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女子風呂決死隊・結成編

 部屋に五人の人間が揃った。

 円卓に椅子を並べて座り、ネリウ、大井手、手塚、河上、そして俺の順に座る。


「とりあえず、生還おめでとう河上君」


「お、おう」


 ネリウの言葉に河上が照れ笑い。

 爽やかさのある笑みは見ていて怒りを誘う。

 クソ、イケメンはどんな顔でもいい顔になりやがる。


「それと。無事、戻ってくれてよかったわ薬藻。ここは俺に任せろとか死亡フラグ吐いてたから死んだと思っていたのに」


「なんか……残念そうだね」


 ネリウの表情はどう見ても嬉しさはない。

 むしろ死ねばよかったのに。という文字が浮かんでいるような程、残念感が顔に出ていた。

 多分わざとで、俺の反応を見て遊んでいるつもりなのだろうが、俺からすればヘコむだけだから止めてほしい。ほんと、魔女だよあいつ。


「そんなことないわ。クラスメイトが戻ってきてくれて嬉しいわよ。そいつに裸を見られたりしなければ。死んでれば良かったのに。なんて思ってないわよ。ええ、本当に」


 ま、まだ復讐し足りないというのかこの女。

 俺、人間に殺された初めての怪人になりそうだったのに。


「さて、それはともかく問題発生よ。よく聞いて」


 話を切り替えるようにネリウは卓上に地図を広げる。

 地図は見た事のない地名が書かれている。

 というか、地名が読めない。


「何コレ? 文字わかンねーし」


「この世界の地図よ。ついでにここが今いる所。名前とか言われても理解できないだろうから、とりあえず地形と赤い点を見て」


 なるほど、言われてみれば地図の所々に赤い点が打たれている。

 他にも十二個程青い点が見受けられる。

 推測からして青はアンデッドスネイクの戦闘員と蛇男だろう。


「これがクラスメイトの反応。随分と散らばってるみたいね」


 ということは、この点の場所を探せばいい訳だ。


「兵士たちを向かわせたから、数日中には皆集まるわ」


 問題は、魔物などにクラスメイトが殺されたり辱められたりしていないことを祈るばかりだ。


「あの、蛇男たちは大丈夫なんですか?」


「青色の点がソレ。その辺りには近づかないように」


 やっぱりか。

 ということは、青い点周辺には近づかなければ問題なさそうだ。

 近くに数個存在するが、固まっている訳ではないようだし、俺がその地点に向って各個撃破するのもありだな。


「なぁ……」


 俺が感心していると、河上が眉根を寄せて聞いてくる。


「どうした河上?」


「お前さ、俺らのクラス、何人か覚えてるか?」


「32人だろ? それがどうした?」


「赤い点、20もないぞ」


 えっ? とネリウ以外の全員が赤い点を探し出す。

 確かに足りない。


「大丈夫。重なって行動している人もいるから。赤い点はあくまで反応のあった場所」


 ああ、そうか。じゃあ何人かまとまってる奴らがいるのか。

 それは少し安心する。

 固まっているなら対策を打ちやすいはずだ。

 まぁ、集まってるクラスメイト次第ってこともあるが、無事であることを祈るばかりだ。


「今のところ死者は確認されてないわ。だから、後は兵士たちに任せて私たちは待っていればいい」


「なんだよ、せっかく活躍できるかと思ったのに」


 河上は残念そうに言うと席を立つ。


「俺の部屋はどうせ武藤と一緒だろ? どこだ」


「この部屋の二つ隣。こっち側だから」


 と、ネリウが指で指し示す。


「んじゃ、先に休ませてもらうわ」


 河上が出ていくと、ネリウも席を立つ。


「確かに話はもう終わり。二人とも、部屋に案内するから付いて来て」


 言われて大井手と手塚が席を立つ。

 三人揃って部屋を出ていく。

 かと思いきや、手塚が部屋を出る直前で振り返る。


「あ、あのさ……」


 少し口ごもり、何かを言いにくそうにしていたが、


「ありがとな……」


 消え入りそうな声で手早く答え、恥ずかしそうに頬を赤らめ出て行った。

 やだ、どうしよう。恋愛フラグが立っちゃったかも。

 思わず乙女言葉になりそうなほど驚いてしまった。

 口から出なくて良かった。


 しかし、意外だな初見はヤンキー系に見えたし、口調から遊びまくってそうな今時女子高生に見えたけど、助けられたお礼言うのに顔赤らめるとか、どこのゲームのヒロインだよっ。ってくらい俺の好感度は急上昇です。


