戀時雨の名残
社に帰った水綺と鏡影は、ワオトの手でミサンガを解かれる。水綺はぼーっとその様を見つめていた。
「水綺?水綺?解いたよ?」
「あ、ありがとう。ワオトちゃん」
「疲れたなら、部屋に行って休んだ方がいい。今日は、もう終わり」
「…うん。そうする」
おやすみなさいと告げて部屋に戻った水綺は、そのままベッドに倒れ込む。そんな水綺に鏡影は声をかけた。
「ノロマ?」
「いや、なんか…つかれて…」
「……寝るのか?」
「…うん。ごめんね」
「……別に。おやすみ」
「ん。おやすみ」
そう言って水綺は瞼を閉じた。綻びの社はいつも静かで、優しい。だからこそ、その静けさが胸に刺さるほど痛かった。
水綺は、人の心が分からない。
『心配してくれんの?ありがとう。まぁ、しばらくは…無理かもしれんけど、大丈夫や』
叶わない恋も。悲しい願いも。共に歩めないと知りながら、それでも望んだ運命も。
『薫はほんま意地悪やけ。そこんとこも、好きなんやけど…』
願いはハッピーエンドで終わるべきなのに、こんな結末になるなんて。願いを叶えたはずなのに、誰も救われていない気がした。
『なぁ、あんたら薫の知り合いなんやろ?せやったら、さ………薫の姿、教えてくれへん?どんな顔しとった?どんな、色してた?………泣かせて、しまったやろか』
ちゃんと、見たかったなぁ……
薫さんが消えてから、光を取り戻してしまった目。その目に映るはずだった人は、もういない。
妖だから?
人だから?
運命はなんで二人を引き離すんだろう。当事者じゃないのに、願いの手助けをしたはずなのに。胸の奥に沈んだ感情に名前をつけることもできないまま。どうしてこんなにも、苦しいんだろう。




