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紫電の剣士  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
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四、三叉路(24)

 鬱蒼とした森を往く三つの足音は、不意に現れた違和感に遮られる。

 セリオは眉を潜め、抑揚のない声で問いかけた。

「…………何の用だ?」

 言葉は森の中の一点へと向けられているが、意識は掌から外すことはなく。ばちん、と、混沌の欠片が跳ねる音。

 さく、さく……さく。

 静かに草が啼き、現れたのはひとつのローブ姿。面差しは少年のそれだった。碧色の髪を長く結い、瞳はセリオと同じく、真紅。幼い容貌に似合わぬ強い光が、そこに静かに宿っていた。

 少年はついと視線をセリオ――そして、傍らで剣に手をかけるクリスと、その後ろで警戒するフォルクルスに向ける。

「白い髪……では、貴方が……。

 彼等が神子まで連れ出したというのは、本当だったようですね」

 はふ、と短い溜め息。そうして、そこから総てを悟ったかのように瞑目、やがてひとつ頷いた。

「これが――セリオさんの出した『答え』なんですね」

 いやに落ち着いた声で、少年――パニッシャーの若頭ディックは、それだけを告げ。疑問系の色はない。ただ、それだけ、確かめるように。

 ああ――と、端的な返事。ディックは寂しげに微笑むと、小屋の方角へと一歩、踏み出した。

 ――『セリオさんは、これからどうするんですか?』

 それは、首領バラックが姿を消して一年が経った頃。もう彼は戻らないのではないかという噂が流れ、組織は変革を余儀なくされた。パニッシャーから姿を消した者も、少なくなかった。そんな中で、ディックは彼女に身の振り方を尋ねたのだ。

(あのときは……答えは貰えなかった、けど)

 あれから、もう二年になるだろうか。彼女は、自らの意志で答えを出した。

 ならば――もう、彼女をパニッシャーに留めるものはない。かつてひとつだった道は、既に分かたれた。三叉路はここではなく、来し方にあるのだと。そう、確信して。

 三人の背を抜けていく小柄な少年は、擦れ違いざまに、こう尋ねる。

「ひとつだけ訊きます。あの建物の中に……人は?」

 視線だけ、ついと向けた彼に、クリスはただ首を横に振った。

 すい、と。ディックの指が山小屋を指す。 

「早く……行ってください。間もなく、ここ一帯は火の海になります。

 ……僕、あの場所が凄く嫌いなんです」

 内緒ですよ?と、片目を瞑ってみせて。少年は指先に魔力を集める。ごうん、と、地響きに似た感覚が場を包んだ。

「――さようなら。クリスさん、……セリオさん。

 もう二度と、逢わないことを……願っています」

 鮮明に、そう告げる。

 同時に、ディックは両手に集めた光球を――忌まわしい建物目がけ、解き放った。

 どうううぅぅぅんっっ!!!!

 凄まじい轟音がつんざき、突風が黒煙を運ぶ。少年が最後に告げ残した言葉は、その中に掻き消えた。

「もし、次に逢うことがあれば。そのときは――

 僕はパニッシャーの頭目として、貴方達と戦います」

 僅か呟いたそれが、彼女達の耳に届いたかどうか――確かめる術は、既になかったけれど。

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