表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫電の剣士  作者: 鷹峰悠月&若臣シュウ
20/34

三、疑惑(16)

 月灯りに、森がさわさわとざわめく。それは静かな夜に玄妙さを醸し出していた。

「ち、漸く帰って来られたぜ。あの連中、梃子摺てこずらせやがって」

 森の合間にアジトを捉えると、セリオは苛立たしげに大股で進んでいく。しかし小柄な彼女の歩幅では、クリスとの距離がさほどひろがることはなかった。

「セリオ。怪我をしているんだから、ゆっくり歩いた方が……」

 そんな背中に呼びかけるクリスの口調は、あくまで穏やかなものだ。彼女は仕方ないな――と零し、セリオの歩調に合わせて歩く。

 と、不意にセリオの足が止まった。

「セリオ?」

「……おい、クリス。あれ」

 折れそうに細い指が、何かを指し示す。森の中に、異質な輪郭――山小屋だろうか。そこから、人らしきものが出て行くところだった。

「あのマントは……木こり、じゃなさそうだな」

 セリオの表情が険しくなる。彼女は物陰に隠れ、宿舎へ向かうその影が通り過ぎるのを待った。

 人影が近くを通り過ぎる際、その顔がランプに照らし出される。

「あの野郎……!間違いねぇ、ゴルダムの腰巾着だ」

「ゴルダム?」

 聞き覚えのない名前に、クリスは首を傾げた。

「御館様のいねぇ隙に、パニッシャーの親分顔してやがる顔も性根も腐った野郎だ」

 幹部たる少女の口から語られたのは、パニッシャーを義賊からただの暗殺組織に変えんとしている人物のこと。セリオは忌々しげに、男の去った方角を睨む。

「あの男はその部下ってことか。

 にしても、こんな場所で一体何を……?」

「さぁな。だが――厭な予感がする。

 出発の前、あの辺りで灯りが見えた気がしたんだが……見間違いじゃなかったかもな」

 二人の視線は、男が出てきた建物に注がれた。どちらともなく顔を見合わせ、ひとつ頷く。次には、よっつの靴がその小屋へ吸い込まれていた。


 埃の多さに、思わず咳き込む。クリスはきょろ、と周囲を見回した。

「何もない……な」

 生活感どころか、窓も、机も、棚も、道具も、暖炉も。明らかに不自然な程、そこには何もなかった。

「これは――」

 セリオはしゃがみ込み、床を叩きはじめる。暫くそうしていたが、ある一点で停止し、クリスを手招いた。

「まさか、隠し通路?」

「かもな。よっ、……と」

 がこん、と床の板材が一箇所だけ外れる。そこには黒い穴がぽっかりと空いていた。セリオは銅貨を一枚取り出すと、それを穴の中へ静かに放り落とす。

 ……………………こん。

 銅貨がセリオの指を離れてから音がするまでの時間を考慮すると、二メートル程度といったところか。クリスはそう判断し、先行する旨を告げると穴へ飛び込んだ。

「クリス、どうだ?」

「暗くてよく判らないけど……何か見える」

 降ってくる声に、目を凝らすクリス。やがてセリオも降りてきたのを確認すると、行こう、と合図した。

 歩く度、床がきゅ、きゅ、と厭な音を立てて軋む。 

「……また来たのか。何の用だ?」

 突然の声に、驚いて周囲を見回す。そこに動くものを見つけ、二人は駆け出した。

「こんな場所に、どうして牢獄が――」

 眉を潜め、クリスは鉄格子を掴む。牢の中にいたのは、細身の青年だった。

「お前さん達は……さっきの連中の仲間じゃないのか?」

「――生憎、あんな顔も根性も悪い仲間はいねぇな」

 青年にそう問われ、セリオはしんそこ心外そうに吐き捨てた。

「セリオだ。

 貴様こそ何者だ?何がどうして、ゴルダムの腰巾着なんかに捕まってやがる」

「セリオ……か。俺はフォルクルス。

 ……まあ、姉上の仇を倒す為に、仕方なく協力してるってとこだな」

 ――『姉上』。

 偶然だろうか。アジトで見た夢のことが頭を過ぎる。

「僕はクリス。

 協力……という割には、牢に入れるなんて随分と物騒だが。彼等にも、君と共通の敵がいるということかな」

「そういうことさ。

 姉上の仇討ちをしようにも、俺ひとりじゃ手立てがないからな」

 フォルクルスは俯き、眉間を寄せる。

「厄介な相手ってことか。それなら可笑しくねぇな」

 相手が大物であれば、そこに義があるか否かはともかく、パニッシャーに依頼がある可能性は高い。

「ああ。姉上を殺した男――フォーレーン王子ウェルティクスを、俺は絶対に許さない!」

「なんだって!?」

 青年の口から紡がれた名前に、クリスは思わず声を荒げていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓ランキング参加中 気に入ったらぽちっとお願いします
アルファポリス(週1回)
NEWVEL
長編小説検索Wandering Network

ブログもだらだら更新中!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