「薬藻、まだいる?」


「はぉうっ!?」


 驚きが消えない間に再び声がかかり、俺は奇声を発していた。

 ドアが開きネリウがやってくる。


「どうしたんだよネリウ」


「聞いた? 河上君のこと」


「正義の味方って奴か?」


 ネリウはコクリと頷く。


「戦力としては予想以上の拾いものよ。本当に正義の味方だというのなら、あの蛇男への対策にもなるわ」


「ああ。一般人の大井手や手塚を危険な目に合わせなくて済みそうだ」


「ただ、問題もある。でしょ?」


 そう、正義の味方である以上、俺が秘密結社の怪人だと知られると、最悪同士討ちになりかねない。

 今はそういう場合じゃないと協力するならいいが、おそらく無理だろう。

 正義の味方って奴は自分の正義に忠実で、なかなか折れやしない。


 俺がクラスメイトを助ける為に協力を申し出た所で、「ふざけるな。貴様はそう言って俺を悪事に加担させる気だろう!」とか言って斬りかかって来るに決まってる。


「まぁ……な」


 ネリウは口ごもる俺を見て、口元を釣り上げる。


「同じ部屋で襲われないか、でしょ。攻めはどっち?」


「いや、違うだろっ?」


 予想外の言葉に一瞬思考が止まってしまった。


「男同士でくんずほぐれつなんて、まさに野獣。くらえおれのセント・ボルテージ。おのれ誠。薬藻、悪は滅びる運命なのだ、俺の熱いハートでお前を調教してやる。やめろー。なんてことに」


「ならねぇよっ?」


 思いの外腐女子系なのだろうか?


「シザーマンティスからよく逃げ切れたわね。使ったの?」


「……ああ。さすがに生身で勝てそうになかったからな」


 ノリをいきなり逸らされて、またも戸惑ってしまった俺。真剣モードに切り替えなんとか対応する。


「そう。じゃあ、アレに勝てるくらいの実力は期待していいのね」


「ああ。まぁな」


 顎に手をやって考え出すネリウ。

 何やら俺に何かさせる気らしい。

 冗談じゃない。面倒なことなら絶対断ってやる。


「それじゃ、今日はもう休むといいわ」


「ああ」


 俺の言葉を聞くと、満足そうにネリウが去って行く。

 俺が奴らの探す改造人間だと気付かれないよう気を付けないと。

 河上にマジ抹殺されかねん。




 与えられた寝室は、ベットが左右に置かれた簡素な造りの部屋だった。

 入口の前には窓が一つ。

 それ以外は石造りの壁で、床も似たような材質の石を削って作ってあるので、少しでこぼこしている。


 右端にあるベットには、河上が寝ころんでいる。

 どうやらシーツだけはあるようで、それを掛けているのだが、片膝を立てているので伸ばされた左足がシーツからはみ出ている。


 まぁ、そこまで寒いわけではないのでそれでも問題はないか。

 この世界が冬の季節とかじゃなくてよかったとついつい安堵した。

 暖房器具もないのに雪とか降ってきたらどうなるんだろう。

 暖房好きの現代っ子である俺には想像すらつかない。


 枕はないらしい。

 河上は両手を組んで枕の代わりにしていた。

 なるほど、靴は床に脱いどけばいいわけだ。


「おぅ、もう作戦会議終了か?」


「終了も何もお前が部屋から出た時点でお開きだ」


「時間的にそんなもんか。ああ、俺、こっち貰うけどいいだろ?」


「ああ。好きにしてくれ」


 右のベットに寝ころぶ河上を流し見ながら左のベットへ。


「で? お前、誰狙い?」


 いきなり、河上は意味不明のことを言って来た。

 まさか、既に俺が改造人間だとバレている!?

 組織の命令で誰を狙おうとしてこのクラスに溶け込んでいるか聞いているのか? い、いや、さすがにそれはないか。


「ほら、山田……じゃなくてネリウだっけか。ちょっと冷めた感じの魔法使い少女。大井手は顔はまぁアレだけど性格は大人しいし、良妻賢母って感じじゃね? 後、手塚の奴は口は悪ぃがほら、あの身の丈に合わない制服から指だけ出てるのがまたなんとも。思わず抱きしめてやりたくならね? 胸も凶器だぜアレ。あーちゅっちゅしてぇっ」


 シーツを抱きしめ唇を蛸のようにする河上。

 なんていうか、かなりのエロ男だこいつ。


「そういや、ここって風呂とかないのかな?」


 ふと、夕方の戦闘員との戦いで汗をかいたことを思い出し、風呂に入りたいと思った。

 ソレをそのまま口に出すと、河上が意外な反応。


「……風呂? そういえばっ!! おい武藤、行くぞ、楽園が待ってる!」


 なぜかテンション上げて立ち上がる河上。

 乱暴にドアを開いて出て行ってしまった。

 どこへなりと勝手に行ってくれ。


「あら? 河上君? え? 風呂?」


 ああ、壁越しにネリウの声が聞こえてくる。

 あいつ、本気で風呂のこと聞いてるし。


「あるわよ? ええ。男女別ではないけど」


 男女別ではない……混浴っ!?

 思わず飛び上がってしまった。

 そうか、これが河上の期待していたことか!?


「これから女子が使うから、男子はその後にして」


 これから……女子が、使う。だと!?

 これか、河上が狙っていたのはこれなのか!?


 少しして、河上がホクホク顔で戻ってくる。

 俺と目が合うとしたり顔で親指を立てて見せた。

 まるで、お前も来るだろ相棒? とでも言っているようだ。


 ああ、すぐ行くぜ。相棒!

 俺はすぐさま河上に合流し、がしりと手を結び合う。

 俺たちは今、最高の友人を手に入れた。

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