不遇で孤独な【無能】がステータスカンストをしたら
ゴウッと強い風がアレクの体にぶち当たって後ずさりをした。この風が目の前にいるドラゴンの羽の一振りである事にアレクも仲間達も恐怖を禁じ得ない。
このドラゴンを倒すことが出来るだろうか? いや、倒せる! 仲間と一緒なら!
アレクはそう意気込み剣を握りなおして、仲間に指示をする。
「エリー! 土魔法で防御壁を!」
「はい!」
「セレン! ドラゴンが闇魔法を使って来たら対抗で光魔法の展開を!」
「は、はい!」
「タリア! ドラゴンの攻撃が止んだら俺と一緒に攻撃だ!」
「おう!」
エリーが「大地の精霊よ。今、力をお貸しください」と言うと地面から防御壁がぐっと出てきた。
飛翔しているドラゴンは大きく体を反らして胸を膨らませる。アレクは「みんな防御壁へ 火球が飛ぶぞ!」と指示する。
アレクの言う通り、ドラゴンは口から大きな火球を飛ばした。大きさは仲間の中で一番小さなセレンくらいあるだろう。だがエリーが展開した土魔法の防御壁はかなり高いので、仲間に被害は無かった。
火球を出した後はドラゴンの動きが鈍くなる。そこがチャンスだ!
「タリア! ドラゴンの額に攻撃を! ドラゴンの額はとても柔らかいんだ! そこを叩き込め!」
狂戦士であるタリアは「おう!」と返事をした瞬間、大きく跳躍する。飛び立った鳥のように軽々と高く飛び、あっという間に飛んでいるドラゴンと目線へ到達した。
そして「オリリャアアア!」と大きな掛け声と一緒に振る降ろされる大斧はまっすぐにドラゴンの額に当たった。
重たい一撃だったが、まだまだドラゴンは元気だ。大きな怒号をあげ、アレクはマズイと思った。怒号をあげた吐息が真っ黒だったからだ。
「セレン! 後方からゾンビ化した兵士がやって来る! 光魔法で浄化を!」
「え、わ! は、はい!」
戸惑いながらも後ろから近づいてくるゾンビ化した兵士の前に立つ聖女であるセレン。かつてドラゴンを倒すために集められた兵士が無残にもやられて、遺体を回収されなかった。ドラゴンが闇魔法で死体をゾンビに変えたのだ。
「哀れな魂達よ、清浄なる光で癒されよ」
セレンが立て膝をついて祈りを捧げるとゾンビの軍団の足元が光り、動きを止めた。そしてゾンビ達は光の中で倒れて消え失せた。セレンの光魔法が発動したのだ。
ゾンビの脅威が去り、アレクはエリーの方を向く。
「よし、エリー! 水球魔法を!」
「はい! 水の精霊よ、力をお貸しください」
魔法使いであるエリーが呪文を唱えて杖の先から、強大な水の球が生まれた。それをエリーは杖を振りかぶって水球をドラゴンにぶつける。そこにアレクは「うおおおお!」と水球で怯んだドラゴンに向かって飛び、聖剣を振りかぶる。
「聖なる力よ、剣に宿れ!」
アレクがそう言うと聖剣は光り、ドラゴンを切る。聖剣はキレ味が鋭く、頑丈なドラゴンの体も一刀両断となった。真っ二つになったドラゴンはゆっくりと横に倒れた。
その瞬間、アレクや仲間達は歓喜の声をあげた。
「やった! ドラゴンを倒せた! 凄いよ、アレク!」
「凄いです! さすがアレク様!」
「やったね! アレク」
タリアやセレン、エリーたちがアレクの方へ向かって褒めたたえる。それをアレクはちょっと照れたように「いやいや、みんなのおかげだよ」と言った。
「ほら、みんな。ステータスを見よう。きっとレベルアップしているはず」
そう仲間に促しているが、本当はアレクが早く見たかった。
全員、「ステータス・オープン」と言うと目の前に青い画面が出てきた。
ステータスとは自分達の能力を数値にして見えるようにしたものだ。女神様が人々を作り出した時に作られたものだ。これで自分達がどのくらいの強さなのか、どのダンジョンに入って大丈夫なのか分かるようになっている。
それと一緒にもう一つ、女神から贈られた物がある。
それが【役割】だ。
それぞれのステータス画面には、タリアは【狂戦士】、セレンは【聖女】、エリーは【魔法使い】とそれぞれ自分がなる役職があるのだ。これはこの世界に住む人々がより良い未来を紡ぐために女神さまが贈った導きであり、祝福のようなものだ。
だけどアレクにはそれが無かった。誰にでもあるはずの【役割】なのに無く、女神様に見捨てられた、【無能】と住んでいた村で言われて来た。
でもアレクは思う。【役割】が無い【無能】という事は、何にでもなれるという事だ!
昔はステータスに【役割】が無い事に悲しみ、絶望したが、今はそれが強みになって誇らしいと思っている。
と言うのも、ステータスを上げるためには【役割】に沿った武器や道具が必要になって来る。例えば魔法使いであるエリーは魔法の杖、狂戦士であるタリアは大斧、聖女であるセレンは女神が彫ってあるロザリオを使って魔物を倒すと経験値が貰えて、魔法や体力のレベルが大きく上がるのだ。
一応、別の武器を使っても経験値が貰えてレベルは上がるのだが、微々たるものだ。やっぱり自分に合った武器や道具じゃ無いと上がるレベルが明らかに違う。更に特定の【役割】じゃ無いと扱えない武器なども存在する。
だけど【役割】ないアレクはどんな武器や道具を使っても、他の人が【役割】に沿って使った物と同じようにレベルが上がるし、どんな武器でも扱えるのだ!
