三、疑惑(20)
冷たい空気が通り抜けていく。この地下室は、思っていたより広いようだ。
「なぁ。……ちょっと待ってくれ」
先を行く二人を、フォルクルスが呼び止める。
どうした――と問いかけるセリオに、彼は暗闇を睨み据え、こう告げた。
「あっち。何だか……厭な感じがするんだ。
禍々しい『気』――俺がつけられてた魔導の鎖に似た……」
虚空を指差し、フォルクルスは声を潜める。
「なんだって?それは――、」
思わずセリオと顔を見合わせ、息を呑むクリス。白き神の血を引く彼の言葉は、与太話と片付ける訳にもいかず。どちらともなく頷き、青年へ視線を戻した。
「……行ってみよう。フォルクルス、案内してくれ」
「判った。……こっちだ」
どこまでが道なのかも判らない暗がりを、フォルクルスは小走りで進んでいく。後を追うように、二人はその背中を追った。
暗がりで距離感も時間も掴めず、どれだけ進んだかは判らない。ほんの僅かな距離にも、果てしない回廊にも思えて。
やがて、青年の足が停止した。その手は壁らしきものにぴったり吸い込まれる。
「……扉……か?」
「ああ、鍵がかかってるみたいだ」
フォルクルスの返事にセリオは彼を押し退け、ちいさなピンを手に取る。彼女はおもむろにそれを鍵穴へ差し込むと、難なく開錠してみせた。
「へぇ、すっげぇ!器用だなー」
瞳を大きく見開いて、子供のように驚きを表現するフォルクルス。
「それじゃあ、行こうか」
一歩踏み出し、クリスはぎぃ、と扉を開ける。
そこには――目を疑うような光景が待ち受けていた。