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紫電の剣士  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
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四、三叉路(26)

 東の空が既に白みはじめる頃合。薄っすらとした光が、茂みに陰影を生み出していく。

 進路は再び南東――フォーレーン王国にとっていた。

 焦げるような熱風は、もうない。山のひと並みを越え、規則正しく大地に刻まれていた足音が、ふいに緩む。

 セリオの紅い瞳が、つと隣を歩くクリスに向けられた。クリスもまた、彼女に浅く頷き返す。

 ――茂みに、人の気配がある、と。

 半歩後ろを歩いていたフォルクルスを一瞥し、セリオの足音が今度は徐々に早まる。クリスも意識を澄ましながら、それに続いた。青年はそんな二人にやや怪訝な顔をするも、長身の彼にとっては小柄なセリオの歩幅が上がったところで、大差ない。気に留める様子もなく、二人の後ろを歩く。

(……ついてきやがる、か)

 茂みの中に感じた僅かな気配もまた、三人から一定の距離を置いて動く。こちらが速度を上げればそれに伴い、反対に足を緩めればやはり同じように、ゆったりとそれは動いた。

 茂みの中にいる――それだけは伺える、が。

 気配はほんの僅かな風に混じって届くのみで、相手の居場所を特定するまでには至らない。黒いローブ姿がち、と舌打ちを漏らした。

(野盗、の類でないことは確か――だな)

 四天たる彼女でさえ気配を読みきれないとなると、相手は相当の腕前ということになる。クリスは平静を保ちながらも、そっと左手を剣の柄に添えた。

 そうして、静まり返った中に、ただ足音だけが不規則に響く。やがて少し道が広がったところで――先に痺れを切らしたセリオの足が、ぴたり、止まった。

「おい、こそこそしてねぇでとっとと出てきやがれ。

 ――鬼ごっこで遊んでる程、暇じゃねぇんだよ」

 苛立ちを隠そうともしない少女の声が、辺りに木霊する。その傍らでクリスが剣に手をかけ、フォルクルスは弓を番えていた。

「……へえ、弓を扱うのか」

 神子一族――白い神の末裔。てっきり魔法でも使うのかと思ったが、と、クリスは言外に含ませ、軽く笑む。ただし、視線と意識は茂みへ澄ましたままで。

 すとん。

 三人の立っていた、丁度その中間。聳える木々の間から人影がひとつ落ち、その姿を現した。

 クリスは思わず、驚きに紫紺の瞳を見開く。

 青い髪がふわりと、肩へ。細身の体躯をすっぽり覆う外套からは、包帯と魔力晶石のアミュレットが覗いていた。

 そう。

 彼女が見たものは、青い髪の暗殺者――彼女をフォーレーン王城から逃亡させ、パニッシャーに引き入れた張本人の姿だった。

「け、随分と耳が早いじゃねぇか。あのボロ小屋から俺達を尾けてやがったか?」

 ――パニッシャーの『どちら』にせよ、今すべきことは同じ。

 に、と八重歯を見せて虚空に手を掲げるセリオ。ばちん、と黒い稲妻が吠える。それを合図にして、フォルクルスは弓を引き絞り――クリスは、剣を抜き飛び出していた。

 え、と。微かな声が彼女の耳に届く。

 剣圧がぶん、と唸り、そして――

「わああぁぁぁッッ!!!!ち――ちょ、ちょっとタンマ!!!」

「……えっ!?」

 確かな手応え。クリスの一閃はそこでぴたりと止まったものの、投げつけられた青いものを見事に寸断していた。

 足元には真っ二つになった青いかつらが、ゆらゆらと転がっている。

「そん、な……

 ……どう、して……君が、ッ!!!」

 今度こそ本当に、クリスは驚愕の叫びをあげていた。

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