「ええ。一度彼らを送ってくるわ。ここの座標を覚えるから合流まで時間掛かる。負けないで」
ジャスティスセイバーとグラビィマッキーが蛇男を追って行く。
御影たちは逆方向へ、クラスメイト達を移動させていった。
「やったな、武藤。あたしたちもネリウに合流しようぜ」
「ああ、そうだな……」
俺もクラスメイト達に合流しようとして、立ち止まる。
本当に、それでいいのだろうか?
きっかけは俺みたいなものだ。
蛇男をあのままにはしておけない。
結果だけでも、見届けるべきなんじゃ?
「ちょ、何処行くンだ武藤ッ」
「手塚はネリウの方へ行け、向こうの結果を見てくるだけだ」
「結果ったって……あたしも行くッ」
どうすりゃいいんだ。こいつはただの一般人。巻き込まれたら無傷でいられるはずがない。
しかし、どれだけ言葉を尽くした所で納得してネリウの元へ行く気はなさそうだ。
「大井手が怒るぞ?」
「それでも、あいつの無事を知っときてぇし」
……ああ、もう。
「来るなら来ていいけど、遠くで見るだけだからな」
「ああ。あたしだって死ぬ気はねぇし。……守って、くれンだろ」
頬を赤らめて言う手塚。
そんな顔で言われると、無碍に断ることなどできなかった。
俺たちは互いに頷き走り出した。
大丈夫、いざとなったら俺が守ればいいだけだ。
俺が……変身して……
そして、俺は嫌われるのだろう。
けど……
隣を走る手塚を見る。
何も知らずに俺に好意を寄せる女性だ。
まさか自分が女性に惚れられるとは思っていなかったからどう接したらいいのか困る。
それでも、彼女が傷付くのは、見たくなかった。
俺は少しだけ、覚悟を決めた。