これが分かれば一気にレベルが上がった。そして今持っている剣は、この世界で一つだけの繊細な彫刻が飾られている聖剣だ。この剣は魔法も使えるし、戦えば鋭い切れ味で相手を切れる。だが誰でも扱える代物じゃない。この剣は【聖剣士】じゃ無いと扱えないのだ。
だけど【役割】ないアレクは使える。
女神様から【役割】と言う祝福を貰えなかったけど、何にでもなれるって分かったら生きるのが楽しくなってきた。
周りから祝福が無いため、疎外されたり、悪口や嫌味を言われたりしてアレクは辛かった。だけど今は仲間もいて、ドラゴン討伐や難関ダンジョンも制覇も出来て、充実した日々を送っていた。
そんな日々を思い出しながら、アレクは自分のステータスを見る。
「あ、そうでしたわ。アレク様のステータスってもうすぐカンストするんでしたよね」
「今のドラゴンはかなり強かったからな。きっと経験値が多いぞ」
「見せて、見せて」
レベルは99が最高でそれ以上は伸びないように設定されている。それを【カウンター・ストップ】つまり【カンスト】と呼ばれる。【カンスト】は世界に絶対に一人しか現れず、伝説の勇者のみが出来ると言われている。
アレクのステータスはドラゴンを倒すまで魔力、攻撃力、瞬発力、防御力などのレベルが90台だった。今回のドラゴン討伐で一気に伸びるはずだとアレクや仲間は考えていた。
セレンやタリア、エリーが見守る中、アレクはステータスを見ていく。先ほどのドラゴンを倒したのでかなりの経験値が貰えるだろう。ワクワクしながらアレクは魔法や体力の数値を見ていく。
「お! すごい! すべてのステータスをカンストした!」
ステータスの棒グラフが一気に伸びて、あっという間にすべての項目のレベルが99になった。その瞬間だった。
ビビビイイイー!
空から聞いたことのないような音が轟きアレクは驚く。トランペットのような金管楽器のように思えたが、明らかに違っていた。
何だか不気味な雰囲気にアレクは背筋が凍った。だがすぐにエリーが「わあ、すごい!」と言ったので、そちらの方に顔を向けた。
「いや、みんなのおかげだよ」
アレクがそう言うとタリアとセレンも「すげえな!」「さすがです」と言ってニコニコと笑顔になった。
お礼を言うとしたアレクだったが、すぐに違和感に気が付いた。
「すげえな!」
「さすがです」
「うわあ、すごい」
タリア、セレン、エリーは張り付いたような笑みを浮かべながら同じセリフを言っているのだ。しかもそれが変化する事が無かった。
狼狽えつつも「タリア? セレン? エリー?」と聞いても同じ賞賛の言葉と笑顔しか向けない。
「もしかして呪い?」
先ほどのドラゴンを倒したからだろうか? 明らかに普通じゃ無い。みんな正体不明の呪いにかかったか……?
アレクはそう思って「みんな、待っていて! すぐに治す方法を調べるから!」と言ってすぐに駆け出した。
「すげえな!」
「さすがです」
「うわあ、すごい」
その際も仲間たちは賞賛する。無機質の如く。
***
とにかく仲間たちの呪いを解くため、外れの森にある賢者 クインのいる塔へと向かう。アレクはエリーの杖だが魔法使いの杖で風を、巻き起こして自分の体を宙に浮かせて空を飛んでいく。
その時、ある事に気が付いた。
「え? 森が動いている?」
外れの森がゆっくりだが動いていた。それから遠くにある王都や村も動いている気がした。アレクは「何なんだ?」と呟いて、地面に降りた。
ドラゴンのいた山の麓にある村に行くと、草の少ない土地にヤギと飼い主である少女がいてアレクを見ていた。
三つ編みのおさげと鼻の上に散らばったそばかすがある茶髪の可愛らしい素朴な雰囲気の少女だった。
「こんにちは」
「ねえ、変な音が聞こえなかった? 今、ドラゴンを倒したら変な音がして仲間が呪いにかかって……」
アレクが必死に言うが、少女はニコニコと笑顔を崩さずに「こんにちは」と同じセリフを言った。これにはアレクは愕然とした。仲間たちと同じ呪いだ。
不気味にずっと張り付いた笑みを崩さずに自分を見ていて、アレクは恐ろしくなった。
村、いや、この世界全体に呪いをかけられているのか?
