バスとカマキリ
バスはトンネルの中を走っていた。
ゆっくり、ゆっくり、走っていた。
ゆっくり、ゆっくり
ゆっくり、ゆっくり
ゆっくり、ゆっくり
「おばあちゃん、バスが停まったよ」
「そうかい、渋滞かねぇ」
「車がいっぱいいるの?」
「そうだろうねぇ」
子どもはバスから外を覗いた。
下はうっすら暗くなっていた。
すると、鋭い何かが見えた
緑の何かが見えた
「おばあちゃん、カマキリだ」
「カマキリかい、それは珍しいねぇ」
「カマキリって珍しいの?」
「トンネルでは、おばあちゃんは見たことないよ」
「そうなんだ」
「今日は良いことあるかもねぇ」
「そうだね」
子どもはバスから外を覗いた。
カマキリはバスの側をノロノロ歩いた。
子どもはカマキリに会いたくなった。
「おばあちゃん、カマキリに会いたいよぉ」
「おお、そうかいそうかい」
「でも、駄目だよねぇ」
「それは信二が一番分かってるだろうねぇ」
「うん、我慢する」
子どもはバスに貼りついた
カマキリはバスから離れていった
そして、バスは動き出した。
ゆっくり、ゆっくり
ゆっくり、ゆっくり
「あぁ、何か良いことあったらいいなぁ」
「大丈夫だよ、お天道様が見てるから」
「本当に?」
「うん、本当だよ」
ゆっくり、ゆっくり
ゆっくり、ゆっくり
そして、バスは停まった。
「また、渋滞かぁ」
「今日は長いねぇ」
「待つしかないよね」
すると、それは窓ガラスを上って来た。
鋭いカマ
スマートな身体
野生のカマキリだ
「おばあちゃん、カマキリだ」
「本当だねぇ」
「かっこいいね」
「そうだねぇ」
「本当、おばあちゃんの言ったとおりだ」
「うん?」
「待ってたらいいことあるね」
バスは動き出した。
ゆっくり、ゆっくり
ゆっくり、ゆっくり




