【第二章】「悪夢を越えて——新たな世界の始まり」
「——それで、話というのは…?」
スプリニス城、王接間。
レクアとクロトは、女王陛下に呼び出されていた。
「昨日、姉上がおっしゃっていた内容を、覚えていますか」
空気が一瞬で凍る。
忘れもしない、あの言葉——
『この通りよ。——この世界は、あと数年で滅ぶわ』
「その件について、私たちで看過できないと判断しました。よって——四国同盟を結ぶことを宣言します」
同盟。レクアには、その重さがまだよくわからなかった。
「そして私は、使者として——レクア、クロトの二名を任命します」
「……俺は隣国の国家警察だ。王政に関与する立場じゃない。それに彼女はただの市民だろう」
「え、ちょっと!? 今、聞き逃せないこと言ったよね!?」
「——では、あなたをセカンドバルコニーには帰せません。国家秘密を知ってしまいましたから」
「はあ!?俺にも俺の仕事があるんだ……」
クロトは頭を抱えた。
けれど——私は、彼に帰ってほしくなかった。
「——私、やります」
思わず立ち上がる。
「なんてことを…!」
「彼は奴隷商人です。そして私は、彼の奴隷。同行する理由には、十分です」
「……レクアなら、そう言ってくれると思っていました」
「ニアの分まで、俺が頑張りますね!」
馬車の中で、アレンが笑った。
ニアは今回の旅には連れて行かないらしい。少し残念だけど、それもきっと、ミローザの優しさなのだろう。
「本来なら海街まで直行する予定でしたが、市場通りを経由するルートを提案します。しばらく戻れませんし、土産を買って特別便で送るのも良いかと」
「良いですね。それでは、ルートを変更しましょう」
「で、できれば近くの料理屋で昼食を……な?な!? あそこ、美味しいんだよ!」
アレンが優秀すぎるためか、若干クロトがどうにかポジションを保とうと焦っている。
クロトが必死すぎて、少し笑ってしまう。
「じゃあ、私もそこで食べたいです!」
「——これ、すっごく美味しい!」「これもおいしい!」
「これはタジンという煮込み料理で、こっちはバスティラ、あっちはケフタってといって——」
「ずいぶん詳しいですね」
「……あ。俺、実はサマーレ生まれなんだ」
「この青いお茶は?」
「それはバタフライピー。レモンを入れると——」
「わっ、ピンクになった! 魔法みたい!」
「pHが……いや、やめとこ」
「ぴーえいち?」
ピーチ…桃かな?
そんなことを考えていると、クロトがふと立ち上がった。
「……俺、お手洗い行ってくる!」
逆方向に立ち去るクロトを、アレンが何やら感心したように見送った。
——そして戻ってきたクロトは、会計のことには何も触れず、
ただそっと唇に人差し指を当てた。
(……もしかして、お会計済ませてくれたの…?)
クロトは、イタズラっぽく笑った。
本当に、ずるい。
「予算は5リル……5リルまで……!」
私は葛藤していた。欲しいものが多すぎる。
「この香水瓶とか、あのハーヤメーヤの手拭いとかカルトゥーシュのこの金ピカな感じもかっこいいし、デーツの実は美味しかったし——えっ、なんで5リル縛りなの!?」
「……お気持ちはわかります。私も元王女でしたから……」
「だめですよ、お二人とも」
アレンがきっぱり言った。
これから旅はまだ続くのだから、節約も必要だ。
「そういえば、クロトは何も買わなかったよね。地元なのに、実家寄らないのかな?」
「……仲が良くないのかもしれませんね」
クロトは、何も話さない。
——私は、こんなにも彼のことを知りたいと思っているのに。
なのに、実際は……何も知らないんだ。
その不安は、ひっそりと胸の奥に沈んでいった。
ついに第二章開幕!
初めましての方も、今まで読んでくださった方も、本当ににありがとうございます!
今回はちょっと日常パートをメインに描いてみましたが、こっからが本番なので、次回話もお見逃しなく!!