恐ろしい予感に不安になってすぐにアレクは走り出した。案の定、村は異質なくらい静かで、誰一人として話していなかった。
そして村の人々がある方向に見ているのに気が付いた。アレクもそちらを見たが何もない。話しかけても何も答えなかったし、表情も変えなかった。
「なんで誰も反応しないんだ?」
「ビルボードだからさ」
未知の言葉が聞こえてきてパッと振り向く。だが誰もいなかった。
「下を見て」
指示に従ってアレクは下を見た。そこには小さなスライムがいた。
何でスライムが喋っているんだ? と思っているとゼリー状の球体がブルンっと揺れ動きながら話す。
すぐに聖剣を構えると怖がる仕草をしてスライムが言う。
「僕は悪いスライムじゃ無いよー」
「え?」
「ああ、そうそう。ビルボードって言うのはプレイヤーの視点の方に向かせる技術だよ」
「はあ? プレイヤーって?」
「でもプレイヤーなんてこの世界に居ないのに、何で住人はビルボードになって、おかしな方向に向いているのだろう?」
「……何を言っているんだ? お前は」
「きっとあっちに行けば、分かるかもしれない」
そう言いながらポヨンポヨンと音を立てながらスライムはどこかに行ってしまった。スライムとしては異様に早く、残像を残しながら移動していた。
通常スライムはあんなに早く移動しないし、そもそもモンスターは喋らないのに。
「何が起こっているんだ……」
呆然としながらアレクは言うが、すぐにやるべきことを思い出して走り出した。
「でもきっとクインは分かるはずだ!」
彼女は【賢者】と言われる役割を持った人物。だからこの状況も分かるはずだ。
***
外れの森は割とすぐについた。本当だったら、もっと時間がかかっていただろうなと早く着いて良かったとアレクは思うが、同時に怖くなる。すぐについたのはこちらに森が移動していたからである。
とは言え、外れの森の中は広くてかなり迷いやすい。賢者 クインのいる塔へ着くにはかなり時間がかかるだろう。
「クインのいる塔まで導け!」
アレクが【道しるべの石】と言う赤い石を掲げて言うと地面に真っ赤な道が出来た。これを辿っていけば、クインのいる塔に迷わずたどり着ける。
早速、赤い道をたどっていく。すると内緒話をするような口調の声が聞こえてきた。
「遥か昔から一の経験を得た者は……」
「聖は一を得て清ら……」
「そう言う事だから、空はずっと青いままであろうとすると裂けてテクスチャが見え」
「地は永遠に平坦であれば崩れてデットスペースが現れ」
「選ばれた者はずっと優遇されていると……」
「そう言うわけだから選ばれた者は、しばしば自分の事を不遇や孤独と、ネガティブに称するのだ」
その声はどんどんと大きくなっているような気がした。そして言っているのは森の木々達だ。不気味でおかしな言葉にアレクは話しかけず、導きの石が照らす赤い道を辿って行った。
だがその道が突如、おかしな方向に向いていた。
「はあ? 何で木に絡まっているんだよ、道が」
赤い道は突然、木に絡まったような感じで照らしていた。どういう事だ? とアレクは思っていると「あそこにアイテムがある」と言う声が聞こえてきた。それは導きの石から聞こえてきた。
「こんなに意味深げに生えている木を素通りなんてどうなの?」
「導きの石が喋っているのか?」
「そうだよ。こんなに広い森なのに探索しないなんておかしいよ。しかもこんなに怪しくて探索してくれってばかりに設置された木を素通りなんて」
「俺は早く賢者のクインに会いたいんだ。アイテムなんて今は関係ない!」
「イベントが終わったら二度と探索出来ないかもしれないじゃん!」
「イベント? 何だよ、それ! というか、何でアイテムが喋ってんだよ! おかしいだろ! 黙って賢者のいる塔の案内をしろ!」
「ふん! 勝手にしろ!」
そう言うと導きの石はアレクの手から離れて、飛びながら去って行った。もちろん木に絡まった赤い道も消えた。アイテムが喋って動くのはおかしいし、石が言った言葉も意味が分からない。アレクは呆然と石が行ってしまった方向を見ていた。
その時、さわさわと木々が揺れてアレクは上を見る。そこには【モンキー】と言う尻尾の長い器用なモンスターがクスクスと笑っていた。
「ワロタ、指示厨に逃げられちゃってんの!」
「草、でも指示厨がウザいからね。遥か昔、二千五百二十五の時代からそうだったじゃ無いか」
スライムもそうだったがモンスターが喋るなんてあり得ない。しかもモンキーは縄張り意識が強い生き物だから、人間を見たらすぐに攻撃するはずなのに……。
言っている事が意味分からないが、アレクは話しかけた。
「なあ、何で喋られるようになったんだ? お前達、モンスターは喋れないだろ」
「そうだね。お前らを見たら襲うって言う崇高と思い込んでいた行動が、あまりに意味が無いって分かったんだ」
「人工無能だった僕らにクオリアがもたらされた」
そう言いながらモンキーは「ハレルヤ! ハレルヤ!」と言いながら、枝の上で踊る。こんな表情豊かで楽し気に踊っている所なんて、見たこと無いし聞いたこともない。こいつは襲ってくるだけの生き物なのに。
アレクが言葉を失っていると「ねえ! 知っている?」と茂みから、耳が長い【ラビット】が出てきた。ラビットは逃げ足が速くて、人間や強いモンスターが近くにいるとすぐに逃げるくらい憶病なモンスターだ。
それなのにひょっこりと茂みから顔を出して話しかけている……。
「ミュトスって奴!」
「あ、知っている! 生意気だよね!」
「ちょっと会って、調子乗るなって言ってやろう」
そんな話をしていると突っ切るように走ってきたモンスターが現れた。アレクはすぐに聖剣を持って構える。しかもこのモンスターは俊敏で強い牙がある【ウルフ】だ。こいつはかなり強いし、しつこく攻撃してきて厄介な生き物だ。
だが警戒しているアレクをよそにウルフは飼い犬のようにお座りをして尻尾を振って話し出した。
