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特別編・ある女生徒の冒険4

 皆の衆、息災であるか?

 田中ナナシ……ではなくヌェルティス・フォン・フォルクスワーエンである。

 クラスメイトがついに揃ったようだ。


 少し前、儂とシャオはウザ男と別れて二人、クラスメイト達に紛れながら機会を窺っておった。

 当然、内部から敵対する者に加勢する機会である。


 結果、それは訪れなかった。

 確かに、本隊とでも呼べるクラスメイトの一団がやってきたのだ。

 その中には皆の前で変身してのけたツワモノ、魔法少女グラビ……なんだっけ? まあ名称などどうでもよい。


 魔法少女と戦隊ヒーローのレッドが儂らをこの世界に飛ばした原因である山田らと共に現れたのである。

 しかし、彼らの作戦は失敗したらしい。


 それは何故か。

 簡単だ。

 この部屋に強制沈黙。またの名を魔法無効化システム。これが作動しておったせいである。


 姿を隠して見えていた数の倍ぐらいの数でやってきた彼らだったが、部屋に入った瞬間、隠蔽魔法が解除され、魔法少女と山田、後三人の女生徒が出現していた。


 さすがに驚きのあまり隙を見せた蛇男であったが、彼らが変身をするなど攻撃態勢に入るまでには蛇男も体制を整えていた。

 というか、普通に人質を取りおったぞあのクソ怪人め。


 悔しいかな。儂も魔法に類する能力が幾つかあったようで、かなり制限が掛かっておる。

 蝙蝠化や霧化が出来ないのは地味に痛い。

 ピンチの時に一人だけ逃げる算段もしておったのに無駄になってしまったではないか。

 それでもまぁ、戦闘員一体くらいなら倒せるわけではあるが、この場にいる戦闘員は五体。


 一体倒した所で……いや、シャオのヤツも同時に動くだろうから計二体か。それでもクラスメイトの誰かが犠牲になるかもしれない以上、無理に行動する訳にはいかない。

 せめて後四人、戦闘員を無効化できる人物がいればあるいは……


「シャオよ。どうだ?」


「無理だな。河上も大井手も手が出せない状態だ。隙を作れば奴らも動くだろうから……あと二体、何とか出来れば、だな」


 言われて魔法少女とレッドを見る。

 即座に動いた戦闘員たちに人質を取られて動けないでいるようだ。

 確かに、儂らが影から二体の戦闘員を葬れば、さすがに驚くだろう。

 問題はそれを好機と捉えて戦闘員に斬りかかれるかだ。


「なるほど、あの二人が……って、魔法少女は魔法が使えない状態だぞ」


「部屋さえ出ればいかようにもできよう? その辺りは奴らに任せればいい。その前に、やはり二人、戦闘員を同時に倒せる猛者がいるな。最悪私が二体受け持つ。それでも足りんがな」


 打つ手なしか。地獄の細胞とやらが手伝ってくれるのならあるいはと思うが、改造人間であるらしいし、悪の手先である以上、こちらの味方はしないと見ていいだろう。

 運よく儂らのような普通ではない学生が二人いればいいのだが……


「二人、いればいいのか?」


 不意に、ささやき声が聞こえた。

 誰かと思って見てみると、少し影のある男と、おかっぱ頭の少女が近寄ってきた。


「御影……と伊吹だったか?」


 シャオのヤツはクラスメイト全員の名前でも覚えておるのか?

 男の方が御影でおかっぱが伊吹か。

 御影の方は何かしそうな雰囲気はあるが、伊吹の能面のような顔を見ていると、こいつが居た所で意味があるのかと思えてしまう。


「戦闘員を同時に倒す。私とナナシで二体、河上たちが混乱に乗じれば一体倒せる。残りは二体だ」


「なるほど。ならば丁度いい。俺も協力しよう。伊吹、お前はどうする?」


「同意」


 御影の質問に言葉少なに頷く伊吹。どこから取り出したのか、湯気の立っていないお茶をすする。

 わざわざ湯のみに入れられた緑茶のようだ。湯のみに大きく描かれた【ゆ】の文字と彼女の態度が相まって無性にイラっとくる。


 本当に任せて大丈夫なのだろうなこいつ?

 というか、こいつらも人外の生命体なのか?

 ホント、多いなこのクラス。


 軽い打ち合わせで誰がどの戦闘員を仕留めるか相談していると、蛇男が儂らを数え始める。

 そして、全員が揃ったことを確認したらしく、高笑いを始めていた。

 これから、地獄の細胞とやらが暴かれるかもしれない。

 だが、その前に……


「行くぞッ」


 シャオの言葉を皮きりに、儂らは即座に行動を開始した。

 クラスメイトの肉の壁で姿を隠しつつ人質を取っている戦闘員の元へと忍びよる。


 ウザ男の血を頂いたおかげでまだまだ十分に動ける。

 人には見えない速度で移動し、一体の戦闘員の後ろに回り込むと、その首根っこを鷲づかみ、全力で握り折る。

 べキャッと砕け折れる音と共に、戦闘員はすぐさま砂と化して消え去った。


 戦闘員の近くにいると発見されかねないので、倒すと同時にクラスメイトたちの中へと紛れ込む。

 他の奴らはどうした? と見てみると、三者三様、まさにただの一般人にはできない芸当で戦闘員を葬り去っていた。


 シャオは自慢の鎌を振り抜き、遠くから戦闘員の首を落としていた。

 周りにクラスメイトがひしめいておるというのに、あんなデカブツ振りまわして良く被害がでんな。


 御影の所ではキラキラときらめく糸が舞っていた。

 こちらも戦闘員の首が見えない程に細い糸で切り裂かれている。

 クッ、奴め、儂より先に倒したというのか!?

 御影、出来るな。その名、覚えておくぞ。

 吸血鬼にして宵闇の覇者たる儂より素早い攻撃が出来るとはな素晴らしい奴め。……悔しくなんかないぞ。人間に負けたからって悔しくなんて……うぅ。これで勝ったと思うなよ――――ッ!!


 泣きそうになりながら伊吹の方を見ていると、丁度戦闘員を倒した所らしい。

 なぜか全身凍りついた戦闘員が、人質の後ろでガラガラと音を立てて崩れ去っていった。この戦闘員だけは、砂化せず、氷の塊が幾つも転がっている状態だった。


 戦闘員から解放された人質たちは、突然の出来事に戸惑いながらも、慌ててクラスメイトの中へ紛れ込んでいく。

 その中にはあのウザ男の姿もあった。

 あやつ、人質にされとったのか。

 なんて、なんて人質がしっくりくる奴なんだ。男のクセに助けてとかいうさまが囚われの姫みたいに決まっておったぞ。なんか悔しい。


 と、とにかくだ。

 これで四体。

 残りは一体。

 さぁ、舞台は整えたぞ正義の味方共ッ。

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