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二つの願い


水に囲まれた水底織殿には庭がある。殿の内は白の絹ばかりで、庭もまた同じ白絹で織られている。けれど庭は望めばどんな景色でも映し出す。そんな不思議な庭だった。

水綺は庭の隅に腰を下ろし、今日も外の世界を映している。見習いの務めを終えれば自由時間。だが宮内には娯楽らしい娯楽はない。話し相手になれるのは同じ見習いの鏡影くらいで、他の者は依頼者が願わぬ限り眠りについている。出迎えに立つ狼も滅多に姿を現さない。


「わぁ…!」


だから、水綺は観る。白絹の外側、広い外の世界を。陽を浴びる石畳。そこを駆ける子ども。見慣れぬ乗り物に乗って楽しそうに笑う人々。自然の中で過ごす獣。水の中で泳ぐ魚。映像に音はない。匂いもない。それでも生きている。外の世界は水綺にとって新鮮で面白く、憧れに近いものだった。


「また外の世界を観てるのか?」


呆れを隠そうともしない声に水綺は振り返らない。


「自由時間だもん」

「毎回それだな。飽きねーの?」

「飽きないよ。だって知らないことばっかりだし。鏡影は興味ないの?」

「別に」

「つまんないの。普段は何して過ごしてるわけ?」

「なんでお前に言わなきゃいけないんだ。俺が何してようと勝手だろ」

「それ言っちゃうんだったら私の自由時間の過ごし方も口出ししないで」

「はいはい」


軽口を交わす最中、白絹がふわりと捲れた。水面のような揺らぎが広がる。糸で編まれた小さな亀が水を破るように姿を現す。


「あ、依頼だ」


水綺は立ち上がる。駆け寄ろうとしたその瞬間、もう一度水面が揺れた。重なる波紋。二匹目が姿を現す。


「え?」


庭に小さな亀が二匹並ぶ。願いの亀は一人に一匹。それが普通だった。なのに今回は二匹。水綺と鏡影は同時に顔を見合わせる。


「……なんで、二つ?」


鏡影は亀を手に取り、目を細めた。


「同じ場所で、二人が願ったんじゃねーの?」

「そんな奇跡ある?」

「知らねーよ。とりあえず準備だ。二人分だから何が起きるか分からない。お前トロいんだから早くしろよノロマ」

「一言余計!!」


水綺はもう一匹をそっと抱える。


「二人分ってことは、お姉様達も起きるかな」

「いや……担当はロゼイアだけだ」


鏡影の言葉に水綺は亀を観察する。記された名を見て、息を呑んだ。願いを叶える担当は、ロゼイア。二人の依頼者に、たった一人。それがどうなるか、水綺には分からなかった。


「どうなるかな」

「とりあえず準備。そんでロゼイアのとこに行くぞ」

「うん」


水綺と鏡影は庭を後にする。外を映していた庭が色を引いていく。色をなくした白絹の庭は静けさに包まれた。









準備を整えた水綺達はロゼイアの部屋の前に立つ。準備は万全。身だしなみ良し。水綺は小さく息を吸った。


「ロゼイア姉様!お迎えに上がりました!」


青薔薇の刺繍が施された絹が、するりと捲れる。現れたのは頭の先から爪先まで隙のないロゼイア。


「ごきげんよう。今日は、及第点ね。淹れたての紅茶の、出涸らしくらいかしら」

「分かりづらい」

「ロゼイア姉様、あの…」

「何よ。ハッキリ言いなさい」

「今回イレギュラーがあって、依頼先が二つになってます!」

「二つ?」


怪訝な目が向けられる。水綺は二匹の亀を差し出すと、ロゼイアはひとつ瞬きをして、ゆるやかに微笑んだ。


「あら、もしかして。あんた不安がっているの?」

「だって、今までなかったことだし…何が起きるか。ロゼイア姉様は不安じゃない?」

「不安?ワタクシが?随分と安く見られたものね」


カツン、と甲高くヒールが鳴る。


「何に怖気づく必要があって?あなたはあくまで裏方。衆目を浴びるのはこのワタクシ。役目を違えないで」


水綺と鏡影の間を颯爽と抜ける。鏡面が静かに波打ち、ロゼイアの姿を飲み込んだ。静寂の中、鏡面に向かって水綺はぽつりと呟く。


「カッコいい…」

「正気に戻れノロマ」



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