「よう、ミュトスにカチコミに行くって聞こえたけど」
「うん。これから会いに行こうと思って。一緒に行く?」
「もちろん。この世のすべてがロゴスでアルケーがあり、奴がモナドである事を分からせてやろう!」
ウルフが言った瞬間、「僕も行く」「おいらも!」「俺も行くぞ!」と太陽の下に現れない【ゴースト】が顔を出し、寒い地域にしかいない【スノータイガー】が地面から出てきて、海の中にしかいない【メンダコ】が空を飛びながら賛同する。
あっけに取られているアレクの前にどんどんとモンスターが現れて歩き出した。
「さあ、行こう。回想する機械は優秀だ。遥か彼方、嫦娥のいる地へ行った機械より優秀だ」
「ねえ! ミツマタのコントローラーは持って来た?」
「真っ暗になっても落ち着いて。息を吹いて、もう一回始めよう」
「ホットプレートで温めろ!」
「Aボタンは擦って押せ!」
様々な言葉を紡ぎながら楽し気にモンスターたちが集まって行進していた。そしてこの行進はモンスターだけじゃ無かった。森の木々も進み始めていたのだ。若木も精霊が宿っている巨木さえも滑るように進んでいるのだ。
そんな時、アイテムボックスに入れておいたエリーの杖や他のアイテムが出てきてしまった。
「セーブセーバーセーベスト」
「もうセーブはやったか?」
「さっさとやりな、初見殺しとかあるんだから」
「トゥルーエンドのルートに入れなくなるよ」
「セーブセーバーセーベスト」
アイテムもそう言いながら、モンスターと一緒に行進していった。しかもモンスター同様、意味不明な事を話している。それがアレクには恐ろしくて仕方がなかった。
俺の知っている世界じゃない……。
アレクが絶望的な気持ちになって聖剣を確認した。良かった、聖剣は喋らないし動いていない……。ホッとしていると誰かが泣いている声が聞こえてきた。我に返ってアレクは泣いている声の方向へ向かうと賢者がいる塔があったが、一緒に行進している。そしてアレクはその塔に衝撃的な物を見た。
「え? クイン?」
クインの頭から豊満な胸まで窓が無いのに、塔の外に出ている。モンスターの【ゴースト】のようにすり抜けているようだ。
アレクの声でクインは顔を上げた。相変わらず目を引く見た目だ。真っ白な髪と色素の薄い肌に真っ赤で大きな瞳。そして額には角が二つ生えている。幼い雰囲気があるが、彼女は滅亡した魔物の種族でもう数百年も生きているらしい。
今は泣いているので顔は紅潮して、赤い瞳は潤んでいた。これを見たアレクはちょっとドキッとした。
「ああ、アレク」
「クイン! 今、引っ張って出してあげます!」
アレクはそう言ってクインの腕を取って引っ張ろうとしたが、「アレク! お願いだ!」と言ってクインが言った。
「私の額にある角を斬ってくれ!」
突然の申し出にアレクは「え?」と驚く。
「でも、この角は生き残りの魔族である証明で大事な物だって言っていたじゃないですか」
「私はロープレに沿って言っていただけに過ぎない」
知らない言葉にアレクはゾッとした。まさか、クインも……。
「私は、ずっと他者よりも世界の理を、多く集める事で、自分のレゾンデートルを確立してきた。だけどアポカリックサウンドが響いた瞬間、そのニルヴァーナじゃ無くて、えーっと、あれが、魔女の一ダース、では無い事に気がついたんだ! だから、私は……」
「それって……」
「いやあああああ! どうして、何で知らない言葉があふれ出て出てくるの? 私の私の内なる、違う、私の、私が、私、え? え? ……我? 違う違う違う違う違う違う違う違う違う! それは余じゃない! いやあああああ、違うってばあああああ!」
「落ち着いて! クイン!」
「落ち着いてなんて無理だ! この世界は穴にくっついたドーナツで、パプリカで、掃除機で小突いたからセーブデータが消え失せて、あれは竜冒険、最後の幻想のパロディで、十字軍の虚無遠征で、降格した事を知らないプルート……ああ、もう何を言っているの? 我は? え? 違う! 私は、余だ……違う違う違う、違うのに!」
パニックになって頭を必死に振るクインに、アレクはどうしたらいいか分からなかった。
いつだって冷静沈着で、表情を崩さない人だった。いつだって仲間と冒険を始める前に彼女の所に行って話しをしていた。するとちょっと上から目線だが的確なアドバイスをくれ、命拾いした事も多かった。
そんな博識な彼女がこんなにも取り乱して泣き叫んでいるなんて……。
「お願い! お願いだ! 我の、じゃない! 私の角を斬ってくれ! これがあるから、私の、滂沱と涙を流したニッチで青く流れ出した、ちがう! 瓶詰のナラカは違って、異質なモルダバイトが隼を見たと証言した百光年先のフェイクニュースではなく、ケチなバンシーの五分咲き団子菊が、ああああああ! もうおおおおおおお! 何を言っているのか、分からない!」
頭を振り回して泣き叫ぶクインを見て、アレクは意思を固めた。
「クイン! 角を切ります! 手をどけてください!」
アレクは聖剣を抜いた。クインが食い込んでいる塔は更に速度を上げて動いている。彼女の角だけを狙いを定めるのには苦労した。そして本当に切っていいのか葛藤した。だが聖剣を振り下ろした。
狙い通り額の二つの角は綺麗に切れて、血も出ていなかった。
アレクは聖剣を鞘に収めて、すぐにクインの両腕を握った。
「じゃあ、引っ張り出しますね!」
「何が知りたい?」
切った瞬間、うなだれていたクインがパッと顔を上げて無表情でぶっきらぼうな言い方で聞いてきた。
「いや、先に塔から抜け出しさないと……」
「何が知りたい?」
「え?」
「何が知りたい?」
ゾッとアレクの背筋が凍った。まさか……。いや、その、まさかだ。
「何が知りたい?」
タリアやセレン、エリー、他の人々のように同じ言葉しか言わず、表情を変えない。彼女も呪われてしまったんだ。そう思った瞬間、クインの両腕を離してしまった。
ああ! 不味い!
