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ある日の夜、清掃中にパソコンのモニターは消えていたが、本体自体が起動していることに気が付いた。あたしはこのままシャットダウンしてもいいのか判断できなかったので、モニターの電源を入れてみた。そこには英語のサイトが開いたままで、いくつかの数字が赤く点滅していた。誰が見ても違法カジノのサイトだとわかる画面だった。あたしはそのまますべての電源を落とした。誰が何をしていたのか、考えないようにしながら…。
それからしばらくして、よく来ていた銀行のいつもの担当者の顔を見なくなった。代わりに、見慣れない人たちが、昼間の経理部に出入りするようになった。机の上の書類が、いつもよりきれいに揃えられている。あたしは以前より仲が良かった島田に、それとなく訊ねてみた。
「島田係長、柳田課長に何かあったんですか?」
「えっ?あ、うん、まあね。ちょっと面倒なことがあってね…」
島田は右手を後頭部に持っていき、人差し指で搔きながら苦笑いを浮かべた。
月末、掲示板に一枚の紙片が貼られた。
告知
経理部課長 柳田征二
一身上の都合により退職
後任は当面置かず、経理部 部長 太田啓之が業務を引き継ぐこととする。
数日後、社員貯金の制度が廃止されるという知らせが全社員に社内メールで回覧された。理由は社会情勢の変化と事務負担の軽減ということだった。
しばらくしたある日の朝刊に、オンラインカジノについて、特集記事が注意喚起と共に掲載されていた。海外で合法的に運営されているカジノであっても、日本からそれに接続して賭博を行うことは犯罪行為になり、プロ野球の有名選手含めて、数名の一般人も逮捕されたとのことだった。そのなかに、無職 柳田征二(48歳)の名前があったことをあたしは見逃さなかった。
また、それから数日の後、大手銀行の銀行員が取引先の社員と共謀し、その社内預金の内、約1,500万円を横領したニュースも報じられたが、あたしがそれに気付くことはなかった。




