馬と猫
「なあ、一ノ瀬。年賀状、俺にくれよ!」
……何事?私は、前の席から身を乗り出してきた相原君を見た。今――
「えっ、年賀状?」
今時?メッセージでもなく?そもそも――『そんなに仲良くないよね?』その言葉をぐっと飲み込んだ。
「一ノ瀬さ、マンガ描いてるんだろ?マンガ」
「相原君っ!?し、しーっ!」
私は慌てた。休み時間でクラスは騒がしく、私達の会話に気づいた人はいない。
しかし、どうして。
どうしてそれを。
別にマンガなんて仰々しいものではない。うちの飼い猫を元にした、絵日記みたいなものだ。それを――
「ほら。『またたびん』センセイ、なんだろ?一ノ瀬って」
差し出されたスマホを見て血の気が引いた。SNSの、私の投稿アカウントだった。『フォロー中』とアイコン表示されている。
「知らない……知らないよ!」
「なんで隠すんだよ、面白いのに」
「えっ、面白い?」
そう言われて、私の顔が緩む。相原君はにたりと笑った。……もう言い逃れはできない。
「年賀状、もちろんこの猫も描くんだろ?」
「来年は午年だよ……?」
「なら、馬も。いやー。将来、高値がつくかもなー!?」
「……なにそれ」
お金目当て?ため息が出た。それはそうか。急に声をかけられて、そこからめくるめく恋なんて、起きるわけがない。まして私に。
「『またたびん』センセイと同級生――とは言えてもさ。大親友とは、証拠がないと言えないだろ?」
大親友……?プリントの受け渡し程度でしか、口もきいた事がないのに。まあ相原君にとっては、クラス全員大親友なんだろう。だから、ろくに話した事のない私ともこうして当たり前に会話を続けるんだ。
「俺も書くからさ!な?頼むよ、『またたびん』センセイ!」
「他の人に聞こえるから、言わないで!」
困った人だ。でも――つたない日記絵なのに、漫画家とか。有名とか。……当たり前の事みたいに笑って言ってくれる。
「……わかった。相原君。住所、教えて」
「やった!ええっと――」
※※※
「――なんであの時、言ってくれなかったの!?」
「フォローしてた俺のアカウント見せてたから、わかると思ってた」
『龍月院翔夜』先生――こと、相原君が笑っている。あの頃そのままに。
「ともかく。俺の受賞小説の挿絵、お願いしますよ。『またたびん』センセイ?」
コンテスト参加作品です。
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