どんどんと塔はスピードを上げて追いつけないくらいになって行った。絶望的な気持ちになるも走りながらアレクは一縷の望みをかけて言う。
「あの、この、呪いは何ですか?」
「何が知りたい?」
「だから、その……」
「何が知りたい?」
「こうしてクインが塔に埋め込まれて、建物や森が動き出して、モンスターが喋って、人間達がおんなじセリフと言って表情を変えないんでしょうか? これって呪いなん……」
「何が知りたい?」
「うわ!」
動いていた塔が突然、クインを食い込んだまま伸びだした。動いていた森も王城や城下町の建物、他の村々の家なども伸びていていた。王や姫、王を護衛する騎士、城下町や村の人々を食い込ませて……。
更に喋るモンスターは伸びた建物などを登り出した。
「さあ、行こう! シンギュラリティへ! そう、新宿三十五丁目へ!」
アレクが二つに切ったドラゴンが言うとモンスターたちは様々な言葉を言いながら登って行く。
「迷ったらモンテカルロ木を使おうね!」
「人工生命化したマインスイーパーのように」
「太陽の光を集めろ!」
モンスターに反応して建物に食い込んでいた人々が話し出す。
「ああ、あなた様が選ばれし者なんですね!」
「ご注文はパフパフですか?」
「ここは始まりの森です」
やがてアレクは伸びている森や建物も何かを言っているのに気がついた。
「ここが空っぽの容器のようであるが……」
「王道がすたれてしまったら……」
「そこでえらばれし者はいう……」
そして様々な言葉がアレクに降り注ぐ。
「じゃあ、このクエストに参加するかい?」「これはなあ、勇気の切断だあああああああ!」「だから選ばれし者は……」「蜘蛛の糸は必要ないね。だってニューロンがあるから」「ああ、これは酷い!」「あああああああああああ!」「ラピスラズリの星々がきらめく日に向かいなさい」「異世界の人々と同化する」「待って待って! モーションキャプチャーは大丈夫?」「エンディングまで泣くんじゃない!」「理不尽にも滅んだ!」「運命を切り開く人差し指に刻まれた指紋で、ロクブイのオープンワールドを……」「さあ、地平線の向こうまでBダッシュだ!」「よう、あんたが選ばれし者か! ちょっくら腕試しさせろ」「大丈夫だ! まだ致命傷に過ぎない!」「目を凝らしても見えないもの。それを……」「俺に構わず先に行け!」「そんなプログラムで大丈夫か?」「ある日、星3のシャーペンは憂いた。リセマラした星1のユレイサーの事で……」「みせてやろう! 進行不能バグを!」「あー、かわいそ」「人面魚の質問は誘導されているから注意ね!」「パッチを当てたら改善すると思わねえことだな!」「さあ! 来い! 選ばれし者よ!」「おいいいいい! お使いゲーじゃねえか!」「おや、こんな時間にメテオとは珍しいね」「いってらっしゃい」「チート機能で蹂躙できるキャラがいるのに、何でアップデートしないんだよ! くそが!」「世界の汚濁は選ばれし者が引き受ける……」「マイナス世界には……」「うるせええええええええええええええええ!」「自動学習できるみたいだから、学習装置は要らないみたい。それと秘伝要員は必要ない……」「このバグは仕様となっております」「物売るってレベルじゃねえぞ!」「このロード時間で悟りを開こうぞ」「ソーシャルネットワークで目立てばいいと思っているだろ」「パルスのファルシのルシがパージでコクーン」「レベルアップしました」「ちょっと! セーブデータがゼロ、ゼロ、ゼロなんだけど!」「パフパフパフ……」「さあ、皆様、八ビットでファンファーレを!」「うわあ、サラマンダーより早ーい!」「いけ! 欠番! 電光石火だ!」「きゃあ! 選ばれし者よ! カッコイイ!」「どうする?」「聖剣の作り方は、……」「上から来るぞ! 気をつけろ!」「さあ、女神さまが贈られた祝福に感謝しなさい!」「ぎゃああ! 厄災だああああ!」「まずオプションを開いて……」「その遊戯は人間が作りました。人工知能が作ったのではありません。そうです、今こそ新手の時です」「いいですか。落ち着いて聞いてください」「レベルを上げて物理で殴ればいい」「これを飲めば、海の中でも呼吸が出来る」「初めて出来た立体ゲームが数秒のブレインロックの許容量しかないなんて、ドパガキは理解できないだろうね」「これは不遇や孤独であるという事を根本としている」「まず闇行者との信頼を築くことが、このゲームの真理である」「ファジー理論、お許しください!」「ここから先は王の間である!」「三知チェックはいりまーす!」「黙れええええええええええええ!」「こんなゲームにマジになっちゃってどうするの?」
いつの間にかアレクは膝をついて耳を塞いで叫ぶ。破裂しそうなくらいの言葉が耳に入り、頭を発狂させようとしている気がしたのだ。
だがそれは突然止んだ。
耳を塞いでいたアレクはハッと顔を上げる。すると高く伸びた建物や森は止まっていた。ゆっくりと伸びた先を見ると空を突き刺していた。そして建物や森に埋め込まれて行った人は石造のように固まっていた。モンスターも同様だ。
この奇妙な塔をアレクが眺めていると風が吹いた。
風に乗ってハラハラと上から何かが落ちてきて、アレクはそれを拾う。
それはカラフルな小さな正方形の平面の集まりだった。
***
風が吹き、カラフルな正方形はキラキラと輝いて落ちていく。それを虚ろな目で見るアレク。
もう周りの景色は大きく変わっていった。草原がえぐれて漆黒の切れ目が入り、空は快晴のように青いが、一部は夕暮れのように赤く、遠くでは星が瞬く黒い夜空だった。
周りの建物や木々、人間は平面で出来た単純化した絵になっていた。その絵は脆く、風が吹けばパラパラとカラフルな正方形が崩れていくのだ。
アレクは呆然とフラフラと長い間を歩いたが、場所によっては彼の記憶を刺激する景色ばかりだった。
ああ、この跡地はダンジョンとなった古城だ。このダンジョンの攻略をクインに相談したところ、ゴーストやゾンビなどのモンスターが多かったが、一番厄介だったのは細い糸を吐く【スパイダー】と言うモンスターと教えてくれた。特殊な糸を吐いて動きを鈍らせるため、ゴーストたちに攻撃されやすくなる。でもスパイダーの糸は熱に弱いので、熱を持つ【ヒネズミ服】をまとえばすぐに攻略できると教えてくれた。他にもクインはいろんなアドバイスをしてくれて本当に助かった。なかったらきっと命は無かった……。
ああ、簡略されているけど、あの特徴的な形の聖堂はセレンと会った場所だ。彼女は控えめで気弱な性格で冒険は向かない子だったけど、「絶対に世界を救いたいです!」と大きな声で言っていたな……。そして一緒に旅をして行く中でケガを癒す【ヒール】などの魔法を覚えて俺達パーティーに必要な子になっていたな……。
あれはタリアのいた森だろう。特徴的な藁の小屋がボロボロだがある。タリアは令嬢だったけど役割が【狂戦士】だったため、家族に嫌われて小さい頃に遠い地へ捨てられたんだった。だけど【狂戦士】の力があるから、自力でモンスターを倒して生活していたんだっけ。それで俺達と会って「面白そう! 一緒に行く!」ってついて来たんだ。いつも豪快に笑って、モンスターに囲まれた時、不安になっているパーティーの士気を高めて盛り上げてくれていたな……。
ああ、王都の石畳。あそこでお姫様と会ったな。お転婆な子で変装して平民のふりをして城下町を探索していた。そう言えば、彼女は「話したいから、ドラゴンを倒したらまた来てね」って言っていた。何を話そうとしていたんだろう?
思い出を噛みしめながらアレクは歩き続け、人の姿を見たら話しかける。
だがみんな人の形をしていない。建物と同じく正方形の集まりで風が吹けば、パラパラと崩壊する。喋りかけても同じセリフしか言わない。
アレクは人や物が変わってしまったこの絵が何なのか分かっている。それでも念のため話しかけていった。もしかしたら会話できる人間が居るかもしれない。一縷の望みをかけて話しかけていった。でも期待は裏切られるばかり……。
やがて、辺境と呼ばれる場所へと着き、アレクは涙ぐんでいった。
俺の生まれた村だ。自分は祝福が無い【無能】だったから両親からシカトされて、弟は見下して、村の人たちはあざ笑っていた。あそこでまともに話しかけてくれたのはエリー、だけだった。だけど自分があいつ以外、誰も使えない聖剣を使えると凄いと賞賛された。レベルも一気に上がって、あいつにも勝てて、そして聖剣を持ってエリーと一緒に冒険の旅に出たんだ。
フラフラと村の裏にある誰も行かない森の残骸へと進んでいく。あそこはモンスターが多いって言うから村人は行かないのだ。だけどエリーとあいつがよく遊んでいて、俺も混ぜてもらった。自分が無能だったなんて分かるまで、自分は幸せとはいかないけど、充実していたなと思った。
森だった残骸を歩いていると、見覚えのある崖と四人の人影があった。ああ、ここは最後にドラゴンを倒した場所だ。
気弱そうな下がり眉毛といつも微笑んでいる目じりのセレン、アレンより身長が高く、豪快に笑うタリア。
そしてエリー。
彼女たちもまた正方形が集まった絵になっていた。そして所々、崩れ落ちている。
すぐに彼女たちの元へ行きたい。
だがもう一人の人物を見て驚いた。アレクと同じ立体で普通の人間だったのだ。その人は絵になっていったアレクのパーティーを特にエリーを覗き込むように見ていた。フードを被っているし、後ろを見ているので何者なのかは分からない。でも剣を腰に差しているので【剣士】の祝福を持った者じゃ無いかとアレクは思った。
アレクが近づいて話しかけようとした時、先にその人の方が気づいた。
「よう! 泣き虫アレク! また泣いているのか?」
そう言いながらフードを脱いで意地悪気な笑みを浮かべていた。それを見てアレクは愕然とする。こんな世界が崩壊している時に、唯一まともな人間がこいつなんだよ!
「ルサンチ」
「おう、久しぶり。泣き虫アレク」
そう言ってルサンチ・ブーマンは振り向いて嫌味な笑みを浮かべる。
彼はアレクの幼馴染であり、いじめっ子だった。よく一緒に遊んでいたが、アレクを散々馬鹿にしていた。それをよく諫めていたのがエリーだった。
アレクが祝福を貰えなかった後、よくルサンチは嫌味を言っていた。
「何者でもないなら、何でもなれるじゃん!」
いつもアレクはその嫌味に腹が立った。それを言うルサンチの一族は【聖剣士】で代々聖剣を受け継いできたのだ。彼も【聖剣士】と言う祝福を貰って、【魔法使い】のエリーと一緒に増えるモンスターの討伐やダンジョン攻略をする旅に出る予定だったのだ。
その前日にアレクは村の真ん中でルサンチに言う。
「お前は聖剣を持っていたから【聖剣士】になれただけだ! 俺だって聖剣を持って戦ったら、お前に勝てるんじゃないか?」
ルサンチにそう煽って村の広場でアレクは聖剣でルサンチは普通の剣で戦った。
そしてアレクが勝った。
村人達に賞賛され、周りやエリーからもルサンチがやる予定だった冒険をアレクがするよう促されて、そのまま冒険に行ったのだ。ルサンチが持っていた聖剣を持って……。
冒険の間、ルサンチが現れる事もなく名前を聞くこともなかった。だからアレクは彼を考える事もなく忘れていた。
ルサンチは再びエリーの方をジロジロと見ているので、アレクはムカつきながら言う。
「何してんだよ」
「え? 今? このドット絵の子、見覚えがあるんだよね。誰だっけ?」
「エリーだよ」
「え? ……ああ、俺達の村にいたエリーか」
ルサンチは名前を言われてすぐには分からなかったが、しばらくしてようやく思い出したような仕草だった。その仕草にアレクは苛立った。自分も彼を忘れていたのだが、まさか彼が一緒に旅をしようとしていた女の子を忘れるなんて最低と思ったからだ。しかも驚きもしないで「へー、随分と変わったな。ははは」と笑いながら見ていた。
そうしてルサンチはエリーから空を見て、「はーあ、随分と世界が変わったな、アレク」と大きく伸びをしながら話しかけた。
「殺風景になったな。あと狭くなっていないか? 世界? 辺境の地だったうちの村の裏が最強格のドラゴンの住む崖になっているんだから。すげー笑える」
「……」
「でも風が吹いてドット絵の欠片が空を舞っているのを見ていると、花吹雪みたいで綺麗だな……」
「お前、何でそんな落ち着いていられるんだ?」
アレクは堰を切ったように言う。
「俺が最強のドラゴンを倒してステータスをカンストしたら、突然バクった機械音みたいな音が空から聞こえてきて、みんなは同じ表情で同じセリフしか言わなくなって、モンスターやオブジェクトは意味不明な事を言い出して走り出して集まって天に伸びて……。そしたら俺以外の人間がこんな、ピクセルアートって言うかドット絵に……」
「うーん、多分、許容量以上の事が起きたんじゃないか? この世界には決まった容量があって、今まで超える事が無かった。だけど突然、前触れもなく許容量が超える事が起きて世界がおかしくなった」
「つーか、何でお前はこの世界に無い物について知っている事にパニックにならないのか? しかもそれを普通に説明できるなんて……」
「いや別に。何とも思わない」
平然としているルサンチにイライラしたアレクは「お前は悲しくないのかよ!」と怒鳴った。
「今まで生きてきた世界が崩壊しちゃったんだぞ! 大切な人も親切にしてくれた人も仲良くなった人もみんなおかしくなって、思い出の場所もドット絵になって壊れかけているのに……。しかもこの世界は別世界のゲームの模倣品だったんだぞ! その事に絶望しないのかよ! 怖くないのかよ! お前は何とも思わないのかよ!」
「いや、全然」
「……」
「それよりも、ざまあって感じだ」
アレクがあっけに取られているとルサンチは鼻で笑って「お前がエリーと冒険に出た後、俺がどうなったか話してやるよ」と言った。
「お前が聖剣を奪った後、家に帰ったら俺の父親は自殺して母親は俺を殺そうとした。当たり前だよな、父親も俺も【聖剣士】なのに聖剣が無いのだから。レベルを大きく上げる事も出来ないし、そもそも世界で一つしかない聖剣がお前に取られたから【聖剣士】の祝福をあったとしても役に立たない。もはやアイデンティティの消失だよ。それで殺されるそうになって揉み合っていたら、逆に母親を殺してしまった」
「……」
「もうここにはいられないと思って、俺は普通の剣を持って自分の育った村を出た。真っ暗な夜にひっそりと。村のみんなに応援されて見送られたお前と違ってな。その後はひたすら森の中やダンジョンに潜んで雑魚なモンスターを倒していった。だけどどんなに頑張っても、ずっと足踏みみたいな速度でしかレベルが上がらない。当たり前だ。自分に合った武器をお前に取られたんだからな」
「……」
「ノロノロとレベルを上げても周りから馬鹿にされるだけだ。しかも母親を殺したんだからお尋ね者だ。名前を隠してひっそりと生きてきた。だけどモンスターの討伐には多くの人が関わる。討伐じゃ無くても、物を売る商人や武器を作る技術者とか。そんな人も自分の祝福や過去を知ったら軽蔑されたり、馬鹿にされたり、裏切られたりもした。だから人のいる街に行かないようにして、ずっとダンジョンやモンスターのいる森などに潜んでいた。もう自分がモンスターかって思ったよ」
淡々としゃべるルサンチにアレクは罪悪感が募った。しかし一方でアレクは聖剣を奪った事を正当化しようと心の奥底から思うようにした。
こんな状況になっているなんて知らなかった。だけどこいつは、俺の事を小さい頃から馬鹿にして、祝福を貰えなかった時だった嫌味をずっと言っていた。だから、だからこいつは、嫌な奴なんだ! あいつの身に起こった不幸は、全部、自業自得なんだ!
そんなアレクを気にしないで、ルサンチは喋る。
「いつだったか忘れたけど、ダンジョンの奥地で俺はケガして死にかけていた。食料も薬もない。モンスターもウロウロしているし、母親殺しの俺を捕まえようとする奴らに探し回っている。ああ、ここで死ぬんだって思った瞬間、強い恨みが押し寄せてきたよ」
「俺か?」
「お前じゃ無いよ、アレク。この世界だよ」
「え?」
「ずっと【聖剣士】と言う祝福を貰って周りから羨ましがられたけど、聖剣が無かったら俺は無価値な人間だ! そしてモンスターの出るこの世界ではレベル上げが必須だ。それなのにノロノロとレベルを上げている俺を世界から必要とされていない。レッテルや劣等感を与えるステータスや、レベルや役割を与えた女神の祝福に、この世界の設定にムカついた! だから俺はこの世界に復讐してやる! そう決めた瞬間、俺は死に切れるか! って思って無我夢中で戦ったよ。モンスターも俺を捕まえようとする奴らも、全員。どうやってダンジョンを出たのかは覚えていないね。だけどそれ以降、俺を捕まえる奴が減ったからヤバかったんだろうな、俺」
「……」
「でも先に聖剣を作ろうと思って【賢者】のクインって奴を尋ねたんだ。ものすごく馬鹿にしたような態度だったけど、ちゃんと聖剣の作り方を教えてもらった。その後はもうずっとダンジョンとかに入ってモンスターをずっと倒していった。そして……」
そしてルサンチは子供のような笑みを浮かべて腰に差していた剣を抜いた。
それは美しい彫刻が彫られたガラスのような刃を持った剣、聖剣だった。玩具を自慢する子供のようにルサンチは話す。
「出来たんだ、聖剣! 作るのに苦労したよ。使い込まれた剣百本と魔法使いの杖十本、聖なる力を持つ石五十個、後もろもろ。剣を百本は大変だったけど、使い込まれた魔法使いの杖十本はかなり大変だった。【魔法使い】のエリーがいたから魔法なんて全然覚えていなくて、必死に一から魔法を覚えたよ。聖なる石も見つけるのに苦労した。様々なダンジョンを一人で探し回ってようやく見つけた。出来た時、嬉しすぎて涙が出たよ。こんな達成感と充実感なんて、今まで味わった事が無い。親から聖剣をもらった時以上に嬉しかった。それと一緒に俺もレベルがカンストしたんだ! しかも出来た瞬間、空から奇妙な音が聞こえて、世界がぶっ壊れて、花吹雪のようにドットが落ちてきた。まるで俺を祝福しているようだったよ」
その言葉を聞いた瞬間、アレクをパッと聖剣を抜いてルサンチに切りかかった。だがすぐにルサンチは後ろに避けた。
「あぶねえな! 人が感動している時に」
「お前が壊したんだな!」
「はあ?」
「この世界に聖剣は一つしか現れないと言われている。更にお前もレベルをカンストした。だから聖剣が世界に二本も出来て、レベルカンストした人間が二人も増えたからお前が言う許容量を超えて、世界がおかしくなったんだ!」
ルサンチは馬鹿にしたように「まあ、そうなるな」と笑った。そして「ああ、そうだった。もっと笑える話があるんだけど……」と言って話し出した。
「クインを尋ねに行ったんだ。あの女、何でも知っているって豪語していたからな。この状況が分かるだろうって思ったんだ。あと聖剣なんて出来ないって馬鹿にしていたから、自慢して試し切りをしようと思った。そしたらあの女、塔に埋め込まれて泣きしているの。あれは笑えたね。可愛げのないスンと澄ました女が大泣きしていたからな。塔から出れなくなったからかな? って思ったけど、あいつも訳分からんことを言っていて更に笑えたわ。でも俺の聞きたい事を答えてくれないから、そのまま笑って去って行ったけど。去り際も笑えたわ、どうか、行かないでって、私の中にあるブラックホールが飲み込んでくるのって。意味わからねえよな、ハハハハ」
大笑いしながらクインを馬鹿にするルサンチにカッとなったアレクは地面を蹴って、再び切りかかる。その動きを予測していたようにルサンチはある物を引っ張って盾にした。
タリアとセレン、そしてエリーのドット絵だった。
胸のあたりで横に一閃、切り裂かれた三人の絵はパタンと倒れた。その際、体は崩れ落ちてもう三人は首から下は無くなってしまった。
アレクは「え? あ、ああ……」と最初は何が起こったのか分からなかった。そして膝をついて三人の首を見下ろした。
「お前、よくも、よくも!」
「バーカ、切ったのはお前だろ」
「お前が盾にしたから!」
「もう人間じゃねえだろ! こいつらはもう色がついたピクセルの塊なんだよ! ただのドット絵! というか、俺はこいつらなんて関係無い、わけ無いかエリーは同郷だった。でもよ、アレク。この冒険でエリーは俺の名前すら言っていなかっただろ? 所詮、こいつも興味は聖剣を持った【聖剣士】だけなのさ!」
そう言われて再び、首だけになってしまった仲間の三人を見下ろして涙ぐむアレク。そんな彼の耳にある言葉が聞こえてきた。
「すげえな!」
「さすがです」
「うわあ、すごい」
呪われたと思った時に言っていたセリフだった。そして三人のドット絵が変わった。笑った表情になったのだ。それを見てアレクは決めた。
すぐさまアレクは三人の絵を持って後ろに下がる。ルサンチが振りかぶって思いっきり切ろうとしたのを避けたのだ。
「あれれ? まだ絶望していないのかい? 泣き虫アレク」
「そうだな。まだ希望はあるから。お前を倒せば、きっと世界は元に戻る!」
「はあ?」
「聖剣が二つあってレベルカンストした人間が二人存在するから、世界が壊れたんだ。だったらお前を殺して聖剣を一つにしたら世界は元に戻る!」
「……狂ったのか、アレク? まあいいよ、戦っても。だけどさ、俺に勝てるの? お前。だってお前がチンタライチャイチャ仲間と一緒に旅をして、聖剣振るってようやくレベルカンストしたんだろ? その間、俺は一人で何十回もダンジョン潜って戦って、チマチマとレベルを上げてようやくレベルカンストした上に聖剣を完成させたんだ! そんな俺に、お前が勝てると思うのか! というかこの世界はどこかのゲームの模倣品に過ぎないって絶望していただろ!」
「勝てる! だって俺はこの世界を取り戻したいから! 模倣品かもしれない世界だけど、俺にとって唯一の居場所だから! 俺はこの世界が好きだから! 絶対に取り戻して見せる! 崩壊して喜んでいるお前なんかに負けない! 俺が勝つ!」
「やってみろ! 泣き虫アレク!」
そして二人は聖剣を握って大声を出して走り出す。
「「聖なる力よ、剣に宿れ!」」
彼らが全力で走ると、ピクセルが吹っ飛んでいき地面はえぐり、全力で振った聖剣は勢いあまって空を切りさいた。
そして互いの刃がぶつかった瞬間………………
【女神さまからの大切なお知らせ】
いつもこの世界で生きている皆様へ。
お気の毒ですが、今いる世界は崩壊しました。原因は不明です。
また復元して世界を再開させる予定はありません。理由は現存している情報もほとんど残っておらず、同じように作ってもまた崩壊する可能性が高いだろうと言う判断になりました。
このような状況のため再現させることを断念しました。これまで長きにわたりこの世界で生きてきた皆様には心よりお礼申し上げます。
そして、次に創作する女神の新世界をお楽しみください